鬼退治にコウモリに北条政子に花咲か爺さんに諸行無常に小倉百人一首。なんのこっちゃいと思われるだろうが、これらはすべて指先ノハクの最新作『TAMAMONO』に収録された楽曲ごとのテーマであり、重厚に躍動するドラムとうねるようにドライブするベースとえげつない音を奔放に轟かせるギターとちょっとハスキーで清涼感溢れる歌が混ざり合うことで「和」をコンセプトにした奇天烈なオルタナ絵巻がめらめらと立ち昇るのだ。日本の歴史や風習や文化を女性ならではの視点で歌詞とメロディに盛り込むという前代未聞の荒技を手助けしたのは、規格外の音楽製造請負人にして名伯楽の中尾憲太郎。異端の才を有する両者の化学反応はガールズバンドの称号を拒否するような凄みのある荒くれサウンドを聴く限り、吉と出たと見ていいだろう。下北沢シェルターが主宰するレーベル「SHELTER UNITED」の再始動第1弾リリースに相応しい、その可憐なルックスからは想像できない奇抜で型破りなサウンドは、カテゴライズ不可な音楽を愛する僕らにとってまさに最高の「賜物」だ。(interview:椎名宗之)
シェルターでのライブは身の引き締まる思い
──みなさん期待のルーキーかと思いきや、意外とバンド歴が長いんですよね。
清水加奈(vo, g, key):去年の11月にシェルターで結成9周年ライブをやらせていただいて、今年でバンドを始めて10年目なんです。
木村順子(g, cho):もともとはみんな大学のサークルが一緒で。
清水:大学でそれぞれ別にコピーバンドをしてたんですけど、この2人(宮腰と竹内)が短大を卒業したり、私たちも3年生から就活が始まったりするタイミングで「コピーだけじゃなくてオリジナルもやりたいね」って私と木村が話したのがきっかけで始めたんです。
──ちなみに当時はどんなコピーをやっていたんですか。
清水:みんなバラバラで、私は東京事変とかですね。
木村:私はGO!GO!7188のコピバンをずっとやっていて、裕美子もそこでドラムを叩いて、たまにゆっこもベースを弾いてました。
宮腰侑子(ba, cho):私はマキシマム ザ ホルモンのコピーをやってました。ホルモンが弾きたくてベースを買って、サークルに入ったんです。
──前身バンドのRADITZ(ラディッツ)はどんなバンドだったんですか。
木村:ただただ暗いバンドでした(笑)。
清水:一時期はみんな服を真っ黒に揃えたりして。
宮腰:根本的にはいまとあまり変わってないと思うんですけど、当時はもっと内向的な感じでしたね。ライブでも客席を見なかったり。
──指先ノハクになってからはずいぶんと明るくなったそうですね。
木村:曲づくりの幅が広がったことが大きいですね。こういう曲をやっちゃダメとかがなくなって、いろんな曲をやるようになったのがプラスになったと思います。
──指先ノハクと改名したのはどんな理由で?
清水:そもそもRADITZは大学の先輩が付けてくれたバンド名で、誰も『ドラゴンボール』を見たことがなかったんですよ。
──ああ、サイヤ人のラディッツが由来なんですね。
清水:それに私たちは日本語の曲しかやってなかったので、アルファベット表記が自分たちっぽくないよね? って思ってたのもあって。それで日本語のバンド名にしたんです。
竹内裕美子(ds):みんなでよく音楽に合わせて指を歩かせて遊んでいて、「指先の拍」が由来なんです。
宮腰:2年くらいRADITZと名乗ってたんですけど、それまではサークルの延長線上みたいな感じだったんです。改名したことで仕切り直して攻めの姿勢に変わって、アルバムを全国流通したり、曲調の幅をどんどん広げていったり、突き進んでいる感じがあります。
──シェルターはみなさんにとってホームグラウンド的なライブハウスですか。
清水:そうですね。初めて出たのは4、5年前になります。名前を変えて1年くらい経ったときにシェルターの企画ではないイベントに出させていただいて。そのときはまだ義村(智秋)さんが店長じゃなく、ブッキングを専門でやっていたんですよね。
竹内:義村さんと初めて会ったときにメロコアの話をした記憶があります(笑)。
木村:スタッフのみなさんとは打ち上げで仲良くさせてもらうようになりました。
宮腰:去年1年間、シェルターで大事な企画をやらせてもらったんですけど、シェルターでライブをやるとなると身の引き締まる思いがしますね。老舗ですし、気合いが入るというか。
──その関わりのなかでシェルターのレーベルからリリースをしないかという話になって。
清水:はい、ありがたいことに。
宮腰:めちゃ嬉しかったですね。義村さんからいただいた話だし、ぜひご一緒したいと思って。
清水:下北沢でいちばん老舗で有名で、いちばん敷居の高いライブハウス=シェルターだと大学生のころは思ってましたからね。数年前に初めて出させてもらったときから思っていたんですけど、どのバンドでもシェルターでイベントができるとは限らないし、そんなライブハウスからリリースの話をいただいたときはすごく嬉しかったです。
──どんなところを見込まれたんだと思いますか。
宮腰:見た目だけじゃなくて、ちゃんと音楽を聴いて選んでくださったのではないかと思っているのですが、どうでしょう?(笑) 去年1年間のライブを見てもらったうえで判断してくださったのではないかなと。