「和」をテーマにした初のコンセプト・アルバム
──今回、新たな音源をつくるにあたっては全員が相当な気合いを入れて臨まれたそうですね。
宮腰:私たちだけじゃなく、シェルターのスタッフやプロデューサーの(中尾)憲太郎さんが関わるということで、ものすごく気合いが入りましたね。候補曲もすごくたくさんつくったし、選ぶのも最後の最後まで時間がかかったし、納得のいくものをみんなでつくりたい気持ちが強かったんです。
──候補曲はどれくらい用意したんですか。
宮腰:最初の段階で20曲くらいありました。最終的にどれを入れるか、この4人と義村さんでギリギリまで悩みましたね。
──憲太郎さんをプロデューサーに迎えたのはどなたの意向で?
木村:もともと私とゆっこが憲太郎さんと面識があって、フェンダーの天野(光太郎)さんやmouse on the keysの清田(敦)さんといった方から「憲太郎さんにプロデュースしてもらえるといいんじゃない?」と以前から言われていたんです。もしそんなことになればいいなと漠然と思っていたんですけど、シェルターからリリースをする打ち合わせで義村さんが「プロデューサーは憲太郎さんがいいんじゃない?」と偶然にも言ってくださったんですよ。これは何かの縁だと思ってお願いしたんです。
──憲太郎さんとの作業はいかがでしたか。
清水:すごく勉強になりましたね。
宮腰:私たちのためにいろんなことを考えながらやってくださってるんだろうなと作業中も思ってましたし、後でご本人に聞いたらやっぱりすごく考えてくれてたみたいで。
──憲太郎さんには事前にどんなサウンドメイクにしたいと伝えてあったんですか。
宮腰:どういうアルバムにしたいかを訊かれて、私たちの持つ良さを引き出した、攻めたアルバムにしたいとお願いしたんです。ミックスも攻めた感じにしていただいて。
清水:サウンドだけ聴いたら女性4人でやっているとは思えないようなものにしたいと最初のほうにお伝えしましたね。
──今回、『TAMAMONO』に収録された6曲はどれも木村さんと宮腰さんが手がけたものばかりですが、清水さんと竹内さんはコンペ落ちしたんですか。
竹内:私はもとから曲をつくらないんですよ。
清水:私は落ちました(笑)。でもいままでの指先ノハクは木村と宮腰の2人がメインで曲づくりをすることが多いんですよ。
──MVにもなっていた「層」や「なにがし」はどなたの曲なんですか。
宮腰:どちらも私です。だいたい私か順子さんがつくってますね。
──清水さんに伺いたいのですが、自分で書いたものではない曲を覚えるのは難しくないですか。
清水:正直、唄いづらいし覚えづらいです(笑)。でも指先ノハクは木村と宮腰が中心となって曲づくりをしてるし、この10年はそのことですごく悩んだこともありましたけど、作曲した人がどういう意図で言葉選びをしたのかとか、どういうふうに表現したら伝わるのかを考えるのは人の曲だからこそ面白いんです。それに、そういう意図ならこの言葉は変えたほうがいいんじゃないの? みたいなことを私はけっこう言うので、あまりよろしくない顔をされることが多いんですよ(笑)。
木村:それを受けて、場合によっては歌詞を変えたり、変えなかったり。
清水:その曲をもっと良くするためにどうしたらいいかの話し合いができるのは健全だと思うし、私もそのうえで納得した歌を唄いたいので。
──今回の『TAMAMONO』は「和」をテーマにした初のコンセプト・アルバムということで。
宮腰:以前から指先ノハクには和風の良さがあるよねと言われることがあって、女性から見た日本の歴史や風習、文化を歌詞やサウンドに盛り込んでみようと思ったんです。それで「和」をテーマにするという縛りで曲づくりをしてみたんですけど、出てくる曲もなんとなく「和」っぽい感じのものが多くて、最終的にその方向でまとめることができました。
北条政子は本当に悪女なのか?
──「和」を意識したから「コウモリ」で言えば「逢魔時」とか、「尼将軍の恋」で言えば「思ひ草」や「梛の葉」とか、古めかしい言葉が散りばめられているわけですね。
木村:「尼将軍の恋」には「『最低』だなんて知ってる 報いは全て覚悟の上」というサビがあって、それはもともと自分の歌詞のメモに入ってたんです。それとは別に「和」をテーマにした曲をつくることが決まって、どういう曲をつくろうかと考えていたときに日本三大悪女の一人である北条政子に興味を持ったんです。何をしたら悪女と呼ばれるんだろう? と思って、いろいろと調べたんですよ。自分が妊娠していたときに夫の源頼朝が浮気をして、浮気相手のいた屋敷を打ち壊してその女性を追いやったり、頼朝の弟の範頼に謀叛の疑いがあると頼朝に密告して殺させたり。息子の源頼家を守ることなく死に追いやったり、敵対する後鳥羽上皇を流罪に追い込んだり。嫉妬深くて強気な性格がそうさせたと言われるけど、いろいろ調べるとそうした行為の数々にも必ず理由があったし、自分が悪者になってでもやらなきゃいけない覚悟や信念を持ってた人じゃないのかなと思ったんです。私はすごく格好いい女性だなと思ったし、それが「『最低』だなんて知ってる〜」という歌詞とリンクしたんですよ。時代は変わっても人の気持ちは変わらないとずっと思っていたし、報いをすべて覚悟のうえで事を成し遂げる姿勢みたいなものが現代の人にも響くんじゃないかなと思って。それで実際に鎌倉に行って、曲づくりの参考にしたんです。
──鶴岡八幡宮に行ってみたり?
木村:北条政子の墓がある寿福寺という寺に行って、山門から本堂までの参道がすごくいい雰囲気なんです。その参道を歩きながら北条政子は何を考えていたのかな? と思って、「梛の葉舞う参道 歩く度に想う/出逢えて良かったと」という歌詞を書いたんですよ。三大悪女の一人と言われても、乙女な部分もちゃんとあったんだろうなと思ったり。
──「答えはいつも覚悟の笛」ということで、雅楽で使われるような笛の音も入っていますね。
木村:私が吹きました(笑)。本当は裕美子に吹いてもらおうと思ってたんですけど。
清水:憲太郎さんに「もっと強く吹いて!」って言われてね(笑)。
──宮腰さんが作曲した「コウモリ」は歴史とは関係がなさそうですね。
宮腰:しばらくのあいだ家にコウモリが来たことがあって…。
──来たことがある?(笑)
宮腰:部屋のカーテンをサッと開けると、そこに必ずコウモリがいたことがあったんです。その存在を気にせずにベースの練習をしたり唄ったりしていたんですけど、コウモリがずっとそこにいて。コウモリの声は人の耳には聞こえないし、私のベースの音はどんなふうに聞こえてるのかな? みたいな感じでつくった曲で、これも自分なりに「和」をイメージした曲調なんですよ。どちらかと言うと「アフターライト」が歴史に絡めたつくり方をしたつもりなんですけど。
──「アフターライト」が歴史に絡んでいるとは意外ですね。
宮腰:百人一首を土台にしたんです。「永らへば またこの頃や しのばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき」という藤原清輔さんの歌がありまして。
──よくスラッと出てきましたね。
宮腰:間違えちゃいけないと思ってメモしてきました(笑)。百人一首ってすごく恋の歌が多いんですけど、この歌は辛く苦しい現実でも前向きに生きていこうという歌なんです。その前向きさはいまの時代にも通じると思ったし、聴いた人にも前向きになれる伝わり方ができればいいなと思って歌詞を書きました。
──「アフターライト」は無料配布されたオムニバスサンプラー『下北沢SHELTERガールズコレクション2018』にも収録されていましたが、各バンドが切り札と呼べる曲を持ち寄ってしのぎを削るオムニバスに入れるくらいですから、相当な自信作だったわけですよね?
宮腰:そうですね。あと、今回のアルバムではいちばん最初にできた曲だったのでオムニバスに入れたんです。