ロック・バンドは今後ますます肉体労働になると思う
──今年は結成30周年記念として年始に武道館公演をやって、お礼参りツアーで47都道府県のライブハウスを回って、先月はロフトでも2daysをやっていただきましたが、武道館でのライブはいつかやろうと考えていたんですか。
増子:全然考えたこともなかったよ。やれるとも思ってなかったし。2年前に「武道館やりますか?」っていう話がスタッフから出た時、俺は止めたぐらいだから。だってさ、2年前の時点でZepp Tokyoを売り切るぐらいだったんだよ? つまり、その時点で28年間活動してきて動員が3,000人弱ぐらい。どうやったらあと2年で今の動員の3倍も入るようになるのよ? って話(笑)。だから俺は無理だって言ったんだけど、それでも(上原子)友康とシミ(清水泰次)は「ひとつの夢だからやりたい」って言うし、スタッフも「今やらなかったら次にいつやるんですか? また10年後なんて体力的にも無理ですよ」なんて言う。なるほど、確かにそうだなと。借金したらまた働いて返せばいいし、じゃあやるかと。その代わり宣伝期間をガッツリと設けて、やれることは全部やることにした。協力してもらえる所には全部協力してもらうし、頭下げられる所には全部頭下げて回ることにしたんだよ。
──増子さんが当初は躊躇したというのは意外ですね。
増子:俺のビジョンは日比谷の野音までだったから。それもモッズが好きで、雨の野音でライブをやりたいなって高校生の時に思ってただけ。まぁ、俺らの野音は雨どころか春先に雪が降ったけどね(笑)。武道館は終わった今でも全然実感がないって言うか、夢だったような気がするよ。当日はもう怒涛の目まぐるしさだったしさ。
──武道館までの2年間は、メディアへの露出も格段に増えましたよね。
増子:そうだね。今になって分かったんだけど、俺らのことを欲してる層って意外とライブハウスに来てる層だけじゃないんだよね。普段からロックを聴く層じゃない。普通に働いてテレビを見てたり、バンドにあまり興味がない層だったりするんだよ、意外と。やっぱりね、ライブハウスに来る層って全体から見たら凄く少ない。俺はそんな意識、全然なかったんだけどさ。
──ライブハウスに行ったことがある人って人口の数パーセントだと思うんですよ。その数パーセントが武道館に集約されて来たのかと思っていたんですが、そうではなくその数パーセントの外側にいる人たちも来たってことなんですね。
増子:だって言ったらよ、名の知れた野外フェスにも何回か出たわ。それで引っ張ってきたお客さんよりも、ロック的なプロモーションの外側、たとえば博多どんたくだったり、朝のワイドショーだったりで何かしらの衝撃を受けてライブに来たお客さんのほうが断然多いんだから。それもバンドの特性なんだろうけど、あれにはちょっとびっくりしたね。
──テレビやスポーツ紙で怒髪天のことを知った人たちがライブハウスへ足を運ぶようになるといいですよね。
増子:実際、今回のお礼参りツアーで初めてライブハウスに来た人もいっぱいいるんだわ。そうやってライブハウスは面白い所だよ、他にもいいバンドがいっぱいいるんだよって伝えていきたいし、俺らと対バンしたバンドに興味を持って、今度はそのバンドのワンマンを見に行ったりするみたいに少しずつ広がっていけばいいと思うんだ。ライブハウスへライブを見に行く行為が特別なものじゃなくなればいいよね。映画を見に行ったりするのと変わんないようにさ。
──呑み屋に行くのと同じような感覚で。
増子:そう。そういうのがライブハウス・シーンやロック・シーンに全部フィードバックされていくものだと思うから。CDが売れないって言うけど、デジタルになればなるほど人は生に飢えるものなんだよね、反動として。音源はデータでいいけど、ライブは生で見たいと。だから今後ますますロック・バンドは肉体労働になると思うよ。自分らで全国各地に足を運んで、そこで精一杯汗水垂らさないと仕事にならないことになる。スタジオにこもって音源作ってやってますみたいなのはもう通用しないね。でも、もともとバンドってそういうものだったんだ。本来の在り方に戻っただけなんだよ。
バンドを解散しないで続けることが一番の恩返し
──来年の結成31年目からはどんなふうに活動していこうと考えているんですか。
増子:ここからまた通常営業で行くね。もちろん、新しいことにもどんどんチャレンジしていくし。ライブをやって、ツアーをやって、音源を作っていくことを当たり前にしっかりとやりたい。そうやってちょっとずつ積み上げていくのが面白くてバンドをやってるしね。
──武道館とそのお礼参りはイレギュラーだったんですね。
増子:まぁ、30周年だからね。俺たちなりの感謝祭期間っていう意味では特別かもね。でも、バンドにできる一番の恩返しって、解散しないで続けることだと思うんだ。俺の好きだったバンドも、何がどうあったって解散しないで活動を続けて欲しかったもんね。将来的にヨボヨボになって昔みたいなライブができないとか、ヘロヘロの曲しか作れなくなったとしてもさ、解散しなけりゃまだ何とか心の支えにはなる。なくなっちゃったらどうにもならないからね。だからバンドは解散する必要がないと俺は思うんだよな。表向きは活動休止ぐらいにしときゃいいんだよ。実質、解散だとしてもさ。一縷の望みはあるじゃない、活動休止だったら。10年ぐらい経てば、もの凄く仲が悪いバンドでも何かの拍子でもう一回やってみるかってことにもなるからね。
──何度も再結成するのはいいことなんですかね?
増子:いいことだよ。ラフィンノーズのPONが昔よく言ってたんだよ。「ロック・バンドなんてのは何回でも解散して、何回でも再結成しろ」って。ホントにその通りだし、名言だと思ったね。いい曲を作っていいライブをするっていうのはバンドとして大前提だけど、俺は今まで誰かのために曲を作ったこともなけりゃ、誰かのためにライブをやったことは一度もない。完全に自分たちの満足のためだけにバンドをやってるから。それが続けていくってことなんだろうけどね。あと、続けていくためにはヘンに扉を閉めないって言うか、玄関を狭くしないっていうのを常に考えてる。いわゆるマスに向かっていくのは格好悪いことじゃないってことをちゃんと見せなきゃと思ってる。マスに向かうことを「あんな薄汚れたことをやるのはイヤだ」と否定するのは簡単だし、それは従来の発想だよ。それを薄汚れたものだと思うなら、自分からそこへ突っ込んでって掃除しなきゃいけない。そういうことをちゃんとやれるバンドがいないと絶対ダメだね。
──そうですね。分かる人にだけ分かればいいんじゃなくて、分かってもらいたいと必死に伝え続けていくと言うか。
増子:分かるまでやる。それは大事なことだと思う。そういうのをバンドで楽しみながらやっていきたい。いい曲を作ってね。曲はどんどん出来るからさ。悩むことなんかほぼないよ。
──近年もリリースの頻度が上がっているぐらいですからね。
増子:だって、言いたいことが山ほどあるからね。俺は世の中が分かるまで何回でも同じことを言うよ。親父の説教と一緒だからね。何回言っても分からんのか! って(笑)。
──今度の“LOFT FES.”で共演する面子はどれも勝手知ったる仲ですよね。
増子:みんな仲いいね。SAは、TAISEIが前のバンドをやってた時に事務所も一緒だったから。NAOKIさんはラフィン時代から知ってるし。ロティカも付き合いが長いしね。まぁしかし、5バンドほど40代後半に差し掛かってるのが恐ろしいよね(笑)。
──ロティカのあっちゃんに至ってはドハツの日(10・20)に50歳ですから(笑)。このバンドのライブは誰が見ても絶対に面白いと感じるはずだって人たちを並べていったら、平均年齢が凄く上がっちゃったんですよ。
増子:それはしょうがないんじゃない? 若いバンドよりも多く場数を踏んでるわけだからさ。
──だからa flood of circleとOLEDICKFOGGYには頑張って欲しいなと思って。
増子:彼らも若手っちゃ若手だけど、凄く若いわけじゃないよね(笑)。個人的にはOLEDICKFOGGYを見れるのが嬉しいな。
──音源聴いてるんですか?
増子:ライブを見に行ったよ。都内じゃスケジュールが被ってなかなか見れないから、前乗りか何かで神戸で見た。凄くいいよね。