masa
part of bass
論理性と非論理性が共存した才人のイデオロギー
最初はインストが何なのか判らなかった
──konoさんと共にオリジナル・メンバーであるmasaさんも、残響以外からアルバムを出すことは予想外の展開だったのでは?
m:予想外どころか、残響以外でやるくらいなら僕は結成当初にバンドを辞めてましたね。他社でやる以上はお仕事になるし、面白くできなくなると思ってましたから。僕は基本的にやりたいことしかやりたくないんですよ。でも、徳間ジャパンは理解のある会社だったので、まぁいいかなと。
──te'の結成前からkonoさんとは友人だったんですか。
m:いや、全然。対バンをして、その打ち上げで仲良くなるのが普通じゃないですか。でも、当時の僕はバンドマンとは仲良くなりたくなかったんですよ。打ち上げの席でも隅っこのほうでずっと本を読んでる感じだったので。それがある日、konoさんからバンドを一緒にやらないか? と唐突にメールが来たんです。konoさんが前にやってたバンドを僕が客として見に行っていて、向こうからしたら俺が誘えばこいつは乗ってくるだろうと思ったんじゃないですかね。
──masaさんのベース・プレイに惚れ込んでいたからこそじゃないですか?
m:プレイと言うよりも、僕の志向性だったんだと思いますよ。僕がkonoさんのバンドを見てて思ったのは、上手いんだけど地味だし、これじゃ客は付かんだろうなと。僕は一般人にアピールするのを重視してバンドをやっていたので、そういう志向を採り入れたかったんじゃないですかね。konoさんは今も昔もプロデュース能力が凄いし、インスト・バンドを一般的なリスナーに伝えるには僕みたいなのがいるといいし、自分と噛み合うと思ったような気がします。
──masaさんにとってもインスト・バンドは初だったんですか。
m:初でしたね。バンドに誘われた時、インスト・バンドが何なのか判らなかったですから。インストっていうのはハードコアみたいなひとつのジャンルで、てっきりヴォーカルもいるものだと思ってたんですよ(笑)。でも、当時はまだ若かったしプライドもあったので、「インスト・バンド? いいですね、ちょうど俺もやりたいと思ってたんですよ」なんて答えちゃったんですよね(笑)。スタジオに入った時に「で、ヴォーカルは誰なんですか?」って訊いたら、「ん? 歌がないからインストなんだよ」って言われて驚いて(笑)。僕に関してはそんなレベルだったんですよ。ポップスとかにしか興味がなかったし、音楽自体、あまり聴いてなかったんです。それよりも本を読んでるほうが楽しかったし、テレビをつけたら流れてくる音楽が音楽だと思ってましたからね。
──楽器を弾こうと思ったのは何がきっかけだったんですか。
m:楽器は高校3年の終わりから始めた遅咲きなんですけど、当時の僕は大学へ行くほど頭も良くない、かと言ってサラリーマンをやってる自分の絵がどうも浮かばないと。それで専門学校へ行くことにして、ある時にいろんな専門学校が載ってる本をバーッと開いたら、そのページがたまたま音楽学校だったんですよ。それを見て、自分はミュージシャンになろうと思ったんです。
──若気の至りとはまさにこのことですね(笑)。
m:ホントですよ。ミュージシャンを夢見て試行錯誤してるのにCDを出せない人が多い中で、僕は流れ流れて気が付いたらこの徳間ジャパンの会議室にいるわけで、ちょっと申し訳ない気持ちもありますね(笑)。野心も特になく、何となくここまで来ちゃったので。だって、チューニングっていうのがあることを知ったのは、楽器を始めて1年後ですからね(笑)。
──最初からベースだったんですか。
m:ベースでしたね。最初の半年くらいはそれをギターと思って弾いていたんですけど(笑)。
テンポ良く読める文章にはリズムがある
──それじゃインスト・バンドなんて言われても、何のことやらさっぱり判らないですよね(笑)。
m:僕の場合、インスト・バンドっていう括りでやってないのがひょっとしたらいいのかもしれません。バンドっていうのは表現ですよね。表現する以上、4人いるんだったら一番目立ったほうがいいと思いながらフレーズを作ったり、パフォーマンスをやってます。全員がそういうつもりでいるから歌の入る余地がないような気もしますね(笑)。歌モノのバックはある程度演奏を抑えなきゃいけないし。でも、そういうのをやっても面白くないんですよ。
──独学でベース奏法を体得したんですか。
m:独学でしたね。音楽もあまり聴かないから、僕は理論で埋めていくんですよ。konoさんが押さえるコードをジーッと見て、"Cって言うけどナインスが入ってるぞ"とか思いつつ、"こういう響きが欲しいんだろうな"とフレーズを考えるんです。こことここにtachibanaさんがキックを叩くから、"この辺にルート音が欲しいんだろうな"とか考えながら埋めていく。それで8割方は出来ちゃうし、苦戦する曲って滅多にないんですよ。フレーズが確定するのは大抵最後だから、みんなの音を聴いて自分がやるのはこれだなっていうのが8割方、あとの2割ちょっとは感性で弾いてますね。
──長尺なタイトルの考案者であるmasaさんがそんなに理詰めで弾いているとは意外でした。
m:よく勘違いされるんですけど、僕は超理系なんですよ。あの長文タイトルに関して言えば、まだte'を3人でやってた時にシングルを出すことになって、「日本語で長いタイトルはどうですか?」と僕が提案したんです。当時、僕は古本屋で働いていて、そういうのが面白いんじゃないかと思って。最初に10文字くらいのを考えたら、konoさんが悪ノリして「その倍くらいあっても面白いんじゃない?」と。それで20文字にしたら、「ここまで来たらもっと長いほうがいいね」ってことになったんですよ。出す以上は目立ったほうがいいと思って最初は始めたんですよね。
──それがいつしか、曲名は30文字、アルバム・タイトルは29文字の定型になったと。
m:ひねくれ者なので、自分で勝手に括りを付けたんですよ。単純に長いだけなら誰でもできるし、文字数がいつも一緒なのは相当難しいだろうと思って。セカンド・アルバムのインタビューの時に僕が文字数の縛りを言ったらみんな驚いて、そこで初めてメンバーも知ったんですよね。面倒くさくなって今はやめましたけど、昔はネットで日記や小説を書いていて、ずっと書き続けていると文章にもノリがあることに気づくんですよ。テンポ良く読んでいける文章って、ある程度同じ長さになるんですよね。大概、28〜32字くらいにまとまるんです。それが面白くて、全く同じ文字数で日記を書いたりもしたんですよ。
──確かに、面白い文章にはちゃんとリズムがあるんですよね。
m:そうなんですよ。内容が面白いんじゃなくて、読んでいける文章はリズム感がいいから先に進んでいけるんです。古典文学でも、「古本屋の店主が若い娘に恋をした」っていう一言で終わるような内容を一冊にして書いてますけど、リズム感と対象の捉え方が素晴らしいんですよね。エンターテイメントとして優れているかと言えば実はそうでもないってところが僕は好きなんですよ。それで本をよく読んでいたんです。そんな僕の嗜好が最大限活かされているのがte'のタイトルなんでしょうね。
──いつもどんな感じでタイトルを命名しているんですか。
m:スタジオの様子を観察しつつ、どんな方向性で行こうとした曲なのかも踏まえつつ考えてますね。曲が出来たら、礼儀として1曲につき1日を取るんですよ。同じ曲をずっとリピートで聴きながら、そこで思い浮かぶ言葉は何だろう? といろいろ考えながらパソコンで打っていきます。バーッと挙げた言葉を選んで、それに対して10パターンくらいの文章を作って、そこからさらに精選する感じです。曲は感覚で聴かずに、ちゃんと身体に入り込むまで聴くんですよ。曲が染み込んだ時にどんな言葉が降ってくるのかというのが僕のやり方ですね。
言葉に対する並々ならぬ思い入れの深さ
──よく言葉が被らないなと思わず感心してしまいますけど。
m:誰かっぽい文体になったりすることはありますけど、被りませんね。僕は本を読むのが好きで、昔は年に換算すると200冊ちょっと読んでたんですよ。読み過ぎて病院送りになったくらいですから(笑)。
──僕は無学なもので、"誤謬"(ごびゅう)という言葉は今回のアルバムで初めて知りました(笑)。
m:難しいといろんな人から言われるんですけど、どれも意識しないで出てくる言葉なんですよ。いろんな本を読んできたし、古本屋で働いてた環境もあるんでしょうね。レジの後ろに辞典が並んでいて、古い本を読んでいて判らない言葉があるとすぐに調べられたんです。そんな毎日を何年も過ごしていたのもあるし、これでも僕の中では判りやすい言葉でまとめたつもりなんですよね。
──28〜32文字で文章を作るのはお手の物でしょうけど、そこから30字きっかりに収めるのが大変そうですね。
m:28〜32文字で作る癖が付いてるので、実はそんなに苦じゃないんですよ。この作業も6年間続いてますしね。
──これまで命名したタイトルの中で、ご自身でも会心の作だと思うものは?
m:今度のアルバムの中の曲ですかね。今作から自分で造った言葉を使い出したんですよ。"天涯万里"や"勝望美景"という四字熟語は存在しないですから。
──と言うことは、"酒食音律"も...。
m:造語です(笑)。"天涯万里"は上から下まで、右から左まで...つまり世界全体を指す言葉なんですね。それを表す四字熟語がないなら、自分で造っちゃえばいいやと思って。今までは日本語の枠内でタイトルを付けたほうがいいと思ってたんですけど、メジャー作品なのにない言葉を使うのも面白いと思って造語に踏み切ったんですよ。今まではインディーだったので躊躇していたところがあったし。
──ここまで来ると、もはや完全にアートの世界ですね。
m:自分で言うのも何ですけど、言葉に関しては残響のどのバンドよりも思い入れが強いと思いますね。
──インストという言葉のないバンドがタイトルの上では言葉に重きを置いているのが面白いですよね。
m:言葉が得意でインスト・バンドをやってるなんて、自分でもロックだなと思いますよ(笑)。
──海外リリース盤の表記はどうなっているんですか。
m:アメリカ盤は英訳のタイトル、台湾盤は日本語のままなんですけど、僕は翻訳してないんですよ。日本人だし、日本語が一番素晴らしいと思っているので。まぁ、基本的に英語ができないのもありますけど(笑)。
──masaさんの理詰め奏法も本作でいよいよ極まった感はありますか。
m:どうでしょう? 以前に比べてちょっと素になった気がしますね。1曲目の『決断は無限の扉を〜』は完全に僕主導で作らせてもらったんですよ。素材を録ってもらって、後は好きなように作らせてくれっていう。僕が一時期異常に凝ってた変拍子の曲をやりたいと思って、最初はもっと複雑な拍だったんです。それが何が何だか判らない状態になったので、プリプロでもほぼ詰めてない状態で録った素材をエンジニアと話し合いながら作っていくことにしたんですよ。理詰めなので、そういう作業が楽しいんですよね。とは言いつつ、te'はライヴ感にこだわるバンドだし、僕自身もライヴをやるのは好きなんですけどね。
──ライヴもそうなんですけど、理詰めの対極にあるtachibanaさんのドラムと上手いこと噛み合っているのが面白いなと思って。
m:多分、全然違うベクトルだからこそ噛み合うんでしょうね。tachibanaさんは自由に叩くんですけど、ノッてくるとスネアやキックを入れる拍が大体読めてくるんですよ。たとえばtachibanaさんが叩いてないところに僕が入っていって、それが多少ズレたとしても、クリック上でヨレてなければ曲としては成り立つんですよね。あと、ドラムとベースがたまに偶然バコッと合うことがあって、そういう時はtachibanaさんと2人で「神懸かってますねぇ...」なんて話してますけどね。違うルートを通ってきたのに同じ点で着地するのは面白いですよ。今作くらいからそういうのが増えましたね。