Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューYUKARI&谷口共鳴×大石規湖(Rooftop2017年9月号)

生活と音楽を両立させ、楽しいことだけぶちかますパンクな家族と愛すべきはみだし者たちの痛快な生きかた

2017.09.01

映画になることを聞いていなかった共鳴

──レスザンTV周りのバンドを撮る、谷ぐち家の日常にも密着するという話を聞いた時、YUKARIさんは率直なところどう感じたんですか。

YUKARI:格好いいバンドをいっぱい見せたいっていう意図はよく理解できたけど、ウチの家までカメラが入るっていうのはどこまで撮るんだろう? と思って。ちゃんとした部屋着を買わなくちゃいけないのかな? とか思ったり(笑)。

大石:共鳴くんの誕生日プレゼントで鬼怒川温泉に行ったじゃないですか。さすがにそれは家族水入らずで過ごしてほしかったのでわたしは同行しなかったけど、そこで3人が露天風呂でモッシュする映像をタニさんが撮ってきてくれましたよね。それを今回の映画にも使いましたけど、お風呂の中でカメラを回すのってどう思いました?

YUKARI:わたしは全然良かったけどね。

大石:そうなんですか!? お風呂はそれぞれゆっくり入ればいいのに、3人同じ湯船でモッシュしてるっておかしくないですか?(笑)

共鳴:なんでそのシーンが必要だと思ったの?

大石:それはみんなが楽しそうで微笑ましかったから。でもわたしは「入浴シーンを撮ってきてください」なんてパパにお願いしなかったんだよ?(笑)

YUKARI:わたしは入浴シーンが映るの、全然良かったけどな。ただ、風呂場でタニがカメラのアングルを何度も直しに行ってたから、後でくらのすけに局部を見られるんじゃないかと心配したけど(笑)。でも、そういう入浴シーンよりも普通に家の中を撮られるのがイヤだったな。とっ散らかってるし、それがでっかいスクリーンに映るわけだから。後ろの背景をトリミングしてほしかったくらい(笑)。

家旁Esceane_family_8.pngsceane_18.png──自分たちの日常生活を撮影して何が面白いんだろう? みたいな気持ちはありました?

YUKARI:ありましたね。タニが餃子を頬張りながらわたしと言い合ってるシーンが試写会であんなに面白がられるとは思わなかったし。

共鳴:おれ、知らなかったんだからね。何も言われてなかったんだから。

YUKARI:そうそう、共鳴には映画を撮ってることをけっこうな段階まで言わなかったんですよ。

大石:第一稿のプレビューに共鳴くんが訳も分からず連れてこられて、その時に初めて伝えたんですよね。「実はさ、共鳴くんの映画を撮ってたんだよね」って。

──共鳴くんは自分が映画に出るのを知って、どう思ったんですか。

共鳴:イヤだった。

YUKARI:今は?

共鳴:もう別に…大丈夫。

大石:でも、全部はちゃんと観てないよね?

YUKARI:そうだ。共鳴は自分が出てくると観るのをやめちゃうんですよ。

大石:自分が怒られるシーンになると、試写会の部屋から出て行っちゃって(笑)。もったいないよね、チーターズマニアのライブ・シーンはみんな格好いいって言ってるのに。

yukari_5.png──YUKARIさんは完成した作品をご覧になって、どう感じました?

YUKARI:人が映ってるところ、喋ってるところは純粋にいいなと思ったし、いっぱい観てもらいたいなと思ったけど、インフルエンザ事件のところからわたしが一人でベラベラ喋ってる部分はなんだかエラそうだなぁ…って思いましたね。ただ、すごく個人的なことを言えば、たとえばチーターズマニアのライブを終えた共鳴に「よく頑張ったね」って言ってあげるシーンを観ると、自分もこんなふうに親から愛情を注いでもらって育ったんだなと思ったりしたんですよ。いつか共鳴がこのシーンを観てくれたらいいなっていう、そういう個人的な思いはありますね。でも、そういうシーンも含めて映画にして皆さんに観ていただくのはどうなんだろう? っていう気持ちはいまだに拭えない(笑)。

 

バンドの在りかたをめぐる夫婦の考えの相違

──チーターズマニアが初めてのライブをやるまでのYUKARIさんの共鳴くんに対する親心、同じ板の上に立つ人間としての思いが複雑に絡み合うのが本作の見所のひとつだと思うのですが、あの時期はやはり冷静ではいられませんでしたか。

YUKARI:いや、逆に冷静だったからこそ「このままじゃヤバイぞ」と感じて、練習を怠る共鳴を叱ったと思うんですよね。

大石:YUKARIさんには同じバンドマンとしての意識と親としての意識、その両方があったからあの時は混乱してたのかなと思ったんですけど。

YUKARI:共鳴に対して「ここまで言う必要があるのかな?」とは思ったよね。その辺がタニとわたしの考えかたが違うところで、タニは「バンドっていうのは楽しくやるものだ」っていうのが基本なんです。もちろんわたしもそうなんだけど、人前で表現したり何かを生み出す上でストイックさも大事だとわたしは思ってる。多少イヤなことでも無理して頑張らなきゃいけないとかね。そう思う部分がタニよりも強いんですよ。共鳴にそういうわたしの考えを伝えていいのか、それともタニみたいにもっと楽しくやりなよと伝えればいいのか、そこはちょっと迷いましたね。

大石:でも、YUKARIさんのあの叱咤がなければ共鳴くんはライブをやり遂げられなかったと思いますよ。

YUKARI:それは思う。ただ、辛い練習をやる必要があるのか? っていうのは命題としてあるよね。バンドは楽しいからやるものだと思うし。

ceeter_!7.pngceeter_4.png──チーターズマニアが初ライブをやるまでの過程を映画のハイライトに据えるのは、最初から構想としてあったんですか。

大石:撮り始めた段階からチーターズマニアの初ライブが撮りの最終日くらいに考えていました。パンクな家族を中心とした日本のアンダーグラウンドの音楽を描く映画だけど、同時進行で共鳴くんの成長と言うか、チーターズマニアの初ライブまでのプロセスも追いたかったんです。子どもの奮闘をドキュメンタリーで追うと、どうしても『はじめてのおつかい』みたいな感じになっちゃうと思うんですけど、この映画に関してはそうじゃない感じに仕上がったと自分では思ってるんです。ただのサクセス・ストーリーにはなってないと思うし。

──『はじめてのおつかい』は親の目線で子どものハプニングを温かく見守るけど、チーターズマニアのメンバーは共鳴くんを決して子ども扱いせず、同じバンド仲間として対等な立場で共鳴くんと接しているから、『はじめてのおつかい』みたいではないですよね。

YUKARI:チーターズマニアのメンバーは共鳴の友達だし、わたしたち以上に共鳴と親しいですからね。

──レスザンTV主催のライブに集まるお客さん、バンドマンも共鳴くんのことをかわいがるけど、必要以上に子ども扱いをしていないと思うんですよ。あれはなぜなんでしょう?

YUKARI:なんなんですかね。そうあるべきみたいな感じで接してくれるし、それはとてもありがたいことなんですけど。

大石:確かに、当たり前のことすぎて考えたことがなかったですね。他の子どもへの接しかたはもっと違うだろうし。

YUKARI:共鳴は生まれた頃からライブハウスにいたから、彼自身がその環境に慣れてるっていうのもありますよね。

大石:なるほど。ライブハウスでPhewさんと2人でお絵描きして、Phewさんに「ジバニャン描いて」って言えるのは共鳴くんくらいだよね(笑)。

共鳴:ひゅーさん?

YUKARI:会ったら分かるよ(笑)。

 

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映画『MOTHER FUCKER』

出演:谷ぐち順、YUKARI、谷口共鳴 他、バンド大量
監督・撮影・編集:大石規湖
企画:大石規湖、谷ぐち順、飯田仁一郎
制作:大石規湖+Less Than TV
製作:キングレコード+日本出版販売
プロデューサー:長谷川英行、近藤順也
1.78:1/カラー/ステレオ/98分/2017年/日本
配給:日本出版販売
© 2017 MFP All Rights Reserved.

8月26日(土)〜9月8日(金):渋谷HUMAXシネマ
9月9日(土)〜9月15日(金):シネマート心斎橋
9月16日(土)〜9月22日(金):シネマート新宿
9月23日(土)〜9月29日(金):名古屋シネマテーク
9月30日(土)〜10月6日(金):広島・横川シネマ
10月14日(土)〜10月20日(金):横浜シネマ・ジャック&ベティ
10月21日(土)〜10月27日(金):仙台・桜井薬局セントラルホール
10月28日(土)〜11月3日(金):京都みなみ会館
以降、神戸・元町映画館ほか全国順次公開

Less Than TV 25周年記念写真集
I ACCEPT ALL

仕様:B5変型(170mm×230mm)/328頁/ハードカバー
価格:本体3,500円+税
ISBN:978-4-908749-03-2
版元:TANG DENG
全国の書店、Amazon等で好評発売中

映画『MOTHER FUCKER』パンフレット

定価800円(税込)/A4サイズ/全24ページ/フルカラー
映画『MOTHER FUCKER』公開劇場限定販売

【掲載内容】
作品解説
キャスト・監督紹介
谷口一家×大石規湖監督対談[文:遠藤妙子(音楽ライター)]
磯部涼(音楽評論家)コラム
森直人(映画ライター)コラム
『Less Than TV』完全ライブデータ
『Less Than TV』年表
『Less Than TV』ディスコグラフィ

LIVE INFOライブ情報

映画『MOTHER FUCKER』公開記念インストアイベント
【開催日時】2017年9月6日(水)19:00〜
【イベント内容】ミニライブ&特典引換&サイン会
【場所】ヴィレッジヴァンガード渋谷本店 イベントスペース
【出演】FUCKER、チーターズマニア
【参加方法】観覧自由
*ヴィレッジヴァンガード渋谷本店にて、Less Than TVイベント対象商品をご購入いただいたお客様に先着で、特典引換&サイン会参加券を1枚差し上げます。「特典引換&サイン会参加券」をお持ちの方は、ミニライブ終了後の特典引換&サイン会へご参加いただけます。当日は特典引換&サイン会参加券を必ずお持ちください。

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