Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー友川カズキ(Rooftop2013年12月号)

無頼の酔いどれ詩人が突きつける歌という自爆テロ

2013.12.01

来年初頭に最新作にして渾身作『復讐バーボン』の発表を控える友川カズキが、今年最後のワンマン公演を今月19日(木)に阿佐ヶ谷ロフトAで開催する。
近年は七尾旅人やamazarashiといった若手実力派ミュージシャンたちがこぞってその影響力を語り、自身も地上波のメディア露出が増えるなど、再評価の機運が高まっている友川の単孤無頼の世界を至近距離で堪能できる好機と言えるだろう。
一事が万事、臭い物に蓋をしてその場を凌ごうとする今の日本社会だからこそ、表面を取り繕っただけの音楽ばかりが跋扈する昨今だからこそ、体制と権力に唾棄し続けてきた友川の歌は無垢な輝きを増しているのだろう。身をえぐるような咆哮と弦が切れんばかりにかき鳴らされるギターで迸る激情と抑え難き憤怒を唄い上げる彼の歌は、我々の心と欺瞞だらけの浮き世を容赦なく射抜く。その余りに純度の高い表現を知らずにいるのは勿体ない。友川カズキの歌こそ上っ面だけの絆に中指を立てる僕らの歌なのだから。(interview:椎名宗之)

今の日本で原発と向き合わない人間はダメ

──今日も競輪の帰りですか?

友川:いや、家でずっと富山競輪の中継を見ていました。富山ガラス工房賞の初日なので、選手の調子を見ておこうと思って(笑)。今日は打ってませんけど、明日からまた打ちます。

──僕は友川さんの「競輪は文学である」という持論がとても好きなんですよね。

友川:読解力という文学的な要素が必要なんだけど、人に上手く説明できないんですよ。ただ、競馬や競艇とは全然違う。全くの人力だけで勝負するギャンブルは競輪だけだし、人間くささがあるんです。馬の気持ちやエンジンの気持ちは読めないし、人の気持ちを何とか読み解くしかないんですよね。

──それにしても、3年ぶりに発表される最新作『復讐バーボン』の出来がすこぶる良くて、友川さん自身も手応えを感じていらっしゃるのでは?

友川:ここ20年くらいで一番いいアルバムを作れたなと個人的には思っていますね。年齢も年齢だし、もうそんなにアルバムを作れないだろうなと自分では感じていて、「これでもう最後かもしれない」という気持ちで臨むから気合いが入るんですよ。前は酔った勢いと惰性で作っていたところがあるし、「まだ死なないだろう」って気持ちもあったんですけど、大病を2、3回患うと「いつ死んでもおかしくないな」と考えるようになる。周りもバタバタ死んでるしね。10年くらい前に昔お世話になった人や知人がどれだけ亡くなったかを列記したことがあって、思いつくままに書き上げていったらあっと言う間に50人を超えちゃって(笑)。そうなると、やっぱりここで肚を括らなくちゃいけないと思うようになったんです。

──背水の陣で臨んだからこそ会心の作を生み出すことができたと。

友川:それもあるし、惰性で作ってもつまらないっていう思いがあったしね。やっぱりね、もう若くないっていうのが大事なんですよ。それで逆にムチャができるから。若い時は「また次にやればいい」って余力をキープするところがあるじゃないですか。こっちはもう後がないし、音楽とまっすぐに向き合わないとつまらないんですよ。

──それに加えて、震災の復興と放射能汚染の問題という決して避けられぬテーマも生じてしまった。あの震災の直後から友川さんは「原発を語ることはこの国を語ることであり、自分自身を語ることだ」と発言されていましたよね。

友川:原発に賛成でも反対でもいいんだけど、今この国で暮らしていて原発と向き合わない人間はダメだと私は思います。原発を考えることは自分を考えることなんですよ。国の仕組みや成り立ちが見事なまでに原発の中に凝縮しているし、事故後の対応を見てもホントにろくでもない国だということが簡単に分かる。

──友川さんが折にふれて話す「堕落した島国」ですね。

友川:そうそう。島国だから堕落して濁る一方なんですよ。

──そんな原発をテーマにした楽曲のひとつが「わかば」という大作で、一度聴いただけで度肝を抜かれる強烈なインパクトがありますね。

友川:「わかばを喫っている横で彼は/『海辺のカフカ』を一切に読んでいる」という歌詞は実話なんです。私は村上春樹なんか好きじゃないから読まないんだけど、夜中に喫煙所でわかばを喫っていたら、あるホームレスが私の横で『海辺のカフカ』をずっと読んでいたんですよ。そのホームレスは大した読書家でもないんだけど、眠れなかったんだろうね。それを歌にしただけなんです。

──終盤の「一億二千万人を人質にしての安全安心とは何たることか」という大絶叫は真に迫るもので、まさに真理ですよね。

友川:ホントにその通りでしょう? それは国民全員が思っていなくちゃいけないことですよ。私もご多分に漏れず原発の安全安心に騙されていたし、高度な科学技術を持った大人がまさか自分で自分の首を締めるようなことはないだろうと高を括っていたんです。私は六ヶ所村の再処理工場の建設を反対するコンサートに出たこともあったんですよ。左翼に連れられて、東京からバスで山のてっぺんまで行って。その時も私は「反対と言ってもなぁ…」くらいの気持ちしかなかったわけ。それから原発の危険を説いた本を読んでみたものの、今いちピンと来なかったんですよね。つまり、原発に関してあまりに無知だったんですよ。震災以降、原発の本を山ほど積んで読み漁っていて、広瀬隆の『危険な話 チェルノブイリと日本の運命』も図書館で見つけて読んだけど、私はあの文章にちょっとついていけなかった。「原発は危ないよ」と煽っている感じにしか思えなくて。まぁ、それがあの人の手法なんだろうけどね。もうちょっと小出裕章先生みたいに淡々と語ってくれるといいんだけど。

 

誰か私の歌を聴いて死んで欲しい

──自身の無知に対する怒りも国政に対する怒りと等比で在ったんですか。

友川:そこまででもなくて、根が楽天的だからね。普段からそんなに深く物事を考えていないんです。でなきゃ私はとっくに死んでますよ(笑)。誰でもそうだろうけど、私も今までキツい場面が山ほどあったしね。もう二度と立ち上がれないような危ない場面が。身体も悪くしたし、精神も一度ダメになったけど、それでも私は楽天的だった。もし自分に誇れる才能があるとすれば、それは楽天的な性格だと思っているんです。そのお陰で非常に助かっていますね。

──弟さんが夭折した時も、その才能で何とか乗り越えられたんですか。

友川:いや、あれはキツかったですね。私が33歳くらいの時でまだ若かったし、ホントにキツかった。彼も私と同じく文学が好きで、土方をやりながら本ばっかり読んでいるような男でね。自分で詩も書いていたし、種田山頭火やアルチュール・ランボー、坂口安吾なんかは彼から教えてもらったんです。兄弟でそういう交流があったのは彼だけで、同じ飯場にいたり、一緒に土方や立ちん坊へ行ったり、お互いの詩を見せ合ったりしていて、ライバルみたいなところがあったんですよ。それがたまたま兄弟だったってだけで。だから凄くキツかったし、「無惨の美」という歌にその思いを込めるしかなかったですね。

──原発をテーマにした曲はもうひとつ、36年前に発表した「家出青年」の再録音があります。「原発だろうと何だろうと イヤなモノはイヤだと声を成せばいい」という。

友川:今回、新たに3番の歌詞を付け加えたんです。なぜかやっぱり、若い時に書いた歌のほうがいいんだねぇ(笑)。「生きてるって言ってみろ」も20代の時に作ったし、「家出青年」も27歳くらいで書いたのかな。まるで書き殴ったような歌詞だし、隙だらけなんだけど、理屈じゃないんだね。今の自分が読んでも素直にいいと思えるんです。「家出青年」は、「蒲団にもぐる時 『このままでええや』と思った/蒲団を蹴る時 『このままじゃダメだ』と思った」という2行を当時言いたくて作った曲なんですよ。「生きてるって言ってみろ」にしろ「家出青年」にしろ、自己激励ですよね。人を激励する余裕なんてなくて、あくまで自分自身に向けて唄っているんです。だから自爆ですよ。テロにはなってませんけど(笑)。

──死に至らしめることのない自爆テロですか(笑)。

友川:誰か私の歌を聴いて死んで欲しいんだけどね。プロレスの流血シーンを見て老人がショック死した事件みたいに(笑)。

──「家出青年」は書き加えられた3番の歌詞がとりわけ秀逸で、「『次世代のため』なぞと言うから 滑稽になっちまう/『負の遺産』なぞと括るから たいがいになっちまう」「『貧困が暴力』なら/無知も暴力である/悔しき暴力である」というセンテンスに友川さんが今訴えたいことが凝縮していますね。

友川:この曲に限らず、言いたいことだけ並べたんです。歌はあまり深く考えず、とにかく言いたいことだけを言おうと思っているんですよ。だから詞として読むと前後がおかしいのがいっぱいあるはずなんですが、私はそれでいいと思っているんですよ。目から入るとまた違うんだけど、声にするということは耳から入ってくるわけだから、何とでもなるんです。音ですから。目から入る場合は字面や意味もあるから大いに不条理が出てきますけど、耳は関係ない。工事現場の横に幼稚園があってもおかしくないわけで、それを誰も不条理とは言わないじゃないですか。工事のドーンという音と子どもたちの騒ぎ声が一緒になっても、それが普通なわけですよ。

──今作は頭脳警察の石塚俊明さん(ドラム、パーカッション)、パスカルズの永畑雅人さん(ピアノ、アコーディオン、マンドリン)と坂本弘道さん(チェロ、エレクトロニクス)を始めとする名うてのミュージシャンに加え、ドキュメンタリー映画『花々の過失』で友川さんと共演していたギャスパー・クラウスさん(チェロ)が海外から参加するなど、サウンド面でも新境地を切り拓いているのも大きな特徴ですね。

友川:今回は凄い顔ぶれですよ。私は特にギャスパーと共演したくて、レコーディングするのを待ったくらいなんです。彼は普段フランスにいるので、彼が来日できるタイミングを窺っていたんですね。彼を引き合わせてくれたのはレーベルのスタッフで、ドキュメンタリーの撮影で知り合ったんです。

──チェロの弦だけではなく、ボディをこすることで生まれる不穏な音も歌の情感を引き立てていますよね。

友川:そうなんですよ。「わかば」のギャスパーと坂本さんのダブル・チェロも凄いでしょう? 今回参加してくれたミュージシャンはホントに腕の立つ人ばかりだったし、恐ろしい才能を持った人たちの集まりでしたね。

 

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復讐バーボン

MODEST LAUNCH ML20140130
定価:2,500円(税込)
紙ジャケット二つ折り/歌詞(日英併記)ブック付き
2014年1月30日(木)発売

詩人、歌手、画家、競輪愛好家、エッセイスト、俳優、酒豪。
真に自立して生きることが忘れがちな時代にあって、無頼詩人のロマンを奇跡的に体現するアーティスト、友川カズキ。
この冬、前作から3年ぶりとなる待望のフル・アルバム『復讐バーボン』をリリースする。
1974年のレコード・デビュー以来、実に40年。安泰とも枯淡とも無縁の場所を歩み続ける男の現在地であり、今なお剥き出しのまま転がり続ける魂が到達した新境地——。

【収録曲】
01. 順三郎畏怖
02. 風のあらまし
03. 兄のレコード
04. 復讐バーボン
05. 『気狂いピエロ』は終わった
06. 犬は紫色にかみ砕かれて
07. わかば
08. ダダの日
09. 馬の耳に万車券
10. 夜遊び
11. 家出青年

LIVE INFOライブ情報

本牧の夜〜友川カズキ〜
2013年12月15日(日)横浜:ゴールデンカップ

出演:友川カズキ(Vocal, Guitar)
開演 18:30
前売 2,500円/当日 3,000円(共に1ドリンク付き)
【問い合わせ】ゴールデンカップ 045-623-9353

友川カズキ独演会 〜VINTAGE A VOL.13〜
2013年12月19日(木)東京:阿佐ヶ谷LOFT A

出演:友川カズキ(Vocal, Guitar)
開場 18:30/開演 19:30
前売 3,000円/当日3,300円(共にドリンク代別)
LOFT A店頭、ローソンチケット(Lコード:36536)、e+にてチケット発売中
【問い合わせ】LOFT A 03-5929-3445

友川カズキ そして りりィ+洋士&深沢剛
2013年12月24日(火)東京:渋谷La.mama
出演:友川カズキ(Vocal, Guitar)、りりィ(Vocal)+斎藤洋士(Vocal, Guitar)&深沢剛(Harp)

開場 19:00/開演 19:30
前売 3,600円/当日3,900円(共にドリンク代別)
La.mama店頭、ローソンチケット(Lコード:73215)、e+にてチケット発売中
【問い合わせ】La.mama 03-3464-0801

友川カズキ『復讐バーボン』リリースライブ at APIA40
2014年1月25日(土)東京:APIA40
出演:友川カズキ(Vocal, Guitar)、永畑雅人(Piano, Accordion, Mandolin)、石塚俊明(Drums)、金井太郎(Guitar)
ゲスト:ギャスパー・クラウス(Cello)

時間・料金は後日発表
【問い合わせ】APIA40 03-3715-4010

友川カズキ『復讐バーボン』リリースライブ in 大阪
2014年1月29日(水)大阪:心斎橋ジャニス
出演:友川カズキ(Vocal, Guitar)、永畑雅人(Piano, Accordion, Mandolin)、石塚俊明(Drums)
ゲスト:ギャスパー・クラウス(Cello)

開場 18:30/開演 19:30
前売 3,800円/当日 4,200円(共にドリンク代別)
ぴあ(Pコード:216-758)、ローソンチケット(Lコード:58462)、e+にてチケット発売中
【問い合わせ】心斎橋ジャニス 06-6214-7255

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