一番伝えたいことは人と人とのつながり
──「believe」の歌詞は柴田さんご自身によるものですが、どんな部分に難儀したんですか。
柴田:自分で歌詞を書く以上、ちゃんと構想や自分なりのこだわりもあったんですけど、第三者には伝わり切らない部分もあるじゃないですか。でもそこは曲げたくないし、簡単に曲げられるほど薄っぺらくないし…。「私はこう思います」「でもそこは変えたほうがいい」というように、スタッフさんとかなりのディスカッションをしましたね。「この歌詞はこれでいいと思う。でも、もっと良くなるかもしれない」って言われたりすると、じゃあどうすればいいんだろう? とまたそこで悩んで。最後の最後で「タイトルをどうしようか?」という話になって、マネージャーさんと制作担当の方と3人でああでもないこうでもないと話し合いながら「believe」に決めたんです。忘れもしない、サイゼリアで(笑)。
──さすが庶民派ですね(笑)。
柴田:「believe」の最初の一行は「believe in Love つよく愛をつないだら」じゃなくて、「つよく つよく愛をつないだら」っていう歌詞だったんですよ。でも、最初はもっとインパクトのある言葉のほうがいいということで、いろいろと悩んだ挙げ句に「つよく」を「believe in Love」に変えたんです。「離れていても二人 信じあえるから」という歌詞もあったし、「believe」がいいかなと思って。それに「愛」という言葉が何度も出てくるから「believe in Love」でいいんじゃないかと。
──そこから「believe」に決まったわけですね。
柴田:頭の“b”は大文字じゃなくて小文字にしたのが私なりのこだわりだったんです。ちっちゃなこだわりですけど(笑)。
──結局、「believe」の歌詞を完成させるまでどれくらい掛かったんですか。
柴田:2、3ヶ月は掛かりましたね。下書きでA4サイズの紙にいろんな言葉をごちゃごちゃ書いていたんですけど、それが8枚くらいになりました。「オチのサビと1番、2番のサビは歌詞を変えたほうがいい」とかスタッフさんにいろいろとアドバイスをもらって何度も書き直していたら、結構な枚数になりましたね。その紙をずっと取っておいたんですけど、この間全部捨てました。かなり辛かったので(笑)。
──曲先でメロディに合わせて言葉を紡ぎ出す大変さもありますしね。
柴田:そうなんです。「believe」は最初から仮で歌詞が付いていて、そのまま発表できるくらいの立派な内容だったんですよ。私はその元の歌詞が凄く好きで、リード曲を決める選曲の段階でも絶対にこの曲がいいと思っていたくらいなんです。1回聴いた時からそう思っていたし、それくらいインパクトのある歌詞だったんですよ。だから余計に元の歌詞のイメージを消すのが難しかったんですよね。
──「YOU & I」の歌詞を書いた時も同じようなことを仰っていた記憶がありますけど。
柴田:いや、今回は「YOU & I」の時以上に苦労しましたね。あの時は初めて歌詞を書くということで、割と私の好きなように書かせてもらったんです。今回は本格的なソロ・デビュー曲ですし、より良いものを追求するためにも周りのスタッフさんたちの意見を聞く必要があったんですよね。
──歌詞を書く上で悩んだのは具体的に言うとどんなところだったんですか。内なる心の声と実際に出てくる言葉に温度差があったりとか?
柴田:まぁ、言葉をあまり知らないというのもありますし(笑)。
──柴田さんらしくナチュラルに、判りやすい言葉で充分だと思いますけどね。
柴田:そうなんですよ。だからサビは一番伝えたいシンプルな言葉が良かったし、歌詞はできるだけ変えたくなかったんです。自分は歌詞を書いているから歌の世界観や伝えたいことが100%判っていますけど、スタッフさんたちはそこまで理解できないこともあるんですよね。理解できないからこそ、自分に置き換えて考えてみたりして勉強にもなったんですけど、自分のこだわりを通すことと第三者の意見を聞くことの割合をどれくらいにすればいいのかが一番迷ったかもしれません。抽象的な言葉を使いすぎると歌詞の意味が伝わりにくくなりますしね。私としては、1番はちょっとあっさりしたお醤油ベースで行きつつ、2番は濃いソースみたいなもっと深いところに行くイメージで書きたかったんです。
──調味料にたとえると(笑)。
柴田:はい。最初のほうに書いた歌詞は、1番と2番で味の濃さがはっきりと分かれていたんです。でも、途中で震災があって、曲を通じて伝えたいことが変わったんですよね。こんな大変な時に歌なんて唄っていていいのかなとずっと悩んでいたし、世間から私の歌なんて求められていないんじゃないかと思ったりもしたし…。でも、せっかく唄わせてもらえる機会があるのなら、一番伝えたいことは人と人とのつながりだなと思ったんですよね。
──アコースティックのオーガニックな音色を基調とする明るい表情を湛えたメロディで、従来のファンのみならず幅広い層に受け入れられそうですよね。
柴田:今回発表する曲の中では一番スタンダードな感じがありますし、それを狙ってリード曲にしたんです。ただ、歌詞を書く上でいろいろと悩みすぎて、客観的になれない部分も正直あるんですよ。今後、ライヴでファンの皆さんやバンドのメンバーさんたちと一緒に育んでいきたいですね。