「生真面目」という言葉が「融通の利かない」「面白味のない」と同義になってしまったのはいつからだろうか。何事に対しても誠意を込めて真剣に向き合うことはそんなに悪いことなのだろうか。
柴田あゆみは努力の人である。「努力は嘘をつかない」をモットーとする彼女はメロン記念日の解散から2年の間、常に真摯な姿勢で歌と対峙してきた。不器用ながらも少しずつ、しかし着実に、自身が理想とする歌の在り方を模索してきた。「毎回『次はないぞ!』と自分に言い聞かせていた」と本人が語るように、退路を断って歌に懸けるその姿は生真面目そのもので、そういった誰にも変えられない個性をごかますことなく真正面から受け止める強さがある。だからこそ僕らは彼女の意気に応えたくなる。きっとあなたもそうだろう。
誠実に今を生きる柴田あゆみの本質を具現化したような楽曲『セツナ』は、未来を感じさせる別離をテーマとした爽快感溢れるロック・チューンであり、ソロ初期の代表曲となり得るクオリティを湛えた作品だ。初回限定盤のDVDに収録されたドキュメンタリー映像を合わせて見れば、柴田の実直な人となりが窺える。信じた道をたゆみなく歩み続ける彼女の今を伝えるこのインタビューを読んで、『セツナ』という至上のポップ・ソングに少しでも興味を持ってくれたら嬉しい。(interview:椎名宗之)
初めて聴いた時から惚れ込んだ『セツナ』
──ソロ・デビューからわずか4ヵ月で新しいシングルをリリースするとは、思いのほか早いペースですよね。
柴田:こんなに短いスパンで次の展開まで行ける、この置かれている状況は本当に恵まれているなと思いますね。
──数ある候補曲の中からセカンド・シングルを『セツナ』で行こうと決めたのはどんな理由だったんですか。
柴田:去年の年末に2曲上がってきたんですけど、その時点ではどれをシングルにするか決められなかったんです。年が明けてからもう2曲上がってきて、それが『セツナ』と『smile』だったんですよ。『セツナ』は、初めて聴いた時から私が惚れてしまった曲なんです。『セツナ』と『smile』のどっちをメインにすればいいのか、スタッフさんとも相談しながら迷っていたんですけど、私としては絶対に『セツナ』で行きたかった。ただ、「『smile』のほうがいい」と言うスタッフさんもいて、何回か戦いました(笑)。でもそれはとても貴重な意見で、『smile』には『smile』の良さがあることをよく理解できたし、非常に有意義な話し合いだったと思います。
──『セツナ』も『smile』も甲乙つけがたいので、それならどちらも入れてしまおうと?
柴田:はい。ただ、『セツナ』を表題曲にするにあたって、私は仮の歌詞のままがいいと思ったんですよ。それくらい惚れ込んでいたんです。「君と 君とつないだ手を」とか「泣いて 泣いて泣き崩れて」とか同じ言葉を繰り返すところが大好きだったし、自分で新たに歌詞を書き替えるのは無理だと思いまして。
──当初は『believe』のように柴田さんが歌詞を書く予定だったんですね。
柴田:そうなんです。柴田あゆみがソロとして活動していく上で歌詞は絶対に自分で書くと決めていて、当たり前のようにセカンド・シングルの歌詞も自分なりに考えていたんですが、この『セツナ』の曲調はもちろん、歌詞の雰囲気も大好きだったので、それ以上の歌詞を作る自信がなかったんです。それくらい完成されたものだったので。
──確かに、仮歌の水準以上の歌詞かもしれませんね。恋人との別れをテーマにしているけれど、それと相反するように疾走感のあるメロディというのもユニークだし。
柴田:ロックなアレンジで強さもあるし、悲しい別れと言うよりも、またどこかで再会できそうなポジティヴさがあるんですよね。私はこの曲に自信を持っていたし、それを表題曲にする意見を通させて頂いたので、『smile』のほうはちゃんと自分で歌詞を書くことにしたんです。
──『セツナ』の作詞・作曲を手がけた井上慎二郎さんは、東方神起や反町隆史さん、織田裕二さんといった方々に楽曲提供されているそうですね。
柴田:私は東方神起さんの『どうして君を好きになってしまったんだろう?』という曲が大好きで、それも井上さんの作詞なんです。後からそのことを知ったんですけど、私が好きな曲を井上さんが手がけていらっしゃることが多くて。反町隆史さんの『POISON』を作曲していたりとか。
──エッ、まさか柴田さんが「言いたい事も言えないこんな世の中は」をお好きだったとは(笑)。
柴田:好きですよ(笑)。
──井上さんは『セツナ』の演奏にも参加しているんですよね?
柴田:はい。それと、コーラスのハモりもやって頂きました。お陰でホントに自信作になりましたね。自分としても『believe』からさらにステップアップできたと思っています。
「刹那」を生きる姿は「切な」いから輝きが増す
──『セツナ』の歌詞は、柴田さんがある程度のイメージを伝えて上がってきたものなんですか。
柴田:事前に井上さんと話し合うことはなくて、井上さんが私をイメージして作られた歌詞なんです。『セツナ』には「刹那」と「切な」の2つの意味が込められているんですよ。漢字の「刹那」は「極めて短い時間」、「瞬間」という意味で、それが「切な」いっていう。井上さんによると、私には一瞬一瞬を一生懸命生きているイメージがあって、その応援の気持ちを込めて『セツナ』の歌詞を書いて下さったそうなんです。「切なさや儚さを表現できる人はその時々を一生懸命に生きている人だと思う。それでいて端から見て応援したくなる人。柴ちゃんにはそれを感じた」と。一瞬一瞬の「刹那」を一生懸命生きている姿は時に「切な」い、でもだからこそ輝きが増すというテーマが『セツナ』にはあるんです。
──なるほど。今この瞬間は二度と訪れないし、大きく言えば人生とは「刹那」と「切な」の数珠つなぎであって、その瞬間にすべてを懸けるからこそまばゆい輝きを放つんだというテーマは誰しもに通じるものですね。
柴田:仮歌の段階では、切ない歌詞と曲調だから「切な系」と呼んでいたんです。「切な系」だから『セツナ』というタイトルになったのかな? と最初は思ったんですけど、そういう深い意味があることを後から知って。井上さんとはレコーディングの時に来て頂いて、それまでお会いしたことはなかったんですが、私のことをしっかりイメージして曲作りをして下さったんだなと改めて感じました。
──『セツナ』の歌入れは手こずりませんでしたか。
柴田:自分が大好きな曲だったせいか、思いのほか順調でしたね。初めて唄う曲とは思えない感覚もあったし、レコーディングも純粋に楽しかったし、何回も唄いたい気分でした。
──それはヴォイス・トレーニングの成果もあったんじゃないですか。
柴田:ありましたね。「声が良くなったね」とか「歌が上手くなったね」とか言われることが増えたんですよ。今までの唄い方の癖が取れてきたのを自分でも感じるし、少しずつステップアップして唄える曲の幅を広げていきたいですね。こうして成果が形になって、みなさんに聴いてもらって、進化した私の姿を感じ取ってもらえるのはとても嬉しいことです。
──『smile』は『セツナ』とは一転、スカを意識したリズムの賑やかなパーティー・チューンですけれども。
柴田:ライヴでタオルを振り回すような曲が私のレパートリーになかったので、お客さんがタオルをブンブン振り回す姿をイメージして歌詞を書いたんです。せっかくグッズでマフラータオルも作ったことですし(笑)。これは柴田あゆみとしての “タオル・タイム”かな? と(笑)。
──『Love Me More』の作曲を手がけていた河合英嗣さんも作詞クレジットに名を連ねていますね。
柴田:河合さんには私なりのイメージを伝えた上でロックっぽいワードを挙げて頂いた感じですね。ライヴで『smile』を唄う時に、見知らぬお客さん同士でも肩を組みながら一緒に唄える感じにしたかったんですよ。みんなでバカになれる曲って言うか(笑)、「笑ってさえいれば、人生何とかなるでしょ?」と素直に思えるような曲にしたかった。