メロン記念日の解散から1年半、柴田あゆみが『believe』と題されたシングルで正式にソロ・デビューを果たす。本作に先駆けて着うた・着うたフルでの配信限定楽曲『GENKI』がすでに発表され好評を博しているが、やはりパッケージを含めたCDとしての発表がファンとしては嬉しいものであり、このシングルを以てソロ・シンガーとして第2の人生を本格的に歩み出したと捉えるべきだろう。
華々しいソロとしての再出発に相応しく、『believe』の初回限定盤・通常盤それぞれに収録された楽曲は爽快感に溢れたポップ・ソングから自身が最も得意とするバラード、ハードなギターを大胆に採り入れたロック・チューンに至るまで万華鏡の如く色とりどりで、柴田あゆみという傑出したシンガーの魅力を多面的に玩味できる趣向になっている。『GENKI』がファンキーなリズムを基調としたダンサブルなナンバーだったことを合わせて考えると、これまでのキャリアにもジャンルにもとらわれることなく多種多様な楽曲に挑んでいくのだという柴田の強い意志と意欲が窺える。
そして、これまで地道に積み重ねてきたボイス・トレーニングの成果が如実に表れていることに従来のファンは舌を巻くはずだ。曲調に合わせて心の機微や喜怒哀楽を艶やかな歌声で変幻自在に表現する彼女の歌唱力は掛け値なしに素晴らしい。川の流れに身を任せるようなしなやかさと歌に懸ける揺るぎない信念を携え、普遍的な愛をうたうシンガーとして好スタートを切った彼女の胸中にあるものは何なのか、じっくりと話を訊いた。(interview:椎名宗之)
大きな支えとなったバンド・メンバー
──昨年の11月にCD付きフォトブック『YOU & I』を発表して以降、今回のソロ・デビューに至るまで1年の歳月を必要としたのは?
柴田:スタッフの方々は親身になって私のソロ・デビューに向けてスケジュールを立てて下さったんですけど、ちょうどレコーディングをしている時にあの震災が起こって…。それで、当初考えていたスケジュールの変更を余儀なくされた部分も多々あったんですよね。
──実質的な作業を始めたのは今年に入ってからですか。
柴田:年が明けてから歌詞を書くように専念していたんですけど、これがなかなか難しくて。「YOU & I」は今まで支え続けてくれたファンのみんなに「これからもよろしくね!」とお願いするような挨拶代わりの曲で、ファンの人たちありきのものだったので、割と歌詞を書きやすかったんですよ。でも、今回は正式なソロ・デビュー曲ということで、何をテーマにすればいいのか、どう書けばいいのか、いろいろと悩んでしまったんです。そうやって試行錯誤していたのが数ヶ月あって、さぁレコーディングしようという時にあの震災が起こってしまったんですね。計画停電とかもあったので、それに合わせてレコーディングも延期になったんです。
──当初からメジャー流通で行こうと考えていたんですか。
柴田:ソロとして華やかにデビューを飾って欲しいというスタッフさんからの後押しもあったので、その方向で行かせて頂くことにしたんです。リリースまでは確かに間が空いたかもしれませんけど、その間にNACK5さんでラジオ番組が決まったり(『STROBE NIGHT!』火曜日のレギュラー・パーソナリティに起用)、その番組の中で新曲を初披露させて頂いたり、番組のイヴェントで唄わせて頂いたり(7月30日に渋谷WWWで開催された『《届けよう!GENKI》NACK5 presents「ストナイ LIVE!」』)、いろいろと段階を踏めて良かったと思います。
──ラジオのほうは週一で深夜1時から翌朝6時までの長丁場ですが、もう慣れましたか。
柴田:5時間の生放送ですけど、自分としては3時間くらいの感覚なんですよ。5時間もやっている感じは全然しないし、ラジオは凄く楽しいですね。録音で5時間はキツイかもしれないけど、生放送の5時間は本当にあっと言う間ですから。
──時間が時間だけにナチュラル・ハイになるんですかね?
柴田:ナチュラルだけに?(笑) でも、それはあるかもしれないですね。昼間の時間帯だったらあんなに弾けられないような気がします。
──ラジオのイヴェントはご自身でも手応えを感じましたか。
柴田:当日はバック・バンドを従えて出演させて頂いたんですよ。生バンドで唄わせて頂いたのはBEAT CRUSADERSさんとかと一緒だった“ロック化計画”以来だったんですが、コーラスを付けて頂いたのは初めてのことだったんです。最初、リハーサルの段階ではバンドのメンバーさんたちとも探り探りだったんですけど、本番が始まると自分も安心したみたいで、いつもと変わらないお客さんの顔を見たら涙が出てきて…。その時に、一番近くで支えてくれているバンドのメンバーさんたちが本当に頼りになると思いましたね。コーラスの方も私の顔を見て「大丈夫だよ」みたいな感じでアイコンタクトを送ってくれたし、演奏だけではなく笑顔でも支えてもらったんです。
──バック・バンドはそのイヴェント限定で組まれたんですか。
柴田:いや、今後ライヴがある時には同じメンバーで行きたいと思っています。最初はそのバンドを“柴田バンド”と呼んでいたんですけど、それもちょっと芸がないなと思って(笑)。語感も何かバタバタしているみたいで格好悪いので、名前は改めて考えたいところなんですよ。
──“ナチュラル・バンド”でいいんじゃないですか?
柴田:ああ、“ナチュバン”(笑)。それも候補のひとつにしておきましょうか。とにかく今のメンバーの皆さんと一緒に今後やっていけたらいいなと思っていて、先日のライヴで披露した「GENKI」と「想い出の行方」、それとまだCDにはなっていない「ヒマワリ」の3曲もメンバーさんたちに支えられて唄い切れた気がしています。
こんな時代だからこそ“GENKIのGIFT”を
──やはりライヴこそが自身の本領を最も発揮できる場所だと感じましたか。
柴田:生の柴田を見て「元気になれた」とか「力をもらえた」とか言われるのは有り難いと思う反面、メロン時代にライヴを評価されたのは4人の力があったからだと思うんです。私一人になって同じようなライヴをやるのは無理なので、これからのライヴはファンのみなさんと一から作り上げていくものだと感じていますね。何かもう、思い出せないんですよ。
──思い出せない?
柴田:メロンのライヴでお客さんを盛り上げていた、あの感覚が。
──つい1年半前のことですけど…。
柴田:そうなんですけど、たまにライヴのDVDを見ていても、まるで自分じゃないような不思議な感覚なんですよね。何なんでしょう、やっぱり一区切りしたのかなって。自分の中でちゃんと切り替えが付いたんでしょうね。
──それだけメロンを客観視できるということは、これからの新しい柴田あゆみを打ち出しやすいとも言えませんか。
柴田:それが、客観的に見えるからこそ不安に感じる部分もあるんですよ。“メロン記念日の柴田あゆみ”が好きだった人の中にはソロになって魅力を感じなくなった人もいるかもしれないし、その逆でソロになってからの私に魅力を感じてくれる人もいるかもしれないけど、メロン時代の自分も消し去りたくないし、消し去れるものでもないし…。まぁ、ソロとしてはまだ始まったばかりだし、この先いろんなことを経験して、自分なりのカラーを出していくとは思うんですけどね。NACK5さんのイヴェントに出させて頂いた時は反応が気になって、ファンの人たちの感想をツイッターで見ていたんですよ(笑)。そしたら、「今までは単純に“かわいい”と思ってたけど、初めて“格好いい”と思った」って書いてくれた人がいまして。
──おお、好感触じゃないですか!
柴田:頂いたお手紙の中にも同じような感想があったんですよ。「柴田、カッケーな!」って。それを読んだ時に、何よりの褒め言葉だなと思って。ライヴを見て“格好いい”と思われるのっていいですよね?
──『GENKI』みたいにノリの良いナンバーで、しかもそれが生音だったから余計に“格好いい”と思われたのでは?
柴田:ああ、そうですかねぇ…。ただ、あの日は浴衣を着ていたんですけどね(笑)。
──浴衣を着ていて“格好いい”という反応があるのなら前途洋々でしょう(笑)。
柴田:そういう反応は素直に嬉しかったですね。なので、本来はバラードが好きなんですけど、別にしっとりしたライヴの雰囲気じゃなくてもいいし、せっかく生バンドさんもいらっしゃるのでいろんなジャンルの曲を聴かせられるし、自分も楽しみながらやれたら最高ですね。
──シングルに先駆けて発表された着うた・着うたフルでの配信限定楽曲「GENKI」はファンキーなリズムに乗せて伸びやかな歌声を聴かせるダンサブルな楽曲で、柴田さんの従来のイメージからすると意外な選曲でしたよね。
柴田:確かに。選曲に関しては私があまり客観的になれないこともあって、スタッフさんの意見を聞きながら決めていったんですよ。自分が唄いやすい曲調ばかりではなく、いろんなタイプの曲が候補としてあったし、冷静な意見も必要でしたからね。
──図らずも「GENKI」は震災後の閉塞した今の日本を“GENKI”にしたいという意図が込められているようにも思えますが。
柴田:そうですね。人それぞれで受け取り方は変わると思うんですけど、このタイミングでこういう歌を唄うことになったのは必然的な部分もあるのかもしれないと思って。あの震災が起きて日本中が混乱状態になって、自分も実際に被害を受けていないとは言え凄く辛い思いもしたし、実際の歌詞と同じような気持ちを抱いたんですよ。こんな時代だからこそ“GENKIのGIFT”を与えられるような歌を唄えたらいいのになって。「believe」も結局は人と人の繋がりが大切なんだという曲で、今の時代を抜きには語れないと思うんです。人から人へ愛をつないでいくことが今一番必要なことだと思うし、私もそうやって助けられているところがたくさんあるんですよ。今回発表するシングルにはいろんなタイプの曲がありますけど、家族や友達といった愛する人たちとの絆、深いつながりというテーマが共通しているなと自分では思いました。