ホラーパンクの雄として確固たる地位を築き上げ、近年では海外でのリリースとツアーも旺盛なBALZAC。ヴィジュアル系を出自としつつも、その枠に収まり切らない自由奔放なスタンスで躍進を続けるMERRY。以前から盟友関係にあることが広く知られている両者が、カップリング・ツアー『闇夜の狂騒カーニバル』以来4年振りとなる共同主催のライヴ『MAD FREAKS FROM DARKISM』を12月3日(土)に新宿LOFTにて行なう。これを記念して、BALZACのHIROSUKEとMERRYのガラという両バンドのブレーンに共演の意義と意図、DIYに基づく創作活動の根源にあるもの等、心を許し合う両者ならではの興味深いエピソードをざっくばらんに語ってもらった。(interview:椎名宗之)
『闇夜の狂騒カーニバル』初日の“奇襲攻撃”
──今度のLOFTでの2マンは、『闇夜の狂騒カーニバル』と題したカップリング・ツアー以来4年振りの共演と相成るわけですけれども。
HIROSUKE:ガラ君が「何か一緒にやりましょう」とずっと言い続けてくれて、僕も「是非やりたいね」と答えていたんですけど、何だかんだと機を逃してしまって。今回はちょうどいいタイミングでお互い年末のスケジュールが合ったので、年内にやってしまいましょうかという感じで決まりました。
ガラ:BALZACは僕自身大好きなバンドだし、ずっとラヴ・コールを送り続けていたんです。普段からよく音も聴かせてもらってますしね。『闇夜の狂騒カーニバル』の時にBALZACと一緒にライヴをやらせて頂いて僕らのファンも喜んでましたし、BALZACのファンの方からも「また一緒にやって下さい」という声をかなり頂いたので、また是非一緒にやりたかったんです。今年は僕らが結成10周年なんですけど、去年の10月がSHOCKERのオープン10周年だったんですよね。だから去年くらいから何か一緒にやれないかとHIROSUKEさんに打診していたんですよ。
HIROSUKE:前回の『闇夜の狂騒カーニバル』も面白かったよね。博多の打ち上げとか(笑)。
ガラ:ああ、路上で若者がケンカしていましたよね(笑)。車から引きずり下ろして、車を蹴りまくったりして。
HIROSUKE:あったね、何かいろいろと。やっぱり気心も知れているし、凄く楽しかったですよ。MERRYとは以前からイヴェントで一緒になることが多くて、いつか2バンドでツアーを回りたいと思っていたんです。ただ、『闇夜の狂騒カーニバル』の時はMERRYに初日からいきなりガツンとやられちゃってね。と言うのも、MERRYが僕らに内緒でBALZACのカヴァーを披露してくれたんですよ。もうアッチャー! と思って。そんな仕込みをしないでよ! っていう(笑)。あれ? 何か聴いたことがあるなと思ったら、僕らの「IN YOUR FACE」という曲をMERRYがやっていて。これは僕らもやらなくちゃマズイなと思って、最終日までに練習したんですよ。最後は東京で、その時は僕らもMERRYのカヴァーをやったんです。MERRYは1曲だったから、僕らは対抗して2曲やろうと。それでプラマイゼロにしてもらおうと思って(笑)。
ガラ:僕らはBALZACとのツアーが純粋に楽しみだったし、何かサプライズを用意したかったんです。それでBALZACのカヴァーをやるという奇襲攻撃に出ようと(笑)。
HIROSUKE:しかも、リハでもやらないんですよ。そりゃ面喰らいますって(笑)。
ガラ:自分たちが大好きなバンドと一緒にライヴをやるのは刺激がいつもと違いますし、ヘタなところを見せられないですし、BALZACとやる以上は普段できないことをやりたかったんですよね。お客さんも含めてみんなが楽しんでいたツアーだったと思います。個人的に思い出深いのは、HIROSUKEさんに各地のレコード店にたくさん連れて行ってもらったことですね。
HIROSUKE:そんなこともあったね(笑)。
ガラ:HIROSUKEさんは大変なレコード・コレクターですから。その時にかなりの枚数のレコードを買いましたね。あの時以来、レコードは買ってないです(笑)。
──『闇夜の狂騒カーニバル』をやったことで、互いのファンがクロスオーヴァーすることもあったんですか。
HIROSUKE:MERRYのファンの人たちは僕らのことを温かく見てくれたこともあって、声を掛けてくれる人も多くなりましたね。僕らがやっているSHOCKERという店にMERRYのファンの人たちがよく遊びに来てくれるようにもなったし。
一筋縄では行かない巨匠・丸尾末広へのジャケット依頼
──お互い、初めて会った時のことは覚えていますか。
ガラ:僕ははっきりと覚えていますね。7、8年前、先輩のDIR EN GREYがチッタでライヴをやるのを見に行った時にHIROSUKEさんを紹介してもらったんです。イメージ先行なので、最初はメチャクチャ怖かったですよ(笑)。
HIROSUKE:いやいや、何にも怖くないよ(笑)。
ガラ:僕は普通にチケットを買ってBALZACのライヴを見に行ってたんですよ。だから最初にお会いした時はビビッてましたね。
HIROSUKE:僕がMERRYを知ったのは、DIR EN GREYの京君を通じてですね。京君はBALZACのことを凄い好きだと言ってくれていて、「俺の後輩にもBALZACを凄い好きなヤツがいるんです!」と教えてくれたのがガラ君だったんですよ。DIR EN GREYのライヴの後にMERRYの人たちに会って、CDをもらって、聴いてみたら凄くいいバンドだなと思って。
ガラ:それ以来、いろいろお話しさせて頂くようになったんですよね。HIROSUKEさんは最初にお会いした時から「何かあったら電話してよ」って電話番号を教えてくれたんですけど、ビビッて全然電話できなかったんです(笑)。一度電話をしてみてからは、丸尾末広さんとか趣味嗜好が近いことが判って親近感を抱いたんですけどね。BALZACもMERRYも、丸尾末広さんにジャケットを描いて頂いた作品があるという共通点があるんです。
──BALZACは『全能ナル無数ノ眼ハ死ヲ指サス』(2000年12月発表)と『DARK-ISM』(2005年2月発表)、MERRYは『個性派ブレンド〜黄昏編』(2002年9月発表)と『個性派ブレンド〜純情・情熱編』(2002年11月発表)、『個性派ブレンド クラシック〜OLDIES TRACKS〜』(2005年6月発表)ですね。
HIROSUKE:僕も昔から丸尾末広先生の絵が好きなので、MERRYの『個性派ブレンド』は普通に買いに行きましたよ。
──MERRYが丸尾さんにオファーをしたのはBALZAC経由だったんですか。
ガラ:最初は直で丸尾さんにお願いしたんですけど、2枚目の時は連絡先が判らなくて、BALZACのスタッフの方に訊きましたね。
HIROSUKE:丸尾先生はとにかく憧れでしたからね。スターリンを筆頭に、自分の青春時代に大好きだったアーティストのジャケットは丸尾先生が手掛けていたので、僕らもいつか丸尾先生に描いて頂きたいと思っていたんですよ。
ガラ:たまにHIROSUKEさんが「丸尾先生の描いたMERRYの絵が○○に載ってたよ」って連絡をくれますよね。
HIROSUKE:雑誌で特集が組まれたり、ポストカードになったりした時にね。
ガラ:あと、丸尾さんって原画のラフを売りに出す時がありますよね。だから普段からちゃんと網を張ってないとダメなんです。SHOCKERにもあるじゃないですか、鉛筆で描いた下書きの作品が。そういうのもいつの間にか売りに出されてるんです(笑)。
HIROSUKE:ある時、中野のタコシェにMERRYとBALZACの原画のラフスケッチが売っていると友達から連絡が入って、「すぐに金を送るから早く押さえてくれ!」と頼んだことがあったんですよ。BALZACのは押さえられたんですけど、あいにくMERRYは間に合わなくて。
ガラ:あと、丸尾さんに「こんな感じのものを描いて下さい」と頼んでも真逆の絵が上がってきますよね(笑)。「エグイ感じがいいんです」とお願いしても、全然違った綺麗な絵が上がってきたりして。でも、それはそれでもちろん素晴らしい作品なので、こちらとしては何とも言えなくなっちゃうんですよ(笑)。だからBALZACが紙袋男の絵を描いてもらった時は凄いなと思いましたね。
HIROSUKE:僕は丸尾先生の『犬神博士』に出てくる式神というキャラクターが大好きで、「僕は式神が大好きで、自分のバンドのイメージもそんな感じなんです」と先生に電話で伝えたら、「判りました」と。それで期待して待っていたら想像していたのと全然違って、トラの顔面に女性の裸体が乗っかった絵が上がってきたんです(笑)。僕らが大阪に住んでいるから、阪神タイガースからの連想なのか!? とか思いましたけど(笑)。でも、格好いいからこれでいいだろうと納得したんです。一度はひるんだんですけど、しばらくすると猛烈に愛着が湧いてきて。
──『全能ナル無数ノ眼ハ死ヲ指サス』のジャケットにそんな秘話があったとは(笑)。
HIROSUKE:でも、やっぱり式神を描いて欲しいと思って、『DARK-ISM』の時はダメ元で先生にもう一度お願いしたんですよ。そうしたら、今度はちゃんと描いて下さったんです。しかも、ノスフェラトゥという僕の大好きな吸血鬼のキャラクターや紙袋男まで描いて下さって、ちゃんとリクエストは通るんだなと思いました(笑)。だから余計に、あの時のトラは一体何だったんだろう!? と思って(笑)。