こんなに面白い家族は他にいない
大石:あと、YUKARIさんはどれだけ忙しくても旦那さんに対して愛情を注ぐのを忘れないんですよ。わたしの両親がそんなに仲良くなかったので余計に強く感じるのかもしれないけど、YUKARIさんとタニさんは仮にどれだけケンカをしても最後は笑ってるのがすごくいいなと思って。家の中で夫婦が仕事の話もバンドの話もオープンにできるのは、ひとえにYUKARIさんの器の大きさだと思うんですよ。
YUKARI:わたしは自分の家を、みんなが帰ってきたい家にしたいと常に思ってるから。たとえば朝、学校へ行く準備をしない共鳴に対して怒ったりしても、また怒られるのがイヤで帰りたくないみたいな家にはしたくない。共鳴がどれだけふて腐れても帰ってきたくなる家にしたい。そういうのは家だけじゃなくて、レスザン周りのバンドマンやお客さんに対してもそう。ライブに来なくなる人もいるし、バンドをやめる人もいるけど、そんな人たちがまたいつでも戻ってこれるような環境にしたい。でもそこまで器が大きくないから、いつも怒ってばかりなんだけどね(笑)。
大石:そんなことないですよ(笑)。YUKARIさんって、相手のことを立てる時はちゃんと立てるじゃないですか。それもさりげなく。
──分かります。レスザンTVの写真集『I ACCEPT ALL』のレセプション・パーティーで、YUKARIさんがU.G MANでベースを弾いたことをブログに書いていたじゃないですか。そこでも自分のことは差し置いて、谷ぐちさんと河南さん(河南有治)こそがU.G MANだと立てていましたよね。今回の映画でも、結局のところ谷ぐちさんの言い分をYUKARIさんが呑み込んで立てているのが随所に見受けられますし。
YUKARI:まぁ、なんやかんや言ってタニのことを格好いいと思ってますからね。ここにいないから言えるけど(笑)。彼の音楽に打ち込む姿が好きだし、やりたいことに対して信念を曲げずにやってるし、それも自分だけが得をしたいとか彼は何ひとつ思ってない。そういうところも格好いい。ただ、やりたいことをやりたいと突き進む上で周りがすごい勢いで巻き込まれちゃうから、そのフォローをしてあげる人がいなきゃなと思ってるんですよ。
──監督も谷ぐちさんの勢いに巻き込まれて映画を制作することになって。
大石:完全に巻き込まれましたね。映画を撮り終えた今も引き続き巻き込まれてますよ(笑)。
──そもそもは谷ぐち家の3人それぞれの個性の豊かさ、3人の関係性の面白さに惹かれて今回の映画制作に至ったんですよね。
大石:そうです。とにかくこんなに面白い家族は他にいないと思ったので。
共鳴:そうかなぁ?
大石:そうだよ(笑)。友達とかでも、ずっと一緒にいると飽きたり、疲れたり、「もういいかな」と距離を置きたくなることがあるじゃないですか。それが谷ぐち家の場合は全然飽きないし、1年間ずっと密着したのにいまだによく分からないところがあるんですよ。だからまだ引き込まれてる感じなんです。密着することでイヤになるところが出てくるのかなとか最初は思ったんですけど、そういうのも全然なくて。
──谷ぐち家のどんな部分に惹かれたのか、具体的に聞かせてください。
大石:谷ぐち家と初めて会ったのはわたしが25、6の頃で、共鳴くんがまだおんぶ紐で抱っこされてたんですよ。そのいでたちでYUKARIさんはベースを弾いていて、そこにタニさんもいて。
共鳴:それで知ったの?
大石:知ったよ。共鳴くんは会うとだいたい泣いてたけどね(笑)。ちょうどそんな頃ですかね、当時の自分は映像の仕事で何ひとつ満足なことをやれてなかったし、生活も不安定だったし、将来に対する不安がすごくあった中で谷ぐち家と出会ったんです。タニさんとYUKARIさんはちゃんと生活の基盤があった上で、バンドという自分たちのやりたいことをやり続けている。それが自分の住む世界とはあまりに掛け離れた、とても想像できない生きかただったんですよ。そういう生きかたをどうやって成り立たせているんだろう? と純粋に興味が涌いたんです。
生活とバンドを両立できないなら結婚していない
YUKARI:最初はわたしたちのこと、どう見えた?
大石:何とか頑張って楽しくやってるとか、そういう感じはしなかったですね。すごく自然体で生活もバンドも楽しんでいると言うか。
YUKARI:それが1年間密着し続けて、けっこうギリギリなんだなと思った? それとも、案外普通なんだなと思った?
大石:それで言えば、案外普通なんだなと思いましたね。音楽を離れて3人でいる時はすごくほんわかした雰囲気だし、普通の家族みたいに温泉に行ったり、ご飯を食べに行ったりする。レスザン特有のストレンジな感じは全然ないですよね(笑)。それに、YUKARIさんもタニさんもすごく常識的な人なんですよ。レスザン好きな人は、ちょっとおかしな家族なのかもと思ってるかもしれないけど。
YUKARI:ストレンジに思われてるんだ?(笑)
大石:おそらくは(笑)。ただ、普通の家庭と違うのは生活と同じくらい音楽を大切にしていること。その音楽というのが、他の人にとっての料理とかスポーツとかの趣味と同じだってYUKARIさんは言ってましたよね。
YUKARI:そう思ってたんだけど、今はちょっと違うなと思って。たとえばゴルフが趣味の人とか呑みに行くのが好きな人とかは、その世界で傷跡を残してやる! なんて思わないでしょ? 「この呑み会で一番になってやる!」とかさ(笑)。だからいわゆる趣味っていうのとはまた違うんだよね。
大石:なるほど。ただ、自分のやりたいことに打ち込むのは誰でもできるけど、YUKARIさんとタニさんほどの行動力は誰でも持ってるものじゃないですよね。
──映画の中で谷ぐちさんがポロっと言いますよね。「子どもがいるのにバンドをやるのは大変なんだよ」って。
大石:あと、バンドを続ける上でYUKARIさんとタニさんのどっちかが弱いとダメだよね、って話をするシーンがあるじゃないですか。たとえば奥さんが「家でバンドの話をするなんてやめて」とか言う人だったら、生活とバンドの両立は成り立たないですよね。
YUKARI:もしも生活とバンドが両立できないようなら、そもそも谷ぐち順とは一緒になってないと思う。あの人からやりたいことをやる時間を取ったら、一体どこに魅力があるんだろう? って思うし(笑)。もちろん介助の仕事も彼なりの信念を持ってやってるけどね。
大石:最初はidea of a jokeのライブを観て、タニさんのことを格好いいと思ったんですよね?
YUKARI:うん。バンドマンとしてすごく格好いいと思った。
大石:男性として格好いいと思ったのはどんなところだったんですか?
YUKARI:わたしは「男性として」っていうのと「バンドマンとして」っていうのが一緒なんだよね。何かに一途に打ち込んでるのがその人そのものだと思うから、分けて考えることができない。打ち込んでる何かと男性としての魅力はセットだから。だからタニのバンドに打ち込む姿が好きじゃない人は、彼と一緒にはなれないんじゃないかな。だけど、「あんた、ギターばっかり弾いてないで、共鳴の面倒も見てあげないとかわいそうじゃん!」って言わないといつまでもギターを弾いてるし、キリがないから言ってる。
──それは決して怒っているわけではないと(笑)。
YUKARI:ちょっとは注意しないとブレーキが効かない人なので(笑)。
大石:いいバランスですよね。生活とバンドを両立させるためにもYUKARIさんはタニさんがいなきゃダメだし、タニさんもYUKARIさんがいなきゃダメだし。