曲が求めているものを適宜にあてがう
──中川さんが持ち寄って形にした曲もあるんですよね?
中川:僕は3曲ほど作りました。「ジャグジー[Jacuzzi]」、「ヘイセイムク」、「a white menace」ですね。「ジャグジー[Jacuzzi]」と「ヘイセイムク」は大地さんが入ってからわずか3週間くらいで急いで作った曲なんですよ。
大地:速攻で作った曲がタイトル曲になっちゃったっていう(笑)。
中川:短期間で集中してその2曲を作れたのは、大地さんが入った時の雰囲気が良かったからだと思うんです。最初に曲を持っていった時は「ちょっとやめようか?」って話になっていたんですけど、大地さんが「格好いい曲だから、やるだけやってみようよ」と言ってくれて、それがいい方向へ転がっていったんですよ。
大地:けっこういい具合のところまで出来てたから、単純にもったいないなと思ったので「やりましょうよ」と言ったんです。
──「ジャグジー[Jacuzzi]」の歌詞はまさに健さんならではと言うか、照れながら一緒に湯船に浸かっている健さんと吉村(秀樹)さんの姿が目に浮かぶようです(笑)。
中川:凄いですよね。僕もあの歌詞は耳にスパッと入ってきたんですよ。リフがけっこうヘンな感じだったから、よくあんなふうに歌を乗せたなと思って。
谷口:実際にああいうシチュエーションを友達と経験したことがあるんですよ。友達の家のジャグジーで男3人裸になっているっていう。我ながら凄い光景だなぁと思って(笑)。まぁそれはともかく、楽しい曲ですよ。「ジャグジー[Jacuzzi]」と「ヘイセイムク」の2曲は、僕はまだちょっと早いんじゃないかなと思いましたけど、暁生君がどうしてもみんなで形作りたいという熱意があったからこそ完成できた曲ですね。
中川:今回の収録曲はどれも作り溜めしてきたものばかりだったので、どうしてもあと2曲欲しかったんですよ。だからちょっと作為的なところもあるかもしれないけど、アルバム全体を俯瞰すると絶対にそのほうがいいと思って。
──いや、作為的な匂いは微塵も感じられませんよ。その真っ新な2曲も適宜な位置に配されて、全体の流れも淀みないと思いますし。
中川:それはやっぱり、健さんの歌が僕の曲を活かしてくれたからなんでしょうね。そういうのは初めての経験だったし、締め切りがあったのが良かったと思います。アレンジをヘンにこねくり回して長くするよりも、瞬発力でスパッと曲を終わらせることができたので。
──タイトル・トラックの「ヘイセイムク」は終始ピアノと寄り添う意外性のある曲ですけど、ちゃんと調和がとれていますね。
谷口:素敵なゲストに演奏して頂いたんですよ。素晴らしかったですね。
中川:あのピアノはkowloonやstimのキーボーディストである中村圭作君に弾いてもらったんです。
──「at the chime」に入っているフルートは?
中川:今は在日ファンクとかをやっている後関好宏君ですね。もともとはサックス・プレーヤーなんですけど。
谷口:そういった人脈は僕らにはないので、暁生君に頼りっぱなしだったんですよ。曲の雰囲気をより良く出すためにはどうすればいいのかを考えて、それに見合うゲスト・ミュージシャンを呼んでくれたのは全部暁生君なんです。
中川:後関君も圭作君も古い付き合いだし、どういうプレイをするかが分かるから、その曲に対してどんな効果をもたらしてくれるかイメージしやすかったんです。結果的には期待以上の出来でしたけどね。
──それと、「Kattoo」や「ヘイセイムク」で聴かれる健さんの火を吹くようなトランペットも忘れちゃいけない特効薬ですよね(笑)。
中川:「ジャグジー[Jacuzzi]」もそうですもんね(笑)。
谷口:トランペットもけっこう長く吹いているんですよね。ギターを弾くのをやめてからですから。どれだけ他のギタリストとリズムが合わないんだ!? と思って、ギターはけっこうすぐにやめたんです(笑)。
──そもそも何がきっかけでトランペットを吹くようになったんですか。
谷口:管楽器が効果的だと思ったし、トランペットはちょっとだけやったことがあったんですよ。
──そのトランペットの効果を含め、ゲスト・プレーヤーを迎える柔軟さと、それをも呑み込む音楽性の幅が今のBEYONDSに出てきたとも言えますよね。
谷口:すべては暁生君の発想と実行力の賜物ですね。せっかくのレコーディングだから妥協しないでやろうっていう。
中川:結局、その曲が求めているものをあてがう感じなんですよね。その意味で言うと、実はもっとやりたかったことがあって、「a day leaf of..」や「volcanoes」とかにパーカッションをもうちょっとフィーチャーしたかったんですよ。「volcanoes」の最初のAメロの部分は大地さんが「WAVEDRUM」っていうシンセ・ドラムでコンガの音を出しているんですけど、生のコンガの音とは程遠いんです。もっとパーカッションを入れたかったし、僕は今回そこを一番悔やんでますね。