心根にあるのは希望を持って前向きに生きたいという思い
──考えてみれば、震災が起こった2011年は牟田さんが再加入して新生ビーツが始動した年でもあったんですよね。
OKI:そうなんです。今の4人で最初に作ったのが「POWER TO YOU」で、「折れない心で歩くと決めた」という自分たちの決意表明だったわけですよ。その時のツアーが『REBORN』というタイトルで、それが奇しくも震災の直後だった。ビーツの心根にあるのは希望を持って前向きに生きたいという思いで、それを昇華した音楽をやってきたから、震災という思いもよらない事態が起きても「跳ね除けて 立ち上がる」しかなかったんです。
牟田:OKIさんの言う通り思いもよらない2年間だったわけで、14年振りにビーツに参加していなければあれほど東北に行くことはなかったかもしれないし、向こうでいろんな友達ができたのはビーツをまたやるようになったからこそだと思うんですよ。
──牟田さんにとっては実に17年振りとなるビーツのフル・アルバムのレコーディングでしたが、手応えは如何でしたか。
牟田:すでにシングルを2枚出していたし、今回も録る前にリハーサルをきっちり積んでいたので何の問題もなかったです。
山根:牟田さんとは最初から上手く噛み合っていたし、凄くやりやすかったんですよ。今度のレコーディングも、各自が何をやるべきかがはっきりしていたし。
牟田:その場で何かが突発的に変わるようなこともなかったし、自分から合わせなくちゃいけないこともなかったし、自然な形で臨めましたよ。
OKI:そりゃ、古くは「十代の衝動」を叩いていた人ですからね(笑)。今さら何の問題もなかったですよ。それに、リハーサルは12月から徹底的にやっていましたから。年末年始返上でやっていたのは歌詞のディテールとか俺個人の作業だったんです。あと、散らばった音のピースを繋ぎ合わせて煮詰めていく作業ですね。そうすることで音に魂が入るから、メンバーにもより伝わりやすくなるんですよ。
──歌詞は何度も推敲されたんですか。
OKI:推敲と言うよりもまとめ作業ですね。とっ散らかった思いを如何に言葉に当てはめていくかが肝なんですけど、それはいつもなるようになるんです。ある種のマジックですね。誰にも説明ができないし、どんな工程を踏んでいるのかはメンバーすらも知らないっていう。でも、今回は詞の上がりが早かったんですよ。レコーディング前に全曲上がっていたので、メンバーにも見てもらいましたから。
──全曲シングル・カット可能なクオリティな上に冗長なところが一切ないし、聴き所はすべてだと思うんですが、とりわけアルバムの後半、「瓦礫の町で」から「遥か繋がる未来」までの大作4曲の連なりには思わず息を呑んでしまいますね。
OKI:そう言ってもらえると嬉しいです。最後の4曲は文字通り遥か未来へ繋がっていくニュアンスを出したかったし、そこが今回のアルバムの大きなポイントだったんですよ。長いこと音楽を続けていて、伝えたいことがここまではっきりしていたのは稀だったし、それだけ思いが強いのなら今回のような作品が出来上がることは当然だと思っていました。それはジャケットも然りで、未来へと繋がる突き抜けるような青空を撮るつもりだったし、ひとつの軸がしっかりとあったのでやるべきことがすべて明快だったんです。いざ録る段階になれば全幅の信頼を置けるエンジニアの山口州治さんがいてくれたし、メンバーのスキルもありますから、何の心配もなかったですね。実際、どの曲もほぼ一発録れば充分でしたから。
──溢れる思いが強いからこそ、もう1テイク録りたいという衝動に駆られたりしませんか。
OKI:そういう色気は自分でストイックに止めますね。若い頃は「もう少しやればもっと良くなるだろう」と思っていましたけど、今は自分でいい塩梅が分かるようになったので。「ちょっと荒削りかもしれないけど、これでOKなんだ」っていう判断を見極めることができるようになりました。
──雄大さを感じさせる「まだ見ぬ景色」のようなミディアム・チューンを弛緩なく聴かせるのも相当な技量が必要ですよね。
OKI:シンプルなアレンジですしね。でも、今のリズム隊は凄く強力だし、SEIZIが「まだ見ぬ景色」を見せてくれるようなギターを弾いてくれたことが大きいでしょうね。壮大な景観が目に浮かぶようなギターだったので。
──SEIZIさんがボーカルを取る「ROCKIN’ GROOVY TIME」は、ツアー先で出会うオーディエンスとの絆をテーマにしているように感じたんですが。
SEIZI:やっぱり、東北へ何度も足を運んでいることも関係しているのかもしれないですね。詞を書いていた時に「ROCKIN’ GROOVY TIME 巡り会えたら/ROCKIN’ GROOVY TIME 一緒にやろうぜ」というサビの部分だけは自然と出てきたんですよ。曲のネタ自体は、出だしのところだけ去年の秋ぐらいにはもうあったんですけど、1月に入ってあんちゃんが詞を全部揃えてきたのを見て、俺も「ROCKIN’ GROOVY TIME」の詞を最後まで書き上げようと一念発起したんです。珍しくデモテープを作ってあんちゃんに聴かせたら「なかなかいいじゃないか」と言われたので、自分の作文をもとに清書してもらったんですよね(笑)。
OKI:まぁ、いわゆる補作詞ですよね。
SEIZI:自分らしい世界観や雰囲気を引き出してもらうんですよ。
OKI:詞の技巧みたいなものは、SEIZIには必要ないんです。欲しいのは思いですから、それを形にするのが俺の仕事なんですよ。SEIZIが気の利いたフレーズを考えてくる必要はなくて、荒削りでもいいから思いの溢れた2行でもいい。そこから俺が詞を広げていけるし、そうすれば自分の思いもそこに載せることができる。そういう言葉はメロディが呼んでくれるんです。それに「ROCKIN’ GROOVY TIME」は凄くファンタジックなギターで、ああいう要素は俺の中にないんですよ。視界が開けていくようなコード使いだし、それがああいう詞を呼び起こすんです。まさに相互作用ですね。