理想的な音を追求するとアナログへ行き着く
──和嶋さんは八八に対してどんな印象を抱いていますか。
和嶋:八八はプログレ系の音楽だから一緒にやったほうがいいよと前から言われていたんです。それで動画サイトを見て、これは一緒にやれたら面白いかなと思ってルックで対バンしたんですが、実際に見た彼らはとにかく演奏が上手かった。僕らは今や50代のバンドですけど、世代が下がるごとに演奏は上手くなっていくんですよ。僕らの上の世代よりも僕らの世代のほうが上手いように、だんだん下の世代へ行くほど、その時に練習する音楽の技術が上がっているから上手くなっていく。その一方で、あまり演奏力のない若い人たちがいるなかで、八八は一人ひとりが相当上手いと思いましたね。あと、僕らはけっこうマニアックな音楽をやってきたし、ブリティッシュ・ハードロックというあまり一般的じゃない音楽の範囲内でやってきたから爆発的に売れることがないのかなと思っていたんですけど、八八は僕ら以上に一般的じゃないことを堂々とやっていて、ああ、それでもいいんだなと逆に教わったところがありましたね。
廣井:僕はこれでも、ポピュラー・ミュージックをやってるつもりなんですけどね(笑)。
和嶋:ポピュラリティはあるよ。あると思ってるけど、「そこで変拍子かなぁ?」みたいなのがあってすごくいい。そういうのが好きな人にはたまらんですよね。
廣井:人間椅子も実はすごくポピュラリティがあるし、かなり王道のハードロックをやってますよね。
和嶋:うん、もともと王道のつもりでやってるんですけどね。
廣井:ただ、僕らとは圧倒的にパワーが違うっていうか。昔のハードロックの人って、たとえばピッキングとかでも強いじゃないですか。
和嶋:たしかに、昔の人は技術的に細かいことをやらないぶんパワーがあるね。
廣井:僕らはちょこまかやってるからパワーがないんですよ。ギターのカッちゃん(Katzuya Shimizu)は特に。彼のピッキングはすごく柔らかくて、和嶋さんのパワー感とは歴然の差がありますね。ウチのドラムはいちばんパワーがなくて、ちょこちょこちょこちょこやってるんですよ。
大澤:すごいパワー系に見えるのにね(笑)。
廣井:いや、パワーがないと僕は思ってるし、音もそこまででかくないと思ってますけどね。一発、一発の音が。
和嶋:それに関して言うと、今まで何度かフェスに出て外人の演奏を生で見ると愕然とするね。日本人×100くらいのパワーがあるから(笑)。ああいう音を出したいけど、根本から違うんだなと思いましたよ。ジャーン! って鳴らしただけですごく説得力もあるしね。自分もそうなりたいという意識がパワー感につながるのかもしれない。
廣井:打首もパワー感はありますよね。
和嶋:あるよね。男を感じるパワー感。
大澤:まぁ、そのパワー感を支えてるのは女子二人(ドラムの河本あす香とベースのjunko)なんですけどね(笑)。なまじジャンルがジャンルだけに、女子たちは男どもに負けたくないという意識が強いらしくて、自ずとパワーに寄っていくんですよ。だから逆にウチのリズム隊は細かいことが苦手なんです。手数とかぜんぜん多くできないので。
和嶋:僕は打首のライブを見て、音がすごくいいと思いましたね。ストレートなロック・サウンドで。
大澤:そう言ってもらえるとありがたいですね。僕はモダン・ヘヴィネスよりも70年代、80年代に築き上げられたギター・サウンドが好きで、ミドル(中音)重視なんですよ。
和嶋:ドンシャリ(低音と高音が強調された音)じゃない感じだよね。
大澤:ドンシャリはあまり好きじゃないんですよ。
和嶋:僕も好きじゃない。
廣井:僕もです。ただラウドなだけの音ってあまりグッとこないですよね。
和嶋:作り込んだラウドな音はグッとこないね。
廣井:チャリーン! みたいな。あれってやっぱり音の限界が見えるじゃないですか。
和嶋:リズム・パターンならまだ格好良く聴こえるんだけど、単音でフレーズを弾くとすごく安っぽく聴こえる。
大澤:音程感が薄いし。
和嶋:そう。だからソロを弾いても格好悪い。
大澤:たしかに。僕も自作のエフェクターに手を出してるクチで、和嶋さんの手作りエフェクターのように自分が理想とする機材を作っていくスタイルにすごく憧れがあるんですよ。そうすると、行き着く先はどんどんアナログになっていく。アンプもやっぱり真空管じゃなきゃダメだなとか、70年代、80年代辺りで確立されたギター・サウンドのアナログな方法論にだんだんと近づいていくんですよね。とはいえ、デジタルからも逃れられないんですけど。
和嶋:21世紀に生きている以上はデジタルを使わざるを得ないね。ただ、ロック・サウンドのいちばん格好いい音っていうのは、70年代くらいである程度確立されちゃってるんだよね。そこからどう工夫していくかが課題だと思うんだけど。