今の時代にも通ずる楽曲の普遍性の高さ
──一郎さんもARB時代のレパートリーをファンに渇望されることが多いのでは?
一郎:今でもライブでやってるんだよ。30を過ぎてから自分でも唄い出して…それでもう30年近く経つんだから驚くよね。年末にも『恒例・謳い納め独演会 2012』っていうライブをやって、そこでは俺がいた時代のARBの全シングルを頭にやったりしてさ。それは毎年あるテーマを設けてやる年忘れライブなんだけど、去年はKEITHとも話ができたからARBをメインにやろうと思ってね。けっこうARBの曲はライブでやってるんだけど、俺の時代の曲で言えば「宝くじ」だけはやったことがない。あれだけは唄いながら弾けないんだよ。
──今改めて当時のレパートリーを再演すると、どんなことを感じますか。
一郎:自分の作曲だろうと違う曲だろうと関係なく、その時のシチュエーションと今の時代の違いを考えてみたりする。たとえば、「BAD NEWS(黒い予感)」の詞を当時ビクターのディレクターだった高垣(健)さんのところへ持っていったら、「お前ら、クーデターなんてホントに起きると思うか!?」なんて言われたわけ。でも、実際にはそれから15年後にオウムが地下鉄サリン事件を起こしたりした。だから全部が全部とは言わないけど、今の時代に通ずる普遍性の高い曲が多いような気がするね。
──ちなみに、イベントに出演する各編成の割り振りはもう決まったんですか。
アツシ:もうだいたい決まりましたよ。そろそろチーム分けをしないと間に合わないので。曲も各チームのヴォーカルに選んでもらって。
一郎:やりたい曲が重なったりしない?
アツシ:それが今のところ重なってないんですよ。
一郎:ホント!? まぁ、俺がいた時だけで60曲くらいあるわけだから、それもそうか。
KEITH:デビュー30周年の時にARBのアルバムが紙ジャケで再発されたじゃない? あの時にスタジオでリマスタリングされたのを聴いて、自分でもやっぱりいいなと思ったんだよ。新しい発見もいろいろあったしね。
一郎:ただ、初期の曲はみんなで苦しみながらも楽しく作ったから今でも穏やかな気持ちで聴けるかもしれないけど、俺がいた最後の頃は俺が勝手にアレンジや音作りをやってたから、KEITHや凌が当時の曲を聴くとムカつくこともあると思うよ(笑)。みんなの意見も聞かずに勝手にセッティングしたり、テンポを決めたりするような感じだったから。
KEITH:まぁ、俺も俺なりにアイディアを出してたけどね。
一郎:ちょうどエレクトロニクスも変貌を遂げていた時期だったわけ。タイトなスネアの音を出すためには、皮を締めるよりも反響板とかを使ったほうが効果的だったりしてさ。そういう新しい試みをどんどんやってみる時代だったし、ドラマーが腕とチューニングだけで戦う時代じゃなくなっていた。あと、俺がコーラスを入れるためにマイクを立てていて、そこに紛れ込んでいたスネアの音がめちゃくちゃ良かったりする。それでオフマイクの存在を知って、いろんなアイディアを試すようになったりね。『W』ではそういうことがいろいろと勉強になった。
──今だから話せる『W』の制作秘話があれば聞かせて下さい。
一郎:『W』は2日間タダでスタジオを借りて、マルチで全曲録ってみたんだよね。それを3日目から録り直したんだよ。「ウイスキー&ウォッカ」のドラムは軽く録った後にバスドラや手だけを録ろうってことになったんだけど、一箇所だけ絶対に再現できないところがあるんだよね。16ビートを刻んだままスネアとクラッシュとキックが鳴ってる部分があるから(笑)。「愛しておくれ」はデモのドラムが抜群に良くて、ドラムを残して他を入れ替えたりしたね。
藤井:エンジニアの山口州冶も新しいことに挑戦するのが好きだったから、アイディアはいっぱいあったよね。
──メンバーもスタッフも、いろんな知識を貪欲に吸収して音楽に昇華していくスピードが凄まじく速い時期だったんでしょうね。
一郎:でも、KEITHは演奏するのは好きだけど、レコーディングが嫌いだったからね。早くドラムを叩き終えて帰りたがってたからさ(笑)。
KEITH:そう、ライブは好きなんだけどね(笑)。
一郎:もともと藤井さんがプロデューサー的立場で、全体の統括をエンジニアと2人で進めていたんだよ。それがちょっとずつ変わっていって、楽器のアレンジメントやミックスを俺たちにやらせてくれるようになったんだけど、最初は完全に藤井さんが楽器もヴォーカルもアレンジも総監督をやっていた。
藤井:それが徐々に棲み分けができるようになってね。サウンドに関しては一郎が責任を持ってやってたし、詞を含めた世界観は凌が担ってたよね。
一郎:何かさ、俺たちが演奏を録ってる時に凌は向こうの部屋で詞を書いてたよね。詞を書いてると思ったら挿絵を描いてたりしてさ(笑)。
藤井:またそのイラストが凄くいいんだよね。