「VS鬼」は和製『ホーム・アローン』のイメージ
──「VS鬼」もわらべ歌のようなメロディで「和」を感じますね。
木村:節分と「子捕ろ子捕ろ」という鬼ごっこをもとにつくったんです。自分のなかでは和製『ホーム・アローン』みたいなイメージもあって。家に忍び込んだ泥棒を退治するみたいな。ここでは泥棒=鬼で、夜中に子どもが窓越しに鬼と目が合って、その鬼が金棒で壁を突き破って家に入ってきてしまう。鬼は土足だから廊下が砂利まみれになって、汚されたことに怒った子どもが鬼を退治するという話なんです。自分のテリトリーというか、人と人との距離感をむやみに縮められるのはイヤだし、自分のことは自分で守ろうという意味も込めました。
──ズケズケとこちらの領域に踏み込んでくるヤツには撒菱を踏ませようと(笑)。
木村:自分では面白おかしく書いたつもりなんです。他の曲をちょっと真面目につくったのもあって、「VS鬼」みたいにパンチがあって面白い曲があってもいいんじゃないかと思って。
──宮腰さんが「今回はいままでにないアプローチをした楽曲もある」とおっしゃっていましたが、その最たる曲と言えそうですね。
宮腰:「VS鬼」もそうですし、「尼将軍の恋」もいままであれだけストレートな曲はなかったので、攻めぎみに行きました。
──曲づくりに関わらない竹内さんは、「尼将軍の恋」という斜め上を行くタイトルを最初に聞いてどう思ったんですか。
竹内:曲のタイトルから連想させるものとは違って、メロディも歌詞も現代っぽかったですね。ただ、タイトルに関しては最後の最後までみんな悩んでました。
──メロディとサウンドだけ見れば、「HANAMOYOI」がいちばん「和」を意識しているように思えますね。
木村:「HANAMOYOI」のテーマは花咲か爺さんだったんです。曲のタイトルも本当は「花咲か爺さん」にしようと思っていて(笑)。やさしい老夫婦が飼っていた仔犬が隣りに住む欲張りな夫婦に殺されちゃって、仔犬の亡骸が灰になって、その灰を枯れ木にかけたら辺り一面桜が満開になったという話で、それで「一心不乱に鼓動を躍らせ/枯れ木に花を咲かせてみせるよ」という歌詞があったりするんです。あと、「雉(キジ)も鳴かずば撃たれまい」ということわざを「犬」に変えてみたりして。「死んで花実がなるものか」も「和」のテイストを意識して入れました。最後の最後で「花咲か爺さん」から「HANAMOYOI」にしたんですけど。
──花催(はなもよ)い=桜が咲きそうな気配、ということで、アルバムのリリース時期にぴったりですね。
木村:そうですね。桜とか花っぽいタイトルがいいなと思って。
木村:これだけいろんなバンドがいるなかで自分たちがやる曲の意味って何だろう? と考えたときに、普通の曲をやってもつまらないし、作品のコンセプトもなるべく他の人が思いつかないものがいいと思ったんです。その流れで花咲か爺さんに行き着きました(笑)。
──性急なビートでぐいぐい攻める「ちょっと待ちな」は本作のなかでちょっと毛並みの異なる曲ですよね。
宮腰:「ちょっと待ちな」は曲が最初にできて、歌詞は最後にできたんですけど、諸行無常がテーマなんです。ずっと変わらないでいてほしいこともいつかは必ず変わってしまうものだなという、自分が常日頃感じていることを曲にしてみたかったんです。あの日の思い出も誰かを思う気持ちもちょっとずつ変わってしまったり、いつのまにか消えてしまったりする。ライブに来てくれるお客さんも、今日は来てくれてるけどいつかは興味がなくなっちゃうんじゃないかとか思うし、恋人や友達の関係性も変わっていくものだし、ずっと同じのままでいることなんてないんだなと思いながら歌詞を書きました。
──「ちょっと待ちな」の終盤で聴けるスラップベースがものすごくパンチのある音をしていますね。
宮腰:憲太郎さんが持ってきてくれたアースクエイカーのエフェクターを使わせてもらったんです。
プロデューサー・中尾憲太郎の的確なアドバイス
──憲太郎さんは自身がベーシストなので、特にベースの音にこだわっていたんでしょうか。
宮腰:いや、サウンド全体をいろんな面から見てもらった感じですね。私よりも順子さんのギターを気にかけていたような気がします。
木村:そうかな? 私はどぎついエフェクターが好きなんですけど、憲太郎さんに「こういうの好きだろ?」って言われてアースクエイカーのデータコラプターを貸してもらったんですよ。もとからキモッ! みたいな音が好きで、うわ! 気持ち悪! ぶる〜! みたいな音に興奮するというか、楽しくなっちゃうんです(笑)。
──そういう音の趣味は清水さんと被らないんですか。
清水:私はバッキングに徹していて、木村は飛び道具みたいなキャラクターのギターを弾くんですよ。そういう音色は全部彼女に任せてますね。今回は序盤のほうのスタジオで憲太郎さんに「鬼畜なエフェクターを貸してください」ってお願いしたんですよ。
宮腰:えげつない系って言ってたよね(笑)。「使ってみたいエフェクターある?」って憲太郎さんに訊かれて「えげつない系がいいです」って。で、「よし、わかった!」と(笑)。
清水:「これがいちばん鬼畜!」って用意してくれました(笑)。「ちょっと待ちな」の最後でビューンと鳴らしてるファズとか。
木村:あれは私が弾いてるときに憲太郎さんがツマミをいじってくれたんですよ。
──憲太郎さんのアドバイスで曲が劇的に変化したこともあったんですか。
宮腰:テンポ感、BPMをもっと速くしたほうがいいんじゃないの? と言ってくれましたね。
清水:「アフターライト」は憲太郎さんのアドバイスで半音上がったんです。最初はFで始まるコードだったんですけど、F#で始めることにして。最初の段階から声が高くてきつかったんですけど、さらにきつくなってしまって(笑)。でも半音が上がったことでパッと明るく抜ける感じになったんですよね。
──楽器のことで言うと、竹内さんはロジャースのスネアを借りて使ったとツイートしていましたよね。図太い音だけど芯があって他の楽器に負けない音であると。
竹内:skillkillsの(弘中)聡さんにドラムテックをお願いしてたので、今回も聡さんと一緒にドラムの音色を選んだり、ドラムセットも全部お借りしたんです。あと、憲太郎さんのドラムセットも「アフターライト」で使わせてもらったんですよ。ドラムセットを2台持っているみたいで。
──憲太郎さんから言われたことで、今後のレコーディングに活かせそうなことはありましたか。ギターは顔で弾け、とか。
木村:私はむしろ顔とかニュアンスで弾きすぎてた部分があって、そこは憲太郎さんが指摘してくださいました。それまでの弾き方だと歌と同じようにチューニングがずれて聴こえるとアドバイスをいただいて、すごく勉強になりましたね。
清水:歌のアドバイスもいただきましたね。「アフターライト」の歌の場合、このパートまでは雨だけど、ここから先は暴風雨が来るから、みたいな感じのアドバイスを。技術的にどうこうじゃなく、勢いのつけ方や疾走感をわかりやすいイメージで伝えてくださったんです。そのおかげですごく唄いやすくなりました。
──宮腰さんは同じベーシストだから憲太郎さんから学べることが多々あったのでは?
宮腰:ただただ憧れの方だったのでドキドキしながら現場をご一緒したんですけど、ドラムも練習したほうがいいよと言われたのが印象に残ってます。リズムの取り方とか音の置き方とかも教わりましたし、「尼将軍の恋」はレコーディングの当日に「俺のを弾いてみる?」と言われて憲太郎さんのプレベを使わせてもらったんですよ。すごくいい音がしたんですけど、弦高が高いし、フレットもいつもの感じとは違ったし、しっかりガシガシ弾かないといい音が出なかったのでいつも以上に気合いを入れて弾いた一曲だったんですね。それを音源として収められたのが良かったです。素晴らしい経験をさせてもらいました。