わがままと自由にやることは全然違う
──常にバンド全体を俯瞰しているmasaさんの冷静な視点があってこそなんでしょうね。
m:僕は俯瞰でしかバンドを見れないですね。さっきも言ったように、一番年下のくせに僕はやりたくないフレーズをやらないんですよ。そこは周りが大人なので助かってますけど、ベーシストが全体を俯瞰で見れていないとバンドとしては成立しないと思っているんです。でも、te'の場合は僕のやりたいことが意外と通ったりするんですよ。だから凄くやりやすいですね。音楽的に判らないことは、放り投げておけば3人が勝手にやってくれるし(笑)。
──一番やりたくないのは、単調なルート弾きとかですか。
m:ルート弾きも自分っぽいならいいんですけど、自分っぽくないであろうことを強要されるのがイヤなんですよ。「そこでレゲエのフレーズを入れるのがmasaっぽいよね」って言われて、自分もそう思うんならいいんですけど。
──最後の『参弐零参〜』には途中でレゲエのフレーズも出てきますね。
m:そうですね。でも、僕はレゲエなんてひとつも聴いたことがなくて、イメージの中のレゲエを総動員して弾いてるんです(笑)。ベース・パターンも判らないけど、こんなノリだってことはここにルートが入ってるはずだという論理でやってますね。
──ここまで来たら、ルーツ・ミュージックは一切聴かないほうが良さそうですね(笑)。
m:そのほうがいいですね。そういうのを一切聴かない奴でも徳間ジャパンからCDを出せるんだから(笑)。
──そういう音楽的な知恵袋はkonoさんが担っていますしね。
m:そうなんですよ。もう1人音楽に詳しい奴がいたらぶつかると思うし。「モグワイみたいなのがやりたい」「いや、トータスっぽいのがいい」なんて揉めても僕からすれば一緒だし、要するに安室奈美恵じゃなきゃいいんでしょ? っていう感じですから。
──なるほど(笑)。masaさんから見て、ベーシストっぽい発想をする作家っていますか?
m:三島由紀夫はそうじゃないですかね。冷徹な分析をするところもそうだし、感覚よりも言葉遊びを重視するところもあるし。三島由紀夫の一番面白いところは逆説なんですよ。面白い状況を用意しなくても、反対から見ると世の中って面白いよねってことを自然に書くんです。でも、今の作家は主人公を透明人間にしてみたり、特殊な面白い状況を用意してから物語をスタートさせるんですよね。その点、三島は平凡な主人公が平凡に生きてる物語を逆の視点で面白く語るのが得意な作家なんですよ。
──ありふれた日常が非日常に変わる瞬間みたいなものが面白いと?
m:そうですね。非日常がいつの間にか日常になっていたりとか。音楽的な話をすれば、キツい転調をしてるところほど自然に聴かせたいし、転調してないサビほどドーン!と弾奏感で聴かせたいんですよ。
──紋切り型のことを紋切り型のままやらない姿勢はte'に一貫してあるような気がしますけど。
m:そうですかね? それは上物なりドラムが変態だからじゃないでしょうか(笑)。
──でも、hiroさん曰く「masaが一番のビックリ箱」とのことですが。
m:僕はこのバンドの中で自分が一番普通だと思ってますけどね(笑)。僕が正しくて周りが間違ってると思ってますよ(笑)。
──4人ともそう思っているんじゃないですかね?(笑)
m:多分そうでしょうね。各人が思い思いのことをやってるし、「自分こそが正しい」と思っているんだと思います。konoさんがバンドを引っ張ってるように思われがちかもしれないですけど、これだけ濃い面子が揃ってるんだから、ひとたび演奏が始まれば引っ張るも何も関係ないですよ。一番ベストなのは自分のパートだけに専念できることで、他のパートは各自が責任を持って弾くべきなんです。自己プロデュースのできる奴が集まってバンドをやるのが一番楽しいですからね。
──konoさんのインタビューでも"責任"がひとつのキーワードだったんですよ。
m:好きなことを押し通したいんだったら、文句を言わせないように責任を持ってやるしかないですよね。文句を言われるのは言われた本人が悪いし、わがままと自由にやるのは全然違うことですから。
音が噛み合った時に生まれる別の世界
──今回、ベーシストとして新たなトライアルをした楽曲はありますか。
m:4曲目の『夜光の珠も〜』ですかね。これは本番まで何も考えてなかった曲なんです。とりあえずルートで弾いたんですけど、上物を弾きたいと思ってギターをベース・アンプに差して弾いてみたんですよ。あと、5曲目の『勝望美景〜』も何も考えてなかったけど急にアイディアを出した曲ですね。
──アドリブに強い性分なんでしょうか。
m:te'をやってから強くなりましたね。始めて半年くらいはkonoさんにずっと怒られてましたから(笑)。今は論理的に埋めたい派であると同時に、降ってきたものがホントだろうと思うようになったんですよ。降ってきたものが論理上でも合致しているのが一番気持ちいい。予測し得ないものが面白いと思っている割に予測しておきたい、みたいな(笑)。そういうのが最近は上手になってきましたね。あらかじめ決めておくと飽きるじゃないですか。飽きが入っちゃってるなという空気感がなくなるのが一番マズいと僕は思うんですよ。計算され尽くしていてもフレッシュで在りたいんです。と言うことは、録音の当日に思い付いたものが計算され尽くしたものであればベストなわけですよ。その意味で言うと、『夜光の珠も〜』は本番までギリギリでしたね。カウントが鳴って始まっても何も思い付かなくて(笑)。
──そんな時の焦りも演奏に昇華させていくと?
m:焦ったっていいし、一般の人には判らないと思うんですよ。何と言うか、録ってみて良ければいいんです。ちゃんと噛み合ってさえいれば良かったりするので。上手く演奏できたのがいいテイクじゃなくて、演奏が噛み合って曲が活き活きしてるのがいいテイクだと僕は思いますし。
──miimiではバリトン・ギターを弾いていらっしゃいますが、te'との相互作用みたいなものはありますか。
m:基本的にやってることは一緒ですけど、歌モノをやってなかったらインストはやってないし、インストをやってなかったら歌モノはやってないという程度のことですかね。プレイで要求されることは違いますけど、頭の切り替えは得意なんです。僕は基本的に人前に出たくない性格で、人との関わりもあまり好きじゃないんですよ(笑)。でも、1000人の前で演奏しなきゃいけないわけで、切り替えが上手くできないとやってられないんです(笑)。ただやっぱり要らぬ注目を集めてしまうのはストレスだし、自己防衛として"ここに立ってる俺は俺じゃないんだ"と思いながらやってるんですよね。
──そうやって別人格になるのがmasaさんにとっては自然なことなんでしょうね。
m:自分のやり方としては一番自然だと思いますね。多分、人前に出るのは向いてないんですよ。でも、才能がないからと言って諦めるのはロックじゃない。自分なりのやり方を突き詰めたいんです。
──一般の人が公人の顔と私人の顔を使い分けているのと同じなのでは?
m:そんな感じですね。会社では部長だけど家に帰ると赤ちゃん言葉みたいな(笑)。
──そんなmasaさんが音楽以外で歓びを得る瞬間はどんな時なんですか。
m:普段の生活では感知できない世界を感じる瞬間ですかね。演奏もそうなんですけど、僕は別ベクトルの世界観が好きなんですよ。演奏でも、音が噛み合った時に個々人では成し得ない違う世界が生まれるのが楽しいんです。論理的なものが蓄積された挙げ句、音という不確かで今までになかったものが作られる。大質量の恒星が超新星爆発して生まれるブラックホールも、あるのかないのか判らない存在ですよね。論理的なものを突き詰めると論理的じゃないものを認めざるを得なくなる。音楽はそれを一番手軽に実感できる行為だし、te'は僕にとってブラックホールなんですよ。身はないけど実がある。だから辞められないんですよね。