客と刺し違える覚悟で臨むステージ
──せっかく阿佐ヶ谷ロフトAにご出演して頂くのでロフトの話も伺いたいのですが、西荻窪にあったロフトで鼻の骨を折ったという話は事実なんですか。
友川:ホントの話ですよ。客とケンカになって、店の人ともケンカになったんじゃないかな。オーナーの平野(悠)さんがいたかどうかは覚えてないんだけどね。西荻のロフトって狭かったじゃないですか。私が唄ってる横で焼きそばを作ってたりして、それも頭に来たんだよね。あと、一番前の客が唐揚げか何かをムシャムシャ食べてたのよ。それも頭に来てケンカになって、客に殴られたわけ。それで店の外で血だらけになって倒れていたところを、たまたま通りかかった諏訪優さんが助けてくれたんですよ。ウィリアム・バロウズやアレン・ギンズバーグの翻訳で知られる詩人のね。それがきっかけで諏訪さんと親交を深めて、なぜか東北のツアーを一緒に廻ったりもしましたよ。
──じゃあ、ロフトに対してはあまりいい思い出がありませんか?(笑)
友川:そんなことないですよ。ただ、平野さんが曼荼羅の渡部(洪)社長と何かの音楽雑誌で対談していて、「もう二度と友川をロフトに出さない」って話していたのを読んだんです。「友川のことは絶対に許さない」って。許さないも何も、鼻の骨を折った私のほうこそ許さないよって感じでしたけどね(笑)。でも、それから何年も経って新宿のロフトに2、3回呼んでもらったはずです。バンドとの共演でね。今度の阿佐ヶ谷ロフトAは私一人ですけど、ガッツリ気合いを入れてやらせてもらいますよ。
──63歳となった今もずっとあの尋常ならざるテンションのままでライブをやり続けている友川さんですが、体力的な衰えを感じたりはしませんか。
友川:いや、それはないな。ステージの体力はなぜか全然大丈夫。でも、酒の体力はだいぶ落ちましたね(笑)。しこたま呑んじゃうと次の日が全く使い物にならない。ステージは未だにペース配分も何もなく、ただひたすら気合いを入れて唄うしかないんですよ。そうやるしか方法がないので。
──今の友川さんならもう少し広い会場でも充分にライブをやれると思うのですが、100人に満たない規模の会場でライブをやるのは意図するところがあるんですか。
友川:きっちり決めているわけじゃないんですけど、だいたい100人くらいが限界ですね。野外は全部お断りしていて、それは私が散漫な気持ちになってしまうからなんです。自分が出た高校の学園祭に呼ばれた時は能代市の文化会館を借りて1000人の前で唄いましたけど、あれはまぁ反面教師としてだったから(笑)。ホールはやっぱり、どこか他人行儀な気分になるんですよ。客と刺し違える感じにはならない。金をもらうか、金を払うかの違いはあっても、私と客は同等の立場ですからね。
──友川さんの歌は、友川さんと同等の立場にならないと真正面から向き合えませんよね。身体が弱った時にはとてもじゃないけど聴けない。計り知れないエネルギーが歌に渦巻いているから、こちらが参っている時は拮抗できないんですよ。
友川:そうでしょう? 私だって体調が悪い時に自分の歌を聴いたら死ぬと思いますよ(笑)。ただ、ステージだけは体調が悪くても全然やれる。体調のいい時のほうが歌も空滑りしちゃうし、適度に体調の悪い時のほうがいいんです。だから体調が悪くても全然大丈夫。何かしら鬱屈した溜めがないと、球が遠くまで飛ばないんですよ。ポーンと水鉄砲みたいになっちゃう。
──ということは、堕落して濁る一方のこの島国で暮らす以上、友川さんの歌がますます冴え渡っていくことになるんでしょうね。とても皮肉なことですけど。
友川:多分、私の歌を聴く若い人たちが求めているのはそこなんでしょう。若い人はそれを見つける嗅覚が優れているし、捕まえるのが早いんです。今の日本はこれだけ危機に瀕しているのに、テレビを見ても何もかもが明るいじゃないですか。全部が全部、上っ面だけでね。自分の口の中へ手を突っ込んで内蔵を掴み出すような感覚をみんな忘れている。人間は本来、獣なんですよ。それを忘れて表面だけつるんとした生き物になってしまったから、原発みたいなものに簡単に騙されるんです。この国はなぜ原発を残したいのか。要は金です。自国の放射能汚染もろくに処理できないのに、他国へ原発を輸出しているんですよ? 最低でしょう? 「盗人猛々しい」とはまさにこのことですよ。
──今もこうして唄い続けているのは、時代に呼ばれているからという感覚もありますか。
友川:長く唄ってきて良かったとは思っています。やっと時代に間に合ったんだなという気持ちですね。だからもうちょっと頑張ってふざけないとダメだと今は思っているわけ。ちゃんと期待に応えてね。
──こんな時代だからこそ全力でふざけてやろうと?
友川:そう。全力で一人盆踊り(笑)。客を集めて鼻をかんだ程度のことをやってもシラけるだけ。ここはやっぱり自爆テロを仕掛けて目に物見せるしかない。だからまだまだ作品を作り続けなくちゃダメだと思っていますよ。まぁ、音楽よりも競輪を優先するのは変わらないけどね(笑)。