ドラムがヴォーカルと同じ立場になる瞬間
──hiroさんから「tachibanaにはまず筋肉の話から突っ込んであげて下さい」とアドバイスを受けたんですけど(笑)、普段から身体を鍛えているんですか。
t:いや、全然やってないです(笑)。hiroのブログでネタにされるので、何かやらなきゃいけないかなと思って腹筋はちょっとやってますけど。ドラムを叩くのが筋トレみたいなものですね。
──tachibanaさんのバンド人生は最初からドラム一辺倒だったんですか。
t:そうですね。高校の時に叩き始めて、かれこれもう17年くらい経ちます。高校に入って部活見学をした時にドラムを叩いている先輩がいて、それを見て格好いいと思っちゃったんですよ(笑)。それでドラムを始めることにしたんですけど、どうせやるならちゃんとやりたいなと思って、クラシックの打楽器をまず勉強したんですよね。ルーディメンツという太鼓の基礎奏法なんですけど。
──特定のドラマーに憧れて始めたわけではないんですね。
t:そういうわけではなく、自分のやりたいことは何だろう? ってところから始めましたね。高校を卒業した後は音楽の大学へ進んで、そこでまたクラシックの勉強をしました。専門学校へ行くことも考えたんですけど、あまり魅力を感じなかったんです。自分としてはロックのドラムを叩きたかったんですけど、まずは人とは違うことをやらないとダメだなと思ったんですよ。ロック志向だったので、大学では"何でここにいるの?"みたいに思われる異端な感じでしたね。
──クラシックの基礎があったからこそ、インストの自由奔放な演奏という応用も利くんでしょうね。
t:在学中もドラムセットをやりたかったんですけど、それをやるならロックでやってみるよりも別のアプローチで行くほうがいいかなと思ったんですよ。
──te'の面々とはどんな経緯で知り合ったんですか。
t:te'に入る前にhiroと一緒にバンドを組んでいて、その頃にkono君のバンドと対バンして知り合ったんですよ。masaは当時miimiをやっていましたね。kono君のバンドと一緒にイベントをやったこともありました。その後、kono君が新しくインスト・バンドを始めて、hiroがそこに入ることになって、ドラムを探していると。それで「暇そうにしてる奴がいる」ってことで僕にお呼びが掛かったんですよ。最初にインスト・バンドと聞いて、それは需要があるのかな? と若干不安に感じたんですよね(笑)。インストと言えばT-SQUAREとかカシオペアのイメージしかなかったし、ポスト・ロックという言葉もkono君から聞いて初めて知ったくらいだったので。
──それがいざ始めてみると、なかなか奥深い世界だったと。
t:実際に活動を始めて思ったのは、ヴォーカルを意識しないで楽器の関わりだけでひとつの音楽を作るという部分では非常にやり甲斐があるなと。ドラム個人の表現を膨らませていけるところもありましたし、そこはインストの利点だなと思いました。ヴォーカル主体のバンドだとヴォーカルを活かすことに重点を置きますからね。だから自分にとっては願ったり叶ったりだなと思って。
──hiroさんと組んでいたバンドとはまた違ったアプローチを要求されることになりますよね。
t:前にやっていたバンドは女性ヴォーカルありきで、自分はこれだけ頑張っているのに何で評価されないんだろう? という忸怩たる思いもあったんですよ。それがte'の場合は自分がヴォーカルと同じ立場になれる瞬間があるんです。僕だけじゃなく、ギターもベースもヴォーカルの立場でいられる。個々人の楽器を最大限活かせるわけで、ヴォーカルのいるバンドとは全然違いますね。
──masaさんとはキャラクターも音楽的なアプローチも異なるのに、息の合ったコンビネーションを見せていますよね。
t:そこがte'の面白いところなんですよね。人間の集団の理想的な形だと思うんです。それぞれがちゃんと自分の主張を発揮しながらひとつの表現を作り上げているし、歌ありきのバンドはどうしてもヴォーカルが中心になりますから。個人主義が尊重されつつも有機的なまとまりがあるのがte'の素晴らしさだと思います。
楽曲の展開の中で如何に昂揚させるか
──今回のアルバムは音の押し引きが絶妙で、過不足ない音が要所要所で鳴っていると思うんですよ。個人的にはtachibanaさんのドラムにそれを強く感じるんですよね。
t:そう言って頂けると有難いですね。これまで3作作ってきて、自分たちのいいところをもっと出していこうとする上で駆け引きみたいなものが生まれてくるんですよ。今までは勢いをぶつけ合ってパンチのある音を出していたんですけど、みんな少しずつ大人になってきたのかなと。ヘンに引いたスタンスで上手いことやろうというのではなく、荒削りなぶつかり合いはちゃんと残していきたいですけどね。
──『秤を伴わない剣〜』は跳ねるリズムが心地好い楽曲で、リズム隊の腕の見せ所が随所にありますよね。
t:この曲では実験的にドラムを重ねてみたんですよ。自分としては2人のドラムがいるという想定で叩いたんですけど、叩く人間が同じなのでグルーヴも同じで、ちょっと気持ち悪い感じになってますね(笑)。
──『勝望美景〜』は終始ドラムがドカドカ打ち鳴らされて、異常な手数の応酬が堪能できますけど(笑)。
t:あっと言う間に出来た曲のひとつですね。ハチロク(8分の6拍子)で速くて、尚かつシューゲイザーみたいな曲を作ろうとしたんですよ。レコーディングスタジオに入ってから作った曲で、kono君から「リムショット系の音が欲しい」と言われたのでリムショットにしました。kono君はいつも漠然としたことを言うんですよ。「格好いいヤツ」とか「カツカツしてるヤツ」とか(笑)。それに対して自分なりに考えたプレイをして、それでどう変わっていくかなんですよね。
──その場でいきなり録ってクオリティの高い楽曲を生み出してしまうのが凄いですね。
t:メンバーもそれぞれ経験を積んできているし、こう来たらこう来るだろうみたいな読みはできるんですよ。
──その読みを如何に欺くかに気を留めたとhiroさんは仰っていましたけど。
t:確かに、そうじゃないと新鮮味も面白味も損なわれますよね。ライヴでは部分的にちょくちょく変えたりもしているんですよ。それが音楽の面白さですからね。
──インスト・バンドをやるようになって、普段聴く音楽も変わってきましたか。
t:いや、あまり変わりませんね。むしろ、歌モノをもっと聴くようになりました。最近は山口百恵や徳永英明のベストをよく聴いています(笑)。インストをやるようになって、余計に歌が欲しくなっちゃったんですよ(笑)。
──本作におけるtachibanaさんの課題点はどんなところでしたか。
t:te'としてどういう音楽を目指していくかですよね。これまでの3作とは違うte'の聴かせ方をずっと意識していました。そのためにレコーディングのやり方もこだわったし、Protoolsを使って今までにない録り方もやってみましたし。
──1曲目の『決断は無限の扉を〜』ですね。
t:あのレコーディング現場は酷かったですよ。他の3人は録り終わって『M-1グランプリ』を見ていたんです。僕は2時間くらい掛けてドラムを叩いて、「終わったよ」ってみんなに声を掛けたら、「ちょっと待って。決勝で誰が勝つか見てから行くから」なんて言われて(笑)。
──普通はベーシックのリズムを録ってから上物を重ねていくのに、この曲は真逆の発想なのが凄いですよね。
t:この曲は今後ライヴでどう表現していくか、ちょっと揉んでいかなきゃいけないですね。あと、8曲目の『闇に残る〜』は本来ドラムのリズムで来るべきところに来るべきものが来ていない曲なんですよ。ハイハットはハイハットとしての役割を、大太鼓は大太鼓としての役割をしているんです。ドラムセットという概念をちょっと変えてみたと言うか。
──『闇に残る〜』は最後にワルツっぽい展開になってみたり、どの曲も一筋縄では行かない趣向が必ず凝らしてありますね。
t:インストは歌がないし、展開が長いと途中で飽きちゃうんですよ。その展開の中で聴く人を如何に昂揚させるかが全曲のテーマとも言えますね。そこは今回も凄く意識しました。