苦手な集団行動を自分がやれている驚き
──個人的な話で恐縮なんですけど、僕はクリームのライヴ盤が苦手なんですよ。ジンジャー・ベイカーのドラム・ソロを10分以上聴かされるのが苦痛で堪らないんです(笑)。te'にはそういう冗長なところがないし、どの曲も適宜な長さにまとめているのがいいと思うんですよね。
t:クリームの場合は個人の記名性ありきという部分が強いですからね。バンドと言うよりも個人の集合体と言うか。クリームとte'を比べるのもおこがましいですけど、僕らはそこまで個人プレイヤーじゃないんですよ。それよりも、バンドの出している音がどういうふうに流れていくかを常に意識していますね。
──tachibanaさんご自身はドラム・ソロが好きなほうですか。
t:何とも言えないですね。僕はあまり友達がいないほうで(笑)、集団の中で動くのが苦手なんですよ。だから今でも自分一人で何かできることはないかと模索しているんですけど、ドラム・ソロをやっても自己満足で終わってしまうんじゃないかなと思います。
──te'のリズム隊は揃って内向的な性格なんですね(笑)。
t:お恥ずかしながら(笑)。でも、masaも驚いてると思いますよ。こんな自分でも集団の中でやれてるじゃん、みたいなところで。僕自身、凄くびっくりしてますから。そういう共通点はあるかもしれないですね。
──4人の中ではtachibanaさんが一番ジェントルな佇まいですよね。
t:4人それぞれのキャラが立ってますよね。kono君はいつも尖った感性を持っていたり。
──tachibanaさんから見た成長の著しいメンバーは?
t:一番成長したのはmasaじゃないですかね。3作目くらいからmasaが考えるタイトルの内容が変わってきたんですよ。それまでは内向的な感じの曲名が多かったんですけど、3作目くらいから外へ広がっていく感じになってきたと言うか。
──hiroさんについてはどうですか。
t:hiroとは付き合いが長いんですけど、あれだけ読めない男も他にいないですね。未だにこっちが驚かされることが多いんですよ。
──掴み所がないと?
t:自分で言うのも何ですけど、僕は結構掴めるほうなんですよ(笑)。でも、hiroは全然掴めない。
──確かに人当たりは凄くいいし、一見無邪気なイメージがありますけど、実は観察眼が鋭いですよね。
t:そうかと思えば、それほど深く考えてもいなかったり(笑)。とにかく面白い男ですよ。
──本作を聴くとhiroさんのギター・プレイが一段と深みを増したのが判るし、ギターで表現する可能性がさらに増した印象を受けますね。それは各人同じだと思いますけど。
t:リズム的には、masaよりもhiroとのグルーヴのほうが合うんですよね。masaはベーシストとして全体を考えて弾いてくるので、グルーヴ的にはhiroとの絡みのほうがガッチリ来るんです。そこはやっぱり、長年培った関係性もあるんでしょうけど。
──konoさんのプレイに関しては?
t:安定した堅実さがありますね。kono君がバンドの推進力になっているのは確かで、ダメなものはダメ、良いものは良いという振り幅が大きいんです。みんなが満足しないとひとつの楽曲が成り立たないし、そういうところで振り幅の大きい人がバンドの中にいるとメンバー的にはやりやすいですよね。
──konoさんのメンバーに対するオーダーは長嶋茂雄的なところがあるのかもしれないですが(笑)、本質を衝いた着眼点であることは確かなんじゃないですか。
t:そうですね。たまに"エエッ!?"と思うオーダーもあるんですけど(笑)、そこに動きがあると言うか。こっちが考えもしなかったことを言われることで、自分が活性化される部分はあると思います。なあなあにならない良さがあるし、新しい動きができますね。
──te'のライヴ・パフォーマンスの激しさたるや尋常ならざるものがありますけど、ツアーが続くと特に体力の消耗具合が凄まじいことになるのでは?
t:特に竿隊の2人、hiroとmasaは身体が弱いのでボロボロになっていますね(笑)。まぁ、かく言う僕もワンマンの後は全身が痛くて、打ち上げで寝てしまうこともあります。hiroとmasaが前のほうで激しく動き回っているのを見ると、俺のほうが絶対に目立ってやる! と思っちゃうんですよ(笑)。
大切なのは日本人としてのアプローチ
──熟練ドラマーはただ闇雲に激しく叩くことなく、肩の力を抜いて柔らかく叩いて抜けの良い音を出すじゃないですか。ああいう抜き差しの妙を本作のtachibanaさんのプレイからも感じますね。
t:日本人が叩く音と外人が叩く音がまるで違うのは、身体の使い方が全然違うからですよね。上手い人になればなるほど身体の使い方が合理的になってくるんですよ。学生の時に学んだルーディメンツは合理的な身体の使い方をするんです。それがベースになっているぶん、もっと日本人的なプレイをしなくちゃいけないんじゃないかという意識は常に持っています。外人と真っ向勝負したって勝てないでしょうし(笑)。
──歌がないぶんだけ海外へ浸透させていきやすいというアドヴァンテージがte'の音楽にはありますよね。
t:そうなんですよね。アメリカへツアーに行った時に、向こうのお客さんがハチロクの曲に凄く反応していたのが印象的だったんです。ハチロクのノリは海外の音楽にはあまりないみたいで、とても新鮮に響いたんでしょうね。それを見た時、僕らは日本出身のインスト・バンドというアイデンティティをもっと強く打ち出していくべきだなと思ったんですよ。
──海外のオーディエンスの演者を激しく盛り立てる姿勢には凄まじいものがありますね。
t:音楽を楽しむ文化が日本とは根本から違う気がしますね。こっちの熱さが伝わって、ダイレクトに反応してくれるんです。日本の場合はネーム・ヴァリューなりセールスなりで反応が変わってくるじゃないですか。僕らは今よりもっと有名じゃない頃に海外でライヴをやって、その時も何の垣根もなくダイレクトにお客さんが反応してくれたんです。そこでひとつの手応えを感じたし、"やっぱりこれでいいんだな"と素直に思えたんですよ。
──迸る思いをプレイに叩き付ければ、言葉の垣根を超えてそれは必ず伝わると。
t:僕らもいい歳なので、ただがむしゃらにやれば伝わるとは思っていないし、それなりの駆け引きもいろいろとしているんですよ。でも、精一杯やればちゃんと伝わるんだなと思えたことは大きな自信に繋がりましたね。
──本作で言えば『闇に残る〜』のようなスロー・ナンバーにはそこはかとない日本的な情緒があると思うし、その独特の味わいは海外のリスナーにも日本人らしさとしてちゃんと伝わるんじゃないでしょうか。
t:自分が日本人であることは拭えないし、そこで勝負するしかないんですよね。たとえば、レッチリのチャド・スミスと僕のどちらがドラマーとして優れているかを競っても、社会的認知の面でもスキルの面でも圧倒的にチャド・スミスに軍配が上がるじゃないですか(笑)。そこでチャド・スミスを唸らせるために自分なりにどういうアプローチができるかを考えると、チャドにはない日本人としてのアプローチをするしかないんですよね。手数がどうとかの技術的なことじゃなくて、日本人としてのメンタリティに立ち返るしかない。とは言え、日本人のくせに自分は何でドラムセットで叩いているんだろう? ってところから始まっているんですけど(笑)。
──そもそも、ドラムセットという発想は日本人らしくないんですかね?
t:あれは合理主義から始まってますからね。大太鼓、小太鼓、シンバルを一緒にして人件費を減らすために作られたものですから(笑)。自分の地元は新潟なんですけど、佐渡を拠点に活動している鼓童という和太鼓のグループがいて、アース・セレブレーションというイヴェントで彼らのライヴを見た時に衝撃を受けたんですよ。和太鼓で一打を叩く前にドラマティックな瞬間があったりして、思わず息を呑んだんです。それを見て、何で自分はドラムセットで叩いているんだろう? と思って。言ってしまえば、和太鼓の作り方は非合理的なんですよ。ケヤキを一本倒して、真ん中をくり抜いて胴を作って、革張りをして鋲打ちをして...もの凄く手間暇が掛かるんです。鼓童の音楽に触れて以降、日本にはそういう伝統的な楽器があるのを再認識したんですよね。
武士道や書道にも通ずるドラムの奥深さ
──非合理的なものに美学を見いだすって、どことなく日本っぽい風情を感じますね。
t:日本にはアニミズムという世界観があるじゃないですか。あらゆる事象には霊的なものが宿っているという。太鼓もそういうものなのかなと思うことがあるんですよ。太鼓にも人格があると言うか。そういう太鼓を生み出した国の人間として、ドラムセットとどう向き合っていくのかが課題なのかもしれませんね。
──ドラムは電気を介さない原始の楽器だし、演奏する人のプリミティヴな力がダイレクトに反映されますよね。
t:確かに。ホントはドラムセットを全部和太鼓にしたいくらいなんですけどね。でも、ドラムに限らず西洋の楽器を使って日本人らしさを出せているのがte'の凄いところだと思うんですよ。そこは一貫してte'がこだわり続けているところでもありますからね。hiroとkono君はもともとヴォーカルでもあったので、奏でるメロディが日本人っぽいと思うんですよ。
──tachibanaさんが考える"日本人っぽさ"とはどんなところですか。
t:やっぱり、ある物事を表層的に捉えないところですかね。たとえば、一打叩くまでの間に何かが潜んでいると言うか。ちょっと精神的なことかもしれませんけど。
──行間を読み解く感覚に近いですか。
t:そうかもしれません。単純に音が当たっていればいいってわけじゃなくて、微妙なズレや間合いが面白いんです。それをte'は上手いこと表現できているんじゃないかと思いますね。
──本作を完成させたことで生まれたドラマーとしてのテーマみたいなものはありますか。
t:バンドを続けていく以上、飛び越えていかなくちゃいけないことがまだまだたくさんありますね。今は自分の音楽性の幅をもっと広げていかなきゃいけないと思っています。素養として歌モノ以外にもいろんな音楽を聴かなくちゃダメだろうし。
──鍛錬はもちろん大切だと思うんですが、実際に演奏をしていない日々の生活が音符の肥やしになったりもするのでは? 人間的に深みを増すことがプレイに反映されていくと言うか。
t:そうだと思います。そのためにも、もっといろんな音楽を吸収しないとダメですね。でないと、どうしてもプレイに手癖が出てしまうんですよ。手癖を突き詰めていく曲があってもいいとは思うんですけど、それだけじゃバンドとしても個人としても進展がないし、筋肉が衰えてヘタになっていくだけですから。
──やっぱり筋トレが大事という、最初の話に戻ってしまいましたが(笑)。
t:しっかりやります(笑)。まぁ、今はドラムを叩くのが純粋に楽しいし、自分の性には合っていますね。小学生の時にピアノもやっていたんですけど、指が太すぎて鍵盤が当たらなかったんですよ(笑)。ドラムは自分の精神と身体を使って表現するにはうってつけの楽器だと思います。
──話を伺っていると、そのストイックさは武士道にも通ずるものがある気がしますね。
t:似てると思いますよ。司馬遼太郎とかの時代小説が好きで結構読むんですけど、剣の道に近いものを感じますね。あと、書道の筆の流れや押さえなんかもドラムと似てる気がします。勝手な日本人的解釈ですけど(笑)。大学の時のドラムの師匠が言っていたのは、「ドラムは叩けば音が出るし、誰でもできる楽器なんだよ」と。「だからこそ一打叩くまでの感情の起伏をコントロールするのが大事なんだ」と話していたことがあって、まさにその通りなんですよ。ホントに奥が深い楽器だと思いますね。