Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー剛田武×加藤彰×地引雄一(Rooftop2016年12月号)

地下音楽への招待

2016.12.01

 70年代後半から80年代前半、「政治の時代」が終わり白けた空気が蔓延していた日本に、特異な音楽シーンがアンダーグラウンドから生まれる。その一筋縄ではいかないシーンとしっかりと向き合った書籍をロフトブックスが2冊連続で刊行!! 伝説のライブハウス「吉祥寺マイナー」周辺のミュージシャンの証言を元に当時の状況を描いた『地下音楽への招待』の著者・剛田武と編集者・加藤彰。新宿ロフト40周年記念写真集『ROCK OF AGES』に当時の写真を多数寄稿している写真家でありパンクムーブメントの仕掛人でもある地引雄一。2冊の本に深く関わっている3人に当時の状況についてそれぞれの思いを語り合ってもらった。[構成:小柳 元(LOFTBOOKS)]

『地下音楽への招待』の主人公は人でも音楽でもなく場

地引:今回、加藤さんからは『地下音楽への招待』の感想を求められているのだけど、この本がテーマにしている時代そのものがどういうものだったのかという話が出来た方が面白いんじゃないかな。ロフトブックスからは『ROCK OF AGES』の宣伝もしてくれと言われているし(笑)。

剛田:『ROCK OF AGES』と『地下音楽への招待』を同じ時代のものとして全部ひっくるめて語るというのはありかもしれないですね。

加藤:この時代の日本の「パンク」は幅広く捉えられる場合と、逆に非常に狭く捉えられてしまう場合があると思うんですが、当時でも割とそういう事があったと思うんです。だから狭く捉えられたイメージをいかに変えていくかというのが当事者の立場だったと思うのだけど、後追いで「パンク」が好きになった人にとってはそれがなかなか分かりにくいみたいですね。

地引:「東京ロッカーズ」も最初はイベントの名前としてS-KENの田中(唯士)さんがつけたんだよ。それが知らぬ間に総称みたいになってしまって『東京ROCKERS』というアルバムが出た後、それに入ってる5バンドが東京ロッカーズみたいになっちゃった。それが凄い縛りみたいになってしまったので、アルバムが出た時点で「東京ロッカーズという名前を使うのをやめよう」と僕は主張していた気がする。外側から枠付けられるのを常に拒否していこうという意識が当事者には確かにあった。フリクションのレックも「自分達はパンクじゃない」って言ってたし。

加藤:当事者はそうなんですよね。

地引:僕が「パンク」に惹かれたのは、別にパンク的な音楽スタイルっていうことじゃない。僕は完全な団塊の世代で70年代の反体制運動とかアングラとかヒッピーとかいうのを経過してきたんだけど、それが70年代末って完全に衰退して、いわゆる「シラケ世代」とか言われて、音楽もイージーリスニングっぽいフュージョンが全盛になっていたりした。そんな70年代前半の行き詰まったカウンターカルチャーを打破するために出てきたのが「パンク」だと思った。実現出来ない理想を掲げる前に、いまいるところの自分を認識する事が何よりも大事なんじゃないかという事を突きつけられた。

剛田:当時、僕は高校生で『ZOO』という雑誌を読んでいたのですが、その本から「反体制とかいうよりもまず自分自身で考えて何かしろ」みたいな檄を飛ばされてすごく衝撃を受けました。その当時の10代の子達にとって、新しいものというよりも「自分達のものを生み出す」という感覚が刺激的だったんです。僕は『地下音楽への招待』の主人公は人でも音楽でもなく場だって何度も言っているんですけど、やっぱりこの時代そういう色々なところで自分達の場所をつくる人達が動きだして、点と点が線になっていくのがすごく面白いなと思いました。

その時代の影響を強く受けているからこその凄み

地引:僕も当時は個々のバンドがどうこうというよりも、そういった事が実現出来る場をつくっていかなくてはいけないという気持ちで音楽の現場に関わってた。「東京ロッカーズ」以外にも「吉祥寺マイナー」があったり、渋谷に「ナイロン100%」があったり、原宿にはもろにロンドン・パンクに影響を受けた10代の子達が集まるパンク・ブティックの「スマッシュ」があったり、それぞれが自分達の場所をつくるために全く別個に動き出していて、それが全体として渦となっていったのが70年代の面白さだと思う。

加藤:その中でも恐らく「吉祥寺マイナー」系の人達っていうのは、当時のアングラ文化の中でも相当ディープな人達というのがいて、そこを確実に引きずっています。だからむしろ「吉祥寺マイナー」はいわゆる「パンク」から完全に外れちゃっているとも言えるかもしれない。例えばジャズ系の人達ともの凄く濃密な繋がりがあるし、間章にしろ阿部薫にしろ、マイナーが開店した78年に相次いで亡くなっていますけど、彼らと繋がりがあるような人たちがマイナーに流れ込んできたっていうのはある。でも決して単に過去を引きずっているだけじゃなく、その時代の影響を強く受けているからこその凄みもある。

地引:僕は自分自身がそういうカウンターカルチャーを引きずっていた世代で、それで行き詰まっちゃったから、一旦そういうものを断ち切らなくてはいけないという気持ちが強かった。だから「吉祥寺マイナー」はそういうものを引きずっているイメージがあったのだけど、その中でも工藤冬里君とか白石民夫さんっていうのはやっぱり(その時代の)それとは違ったものを感じたよね。ある意味パンク的というか。

加藤:冬里さんは70年代のアングラ演劇集団だった「曲馬館」の流れを継いだ「風の旅団」で音楽を担当していますが、それは「曲馬館」の音楽とは違う展開を見せたりしています。さらに言うと、その音楽はいわゆる「パンク」というものでもないんですよ。

地引:逆に90年代になってからオルタナティブっていう言葉が一般化して、もうちょっと広い意味で、パンクだアングラだっていうよりも広い意味での反主流的な音楽として捉えられる観念が出てきたよね。そうしてみると、むしろそういったものの萌芽みたいなものが「吉祥寺マイナー」とかピナコテカレコード(みたいなのもの)にはあったとも言えるし、パンクもそういう意味で言えばある意味「オルタナティブ」というかたちで、もっと大きなジャンルの中で一つのものとして考えてもいいと思う。

剛田:僕は『地下音楽への招待』でも、比較的有名な「吉祥寺マイナー」だけでなく「モダンミュージック」や「ぎゃてぃ」、横浜の地下音楽のシーンを紹介する事によって場の広がりを伝えようとしたつもりです。ただ、なかなかそういう風には読まれてはいないという気がしてます。

地引:僕が最初『地下音楽への招待』を読んだ時、ミュージシャンは凄い的確な押さえ方していると思ったよ。鳥井賀句とか生悦住(英夫)さんとかは必要あるのかなって思ったけど(笑)読んでみるとやっぱり重要な役割をしている。

剛田:そうなんですよね。彼等は異なる音楽を結びつける重要な繋がりを生んでいるんですよ。

地下音楽と地下アイドルは似ている

地引:『ROCK OF AGES』を作っている時に、担当の椎名君に「この時代の面白さは群像劇の面白さだ」って言われて、もの凄く的確な言い方だなと思った。当時もちろん個々の人間で優れたミュージシャンはたくさんいたんだけど、有名無名関係なくそういう連中が集団でいて、しかもそれが色々な絡み合いをしているという群像劇的な面白さがあの時代にはあったと思っている。今はそれが凄く乏しい。確かに凄い突出した人はいるんだけど、それがシーンとして全体として何かを生み出しているっていうような感じにはあまり感じられないな。

剛田:いまは場所がたくさんあり過ぎる感じはします。しかもインターネットでも簡単に繋がれたりする。当時とは明らかに状況が違いますね。ところで今度12月に地引さんはDRIVE TO 2100を主催されていますが、そこに何故テンテンコさんとかを入れようと思ったのですか。

地引:ロフトはいま、半分くらいアイドルのハコみたいになっている(笑)アイドル文化とロック文化の垣根がだんだんと崩れてきているんだよ。

剛田:そうだと思います。ライブという生の現場で何かが起きてるというのを一番感じるのはやっぱりアイドル現場ですね。アイドルと触れ合うって言う事もあるんですけど、そこで何か他に色々な事が起きている。

地引:AKB的な組織化されたアイドルじゃなくて、地下アイドル的な子達がそういう音楽に親和性を持ってきているね。

剛田:地下音楽と地下アイドルが似ているのは、地引さんみたいなクリエイターが関わっている所ですよね。アイドルの女の子って歌って踊るスキルとファンと接触するスキルみたいなのはあると思うんだけど、当然そんなに音楽に詳しい訳ではない。それを面白くするために、衣装からコンセプトから音作りまで凄く色々な作り手の人達が集まってきているんですよ。70年代後半当時みたいに、大手の力を借りなくても自分達でつくってしまうおうという感じが色々なところから出てきている。それが秋葉原だったりするしロフトだったりするし、その出来方っていうのが似てると僕は主張したいです。

地引:まさかそういう方向に行くとは(笑)。

加藤:地引さんもそういう風に思っているところはあるのですか?

地引:テンテンコさんはアイドルなのに自分でイベントをオーガナイズして、七尾旅人君とかZAZEN BOYSの向井秀徳君とかをアイドルと一緒に出したりしている。非常階段の美川(俊治)君とか現代アートのChim↑Pomとも関係があったりするし、彼女の立ち位置は凄く面白いんだよ。

加藤:なるほど、そういうシーンがあるという事を皆さんに是非注目して頂きたいですね。

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「地下音楽への招待」

著者:剛田武 編集:加藤彰
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LIVE INFOライブ情報

12/1(木)
SHINJUKU LOFT 40TH ANNIVERSARY
DRIVE TO 2100 4DAYS DAY3
OPEN 18:00 / START 18:30
ADV¥3500 / DOOR¥4000
※通し券(11/29,11/30,12/1,12/2の4公演)あり
¥10,000
eplusのみで販売 
トラトゥラーナ / くじら
ムーン♀ママ(PIKA+坂本弘道) / 佐藤幸雄とわたしたち
初音階段
【BAR STAGE】
テンテンコ / 黄倉未来 
ju sei / コルネリ / フロリダ / PIKA
 
12/2(金)
SHINJUKU LOFT 40TH ANNIVERSARY
DRIVE TO 2100 4DAYS DAY4 FINAL
OPEN 18:00 / START 18:30
ADV¥3500 / DOOR¥4000
[発売]PIA・LAWSON・eplus・LOFT 
※通し券(11/29,11/30,12/1,12/2の4公演)あり
¥10,000
eplusのみで販売 10/30〜
恒松正敏グループ(ゲスト:鶴川仁美) / NON BAND
TACO(山崎春美/佐藤薫〔EP-4〕/末井昭/後飯塚僚)
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バチバチソニック / タマテック / N13
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