金がすべての世の中に疲弊する必要は全くない
──でも吉田さんは「I don't wanna die in nuclearpower days」(「Nuclearpower days」)と声高に唄っていますよね。
吉田:そうですね。ただ、原発の施設を作った地域も活性化したでしょうし、「DEVIL'S MONEY FLOW」でも唄ってますけど、どんな場所でもお金が流れていくものじゃないですか。戦争もお金ですよね。武器が売れてナンボなわけだし。武器を作る会社が儲かるために戦争をしなくちゃいけないわけですよね、やってる人たちは。全部が全部、お金で成り立っていて、その時の欲望や感情は人間らしいと思ってしまうんです。そんな商売や人間関係、その辺の日常にゴロゴロ転がってますよね、人が死なないだけで。薄々分かってる騙されてる感じ。「Nuclearpower days」は単純に「そうかもしれないけど自分は放射能で死にたくない!」っていう感情の吐露で。ホントただ「ヤダヤダ」って言ってる小学生並みの感情の吐露で。
──「THE SONG ABOUT BLACK TOWERS」の“BLACK TOWERS”というのは?
吉田:東京タワーとスカイツリーのことです。「東京には2本のタワーがあってですね…」と名古屋のライブのMCで話したら、お客さんとメンバーに笑われましたけど(笑)。この歌は前作の「GIRLS ON FLOOR」に近いニュアンスなんですよ。僕には東京の欲望のシンボル新・旧みたいに見えます。これも小学生並みの「ヤダヤダ」感ですね。
──細かいことなんですけど、イースタンユース監修の『極東最前線2』に収録されていた「WESTERN DEVELOPMENT」では“限界灘”、今回の「WESTERN DEVELOPMENT 2」では“厳戒灘”とそれぞれ違う漢字をあてて歌詞にしていますが、これは言葉遊び以上の意味があるんですか。
吉田:それがまさに福岡へ帰った後の自分の心境なんです。『極東最前線2』に入っている「WESTERN DEVELOPMENT」は福岡時代のことを思い出して書いたんですけど、「イースタンユースが“eastern”なら、こっちは“WESTERN”や!」って感じで歌詞を書いて、「あの頃の俺たちは西の端っこで頑張っとったなぁ」っていう内容なんです。地下室で爆音をまき散らして、何となく未来がない感じもあって(笑)。1993年頃の地元を書いたその歌詞と、2013年に福岡へ帰ってから書き始めた歌詞を比べてみて、自分を取り巻く音楽の状況はあまり変わってないことに気づいたんですね。これは危機だぞと。それで“限界”を“厳戒”に変えたんです。何と言うか、やっぱり西のほうに住む人たちは東の空から昇ってくる太陽を待ってる感じが多々あって。
──ああ、だから「昇る太陽 待っているのヤメ」「沈む太陽 追いかけるのヤメ」という歌詞が出てくるんですね。
吉田:そうなんです。西のほうは太陽が沈む街なんですけど、もういい加減バカボンの歌みたいに逆でもいいじゃないかと。14年ぶりに福岡へ帰ってきて再び厳戒態勢の気持ちになったんです。待ってるのも追いかけるのも嫌なんです。もっと明後日の方向にぶっ飛ばしたいんですよ。気持ちが14年前と同じっていう(笑)。
──「DEVIL'S MONEY FLOW」で「こっちに選ぶ権利がない/こっちに選ぶ権利が全然ない」と唄いつつも、歌詞カードに記載はないけど曲の終盤で「こっちに選ぶ権利はある/こっちに権利も全然ある」と唄っているじゃないですか。そのフレーズからも、吉田さんが今の取り巻く状況を何ひとつ諦めていないのが窺えますね。
吉田:全く諦めてないですね。「国境が曖昧なマネーフロー」という歌詞があるからなのか、「DEVIL'S MONEY FLOW」はきな臭い感じもありますが、これも小学生並み(笑)。そういうのも全部お金でしょ? って僕は思うんですよ。思想的に右も左も関係ないし、主義も主張も関係なく、利権の問題で。だからって、そこで疲弊する必要はないという思いが根底にはあるんです。「こっちに選ぶ権利がない」と唄ってはいるけど、いや、あると。権利は絶対こっちにもあるぞと思ってるんです。結局身の回りの状況とかはどうでも良くて、もう思い込みしかないという。だから集団じゃなくて個人じゃないとダメな気もしますし。
──今や現編成のPANICSMILEのコンディションも万全だし、吉田さんが「夜が明ける前に覚悟を決め」た以上、ただ前進あるのみですね。
吉田:もともと誰に頼まれるわけでもなく、純粋に自分が好きでやっていることですからね。今も新しいアイディアで頭がいっぱいなんです。考えてみれば、第4期のメンバーでシェルターで最後のライブをやり終えた時も僕は次にやりたいことで頭がいっぱいだったし、全く感傷的じゃなかったんですよ。「FREEDOM IS THIS」も「GOODBYE」も第4期のメンバーじゃなければできないと考えていたし、これでもう二度と演奏できないかもしれないなと本気で思ったけど、次の展開の前ではそんなことどうでも良かったんです。
──「FREEDOM IS THIS」も「GOODBYE」も、現編成でも充分やれちゃいましたからね(笑)。
吉田:吉村さんの一言で自分が封印した部分を解禁したりするかもですし(笑)、いろいろと考えてます。それを本気でやるなら、自分がまだやったことがないメロディにしたいし、リズムも、やりたいことがたくさんあるんです。「お前のひとつだけの音を鳴らせ!」という言葉の真意は全然そういうことじゃないかもですし。先輩からもらった宿題はホントにやっかいですね(笑)。
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