Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューBEYONDS(2012年3月号)

新たな布陣で生成された“過渡期の傑作”の無垢なる輝き

2012.03.01

バンドのダイナミズムは何事にも代え難い

──でも、大地さんとしては、他でもない健さんからの頼みを断る理由もないという感じだったのでは?

大地:うん、そうですね。それに、自分としても久し振りにドラムを叩きたかったんですよ。だいぶブランクがあったので、もうそろそろバンドを始めたいなと。でも、ドラム復帰がまさかBEYONDSになるとは思わなかったですけど。

──17年振りのBEYONDS復帰ですもんね(笑)。

大地:いろいろと事情があって、かれこれ3年くらいドラムを全然叩いていなかったんですよ。だからまたBEYONDSをやることよりも、ブランクに対する緊張のほうがありましたよね。

谷口:でも、それでいざ叩いてもらったらもう…さすがだなと。天賦の才能ですよ、あれは。

中川:しかも、あの短期間でよくやりましたよね。大地さんが参加した最初のライヴからレコーディングに入るまで、確か5、6回のリハしかやってないんですよ。それも1回のリハは正味3時間くらいですから。その上、最後のほうのリハでさらに2曲突っ込む有り様だったのに(笑)。

谷口:つまり、その2曲の曲作りに大地も参加しているわけなんです。

──大地さんが復帰した直後のライヴを見た時に、健さんがとても唄いやすそうだったのが印象に残っているんですよね。そこはやはり20年来の付き合いの賜物なんだろうなと思って。

谷口:確かに、凄く伸び伸びと唄えるようになった気がします。アヒト君はアヒト君の良さがもちろんあったんですけれども、ドラムが替わるとやっぱり歌も違うんだなと実感しましたね。あと、暁生君とのコンビネーションも凄いなと。暁生君も凄く伸び伸びと弾いていたし。

──テッキンさんとの相性も予想以上にいいですしね。

大地:やりやすいですね。テッキンは割と分かりやすいラインを弾くと言うか、彼の大らかな人間性そのものが音に表れてますから。バンドに入ってポイントだったのは、自分のレヴェルをどう上げるかっていうところだけだったんですよ。入っちゃえば上手いことミックスされるだろうと思っていたので、後は自分のレヴェルを引き上げるのにイメージ・トレーニングを重ねることにして。

──1994年までのBEYONDSと現在のBEYONDSとでは音楽性に変化がありますが、そのギャップに戸惑いみたいなものはありませんでしたか。

大地:確かに変化はありますけど、谷口健があの詞を唄い上げれば結局はそれがBEYONDSなんだなと思いましたね。音がどういうふうに変わろうと、根っこにあるものは同じと言うか。

谷口:全然ビックリしなかったでしょ?

大地:いや、ビックリはした(笑)。でも、その間にfOULがワンクッションとしてあったし、年齢も重ねてきたわけだし、そういう変化はごく自然な流れなんだなと思った。昔のBEYONDSは、若いがゆえの生真面目さとか緊張感とかがありましたから。彼(谷口)にも言ったんですけど、fOULの時よりも世界観が広がりましたよね。fOULの時はギターを弾きながら唄うという制約がありましたけど、今は唄うことに専念できているから凄く気持ちよさそうに唄うなと僕も思ったんですよ。

──今回発表される『ヘイセイムク』は、健さんにとってBEYONDS史上最も理想的な布陣で制作に臨めた作品と言えそうですね。

谷口:そうですね。かなり理想に近いと思います。

大地:「近い」っていうことは、まだ頑張らないとダメってことだよね?(笑)

谷口:うん。それは自分を含めてですけど。本当のことを言うと、アヒト君から「これ以上BEYONDSをやれない」と言われた時に、もうバンドをやめようかなと思ったんですよ。でも、そのことを暁生君に伝えて、「判断はすべてお任せします」と彼から言われた時に、何とも言いようのない寂しさがブワーッとこみ上げてきて…。テッキンと暁生君はバンドを続けたいと言ってくれていたんですけど、アヒト君がバイバイならもういいかな…くらいに僕は正直思っていたんです。だけど、また一からバンドをやるのも大変だし、バンドをやらずに弾き語りだけでやっていくのかなぁ…と思ったら、それも何か違う気がして。仕事と家庭に勤しんで、谷口健個人として時々弾き語りのライヴをやるのは、ちょっと寂しいなと。やっぱり、バンドでやるあのダイナミズムというのは何事にも代え難いものがありますからね。それに、テッキンも暁生君も目を輝かせながら「これから新しい曲を作ろう!」って意気込んでくれていたし、そんな時にやめるのは単純に惜しいと思ったんです。それで大地に頼んで、この短期間でバンドが息を吹き返して、こうしてアルバムまで出せることができて…僕は本当に幸せだなと思っているんですよ。

如何に遊んでベロを出すかがパンクの醍醐味

──単純なドラマー交代劇以上のものがあったんですね。

谷口:『WEEKEND』以降、4年というブランクがありましたけど、この『ヘイセイムク』は僕にとっては焦りながらも前倒しできた作品だと思っているんです。本当はもっと新しい曲があと2、3曲はあってもいいかなと思ったんですけど、そういうバンド内の事情があったし、その意味でも過渡期のアルバムかもしれないなと思って。と言うのも、善郎が作った、もう4年くらいライヴでやっている曲もあるんですよ。「懺悔、開眼、明日」、「volcanoes」、「Oak」なんかは善郎やアヒト君がいた頃から長いことやってきた曲なんです。

──過渡期のアルバムとは言え、収録曲のクオリティはどれも折紙付きだし、ライヴでお馴染みの曲でも大地さんが入ったことで新たな魅力が増していますよね。たとえば「ベニコンゴウ」の緩急のついたアンサンブルは現体制のBEYONDSの良さが凝縮した逸品で、これほどまでに力強く、勢いがありつつ雄大なプレイはなかったし、音の融和が過去随一なんじゃないかなと思うんですよ。

谷口:今のBEYONDSには「ベニコンゴウ」みたいな曲が特によく合っているんですよね。ああいうミディアム・テンポなロック・ミュージックっていうのは、大地が入った今の布陣だからこそやれると思うし、これからもっとああいう曲をフィーチャーしていきたいんですよ。

──スケールの大きさとダイナミズムを味わえるという意味では、「Kattoo」は「ベニコンゴウ」と双璧を成すと思うんですが、この「Kattoo」は前作の「人間の証明」と通ずる世界観があるんじゃないかと思って。

谷口:ありますね。「Kattoo」も「人間の証明」も、もっと遡れば「Touch My Life」も、僕の亡くなった弟のことを唄っていますから。歳をとればとるほど、自分の家族のこととか子供の頃の記憶や風景が蘇ってくるんですよ。それはfOULの時も同じで、最後に出した『アシスタント』にもそういう曲があるんです。自分なりに曲や歌詞を追求したい時は、自分の育った場所にフラッと行って遠い記憶を呼び覚ますと言うか。仕事で行き詰まった時もそうなんですよね。中野の落合とか上高田とか自分の育った所へ足を運ぶと、自ずとそういう歌詞や曲になるんです。

──その「Kattoo」然り、健さんが仕事に行き詰まると決まって訪れるという銀杏並木をモチーフとした「航路」、まだ幼い娘さんに対して唄った「a day leaf of..」と、健さんのパーソナリティがいつになく表れているようにも思えますが。

谷口:そういうニュアンスも、今まで以上にさらけ出せるようになったのは確かですね。BEYONDSの初期からfOULにかけての頃は、内なる感情をなるべく抽象的にまとめようとしていたんですけど、それをもっと具体的に出せるようになったのかなと。「ベニコンゴウ」の歌詞もそうなんですけど。

──「ベニコンゴウ」には、先の大戦においてアッツ島やガダルカナル島で命を落とした日本兵に思いを馳せる歌詞が出てきますけど、前作で言えば「29 nightingales」に近しいテーマですよね。

谷口:そうですね。「29 nightingales」の内容をもっと具体的に唄えるようになりました。ただ、僕としては単なる反戦歌にはしたくなくて、もっとアクティヴで刺々しい歌にしたいんです。

──刺々しくヒリヒリしつつも限りなくポップであるというのが、「ベニコンゴウ」に限らず『ヘイセイムク』の収録曲すべてに言えることだと思うんですよね。

谷口:うん、ポップなのは凄く大事ですね。

──「ベニコンゴウ」というのはインコのことですよね?

谷口:そうです。

──「ヘイセイムク」の「ムク」はムクドリのことですか?

谷口:ニーチェの『生成の無垢』の「ムク」ですね。本当は『生成の無垢』から拝借して『セイセイムク』にしようかなとも思ったんですけど、それじゃあまりに重いだろうと思って『ヘイセイムク』にしたんです。僕なりの造語ですね。

──『シルトの岸辺で』のジャケットにも鳥が描かれていたし、「29 nightingales」の「ナイチンゲール」は小夜鳴鳥(ツグミ科の灰色がかった色の小鳥)のことだったじゃないですか。それに加えて今回「ベニコンゴウ」という曲があったり、ジャケットにも朝靄を羽ばたく黒い鳥が描かれている。だから、健さんにとって鳥は自身の感情や願望を投影しやすい象徴なのかなと思ったんですよね。

谷口:ああ、なるほど。言われてみればそうなのかもしれない。歌詞に関して言えば、クソ真面目な主義主張っていうのが僕はノー・サンクスなんですよ。そこを如何に遊んでベロを出すかっていうのがパンクの醍醐味だと思っているので。

中川:その考え方には凄く共感しますね。言葉を紡ぎ出せる人は純粋に凄いなと思うし、それこそが才能だと思うんですよ。僕がいいなと感じるアーティストはみな言葉が強いし、健さんが今言ったみたいに直接的じゃなくて遊びがあるっていうのが重要だと思うんですよね。やっぱりユーモアが大事なんですよ。

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ヘイセイムク

POPGROUP RECORDINGS POP131
定価:2,500円(税込)
2012年3月21日発売

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1. ジャグジー[Jacuzzi]
2. volcanoes
3. Oak
4. a white menace
5. a day leaf of..
6. Kattoo
7. ヘイセイムク
8. ベニコンゴウ
9. 懺悔、開眼、明日
10. 航路
11. at the chime

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