全身全霊で音楽と向き合うのが大前提
──いまは一昨年発表された『PROMISED PLACE』で一段落ついたところですが、新たな創作アイディアは漠然とあるものなんですか。
OKI:今年のデビュー30周年、来年の結成35周年の節目はセットで考えていて、いまはそこをしっかりとやり遂げたいし、ビーツの歩んできた道程をきちんと検証しておきたい気持ちが強いです。自分たちのためにも、支えてきてくれたファンの人たちのためにも。こうして過去から現在に至るクロニクルを検証することはいまのバンドの状態がいいからこそできることだし、とてもありがたいことだと思っていて。望んでも誰しもができることじゃないし、バンドを元気にやれているうちはまずそれをしっかりとやり遂げたい。新たな創作モードが来るとすればおそらくその後でしょうね。まだ見ぬ景色がこの先どんなふうに現れてくるのか。それは自分自身や時代がどう転ぶのかにもよるだろうし、何が起こるかわからないですからね。自分のなかでは『遥か繋がる未来』からの三部作はまだまったくのリアルないまなんだけど、そういう重要な曲たちを今年の前半のツアーではあえてプレイしないわけですよ。4月からはデビュー初期の10年(1988年〜1997年)、夏にそれ以降の10年(1998年〜2007年)からの曲を厳選したツアーをやるので。直近の10年(2008年〜2018年)は秋冬ですからね。そんなイレギュラーなトライがやれる状況なんてそうそうあるわけじゃないし、せっかくやるなら徹底的にスペシャルな形で楽しみたいし、楽しませてやろうと思ってます。
──4月から始まるデビュー30周年ヒストリーTOUR VOL.1[1988-1997 SONGS]の開幕戦2DAYSは被り曲一切なしのセットリストで臨むというのがまた尋常ならざる気合いの入りようですね。
OKI:また俺が暴走気味なんですけど(笑)、セットリストを組んでみたら被り曲なしでいける感じになったので。それ以降のツアーもほぼ日替わりでバラエティ豊かにいけそうですしね。うちのメンバーはそんな俺の突飛なアイディアにもすぐに対応してくれるところが本当にすごいし、本気でありがたいです(笑)。
──となると、6月に新宿ロフトで行なわれるデビュー30周年メモリアルライブ『NAKED HEART ON THE WILD SIDE』のセットリストも期待せざるを得ませんね。
OKI:めちゃくちゃ期待してもらっていいと思います。いまいろいろと目論んでいるところだけど、2月の再現ライブ以上のヤバい内容になると思いますよ。全編アンコール曲みたいなキラー・チューンで固めることもできるし(笑)。逆にマニアックの極みをいくような曲をぶち込むようなことも、そういう面白さも俺自身好きだし。とにかくみんなに喜んでもらえることをやりたいですね。メモリアル・ライブのロフトはもちろん、今回のツアーは1本ずつのライブにテーマ性を持って臨みたいと思ってるし。その土地土地にまつわるエピソードが背景にある楽曲を取り入れるという面白さなんかもあるだろうし。
──今回のベスト・アルバムに収録された42曲のラインアップを改めて見て、どんなことを感じますか。
OKI:この曲たちのおかげでいままで生かしてもらってきたんだなぁ…という感じですかね。そのときどきで曲を書き上げてきた自分といまの自分ではとっくに細胞が入れ替わっているはずなんだけど、どの曲もいまの自分にも響くし、いまの時代に通じる普遍性もあって。いつのときもその時代その時代の自分たちなりにベストを尽くして、汗水垂らして懸命にやってきたことが刻み付けられているなぁと感じますね。
──ビーツの歌は聴き手を鼓舞させる熱を帯びた歌詞にとかく目が行きがちですが、30年分のクロニクルをまとめて聴くと、一貫したメロディの良さを再認識するんですよね。
OKI:ありがとうございます。ビーツは音楽なのでもちろんメロディあってこその話だし、このギター・サウンドがあってこそのバンドだし、他の誰とも似てないSEIZIのギターの音色(ねいろ)と、俺の声、言葉、詞、メロディ、そしてリズム隊が叩き出すバンドとしてのビート感というものが、ビーツがビーツとして存在する根幹たるものだと思います。
──そういえば、今回のベスト・アルバムのジャケットはSEIZIさんが大きくフィーチャーされていますが、これはどんな意図があるんですか。
OKI:これはね、今回はこれでいくというのはもう最初から直感的に決めてましたね。有無を言わせぬ一瞬を切り取ったソリッドなパワーがあって、ビーツというものの本質が伝わる。ギターがギャーンと鳴ってて、まるでビーツの音がジャケから聴こえてくるような。そして、この30何年の間ただの一度もブレることなくひたすら一貫してビーツの存在とそのギター・サウンドを支えてきてくれたSEIZIに対する感謝とリスペクトの気持ちも込めてですね。
──ところで、OKIさんにはコンポーザー、プロデューサー、パフォーマーといったさまざまな側面がありますけど、ご自身としてはボーカリスト、歌うたいであるという思いが強いですか。
OKI:いろんな側面というか、切り離して考えたことはないですけど、もしも自分が生まれついてこの声じゃなかったら違う人生だったかもしれないなぁと思うことはあると言えばあります。このざらついた声で生まれついたからこういう生き方をしているのかもしれないし、すべてが必然でリンクしている気がしますね。これで天使のような声だったらビーツみたいなバンドを組んでいたとは思えないですし(笑)。
──こうしてビーツの軌跡を回顧してみると、ワイルドサイドを果敢に行くタフネスを武器に波乱万丈を乗り越えてきた30年だったのを実感しますね。
OKI:まぁ、どんな仕事でも楽な稼業というのはないだろうし。俺たちは好き好んでこの音楽という仕事を選択しているわけだから。ただただ前へ進んでいくのみですよ。常にいつこれが最後になってもいいような覚悟を持って全身全霊で音楽と向き合うというのが大前提ですね。そこで聴いてくれる人たちの背中を押せるような歌をひとつでも多く届けていけたらいいなと思うし、ビーツの歌が彼ら彼女らのなかで同志のような存在になれたら嬉しいですね。