時代は変わらない、僕等は変わらない
── サウンドも時間を掛けただけあって、どの曲も密度の濃いアレンジになっていますね。あと、横山さんのルーツが窺える楽曲が多いのも本作における特徴のひとつだと思いました。『フリフリ2010』はタイトルからしてGSだし、一番笑ったのは『ソウルミュージック』。これ、ポリスの『ロクサーヌ』みたいじゃん! って(笑)。
横山:テルスターを始めた時に、『アウトランドス・ダムール』の疾走感があってシンプルで歌心があってというのが好きだったんです。15歳から音楽を始めたんですが、ポリスも好きですし、デキシード・ザ・エモンズに在籍していた時期もあったのでスパイダースも好きですし、自分が好きだった音楽を全部詰め込んだんです。今までは、聴いてきたものを自分のバンドに反映させることはなかったんですけど、今はそういうのも自分の血となり肉となっているので全部出そうかなって。
── 横山さんは音楽の知識が豊富だから、引き出しが多い分だけ"今これをやったらかっこ悪いだろうな"という自制心が今まではあったんじゃないかと思うんですけど。
横山:こうやったらこう見られるんじゃないかとかはありましたけど、今回は「『ロクサーヌ』がかっこいいから『ロクサーヌ』やろう」みたいな(笑)。
── 潔いですね(笑)。『恋と政治のBGM』は個人的にも好きな曲なんですけど、この曲だけmono仕様にしたのは?
横山:この時はビートルズを聴いていて、『ウィズ・ザ・ビートルズ』みたいな感じをやりたかったんです。
── 終わり方が『イット・ウォント・ビー・ロング』みたいですしね。
横山:僕がビートルズを好きな部分って、4拍目から食って入る感じのものが多いんですよ。だから『WILLY WILLY DANCE』もそうなんですけど、そういうのを散りばめているつもりです。
── そう言われてみれば、『理解者』も意表を突く節回しでユニークですね。
横山:サビの終わりなのに2番の歌い出しになってるところですね。でも、それでいてちゃんとポップソングになってないとダメなんですね。
── そういう意味で言えば、『理解者』はすごく良く出来た曲ですよね。革新的なことをやりつつも全体的にはポップで。かと思えば、ボブ・ディランを彷彿させる『時代は変わらない(The Times They Aren't A-Changing)』。皮肉屋的視点は健在だけど、ハーモニーがとにかく美しい。
横山:ボブ・ディランの『時代は変る』も保守的なものに対しての皮肉を歌った歌で、そしたら僕がやることは保守もいいぜという、根っからの皮肉屋が出ちゃいましたけど。
── オバマが大統領に就任したり、日本でも民主党の政権交代が実現したりと新しい風が吹いているのを僕は実感していますけど、それでも時代は変わらないと?
横山:時代は変わらないと言うより、僕等は変わらないということが一番大事なんです。バンドでも音楽でも、やるときに環境のせいにしたくないんです。そういうんじゃなくて、いつの時代でもワクワクするものに人は気持ちが動くものだし、そういう意味で時代は変わらない、本質は変わらないんだよということを歌いたかったんです。時代は変わっていると思いますよ。15年前には考えられなかった携帯電話だって、今ではみんなが普通に持ってますし、僕自身、20歳が35歳になったわけですからね。肉体的にも考え方も変わってますし。そういうものを含めて、時代は変わる、環境は変わる、世の中は変わる、でも僕等は変わらない、変われない。変われないからこそ時代は変わらないっていうことを言いたかったんです。
── 掴もうとすればするほど核心がするりと逃げていくのは、テルスターと言うか横山さん独自の資質ですよね。
横山:言いきってそうで言い切ってなかったりとか。
── 『約束はしない』でも、"約束はしないけど、愛することは素直に認めたい"と言い切っているじゃないですか。腹の括りも感じられるし、サウンドも質実剛健な感じだし、やっぱり音楽性も歌詞の世界観も変化してきているのを感じますね。
横山:自分ではよくわからないですけど、表れているのかなって思います。
── 音録りでとりわけ気に留めた点は?
横山:僕等が最初にアルバムを作った時代は、今のようなプロツールスではなくて、デジタルのテープなんだけど、もうちょっとめんどくさい作業だったんです。だけど今は一行歌ってそれを貼り付ければ曲になっちゃう。昔は毎回全部歌わなきゃいけないし、パンチインする作業はありましたけど貼り付けるという作業がなかったんですよね。そういう意味で自由度が増えた代わりに、生々しさは減っている気がします。だから、今回は生々しさを残して録りたかったんです。ポップソングというか歌謡曲が好きなので、ポップソングと肩を並べて聴けるものがいいんです。音楽に詳しい人も良いですけど、普段GReeeeNを聴いてる人が、こういう世界もあるんだって入れる窓口でいたいと思っているんです。僕よりも音楽が詳しくて、造詣深くてすごく細いことをやってる人はいっぱいいると思うので、そういう人に対する橋渡しみたいなことができれば良いと思うし、それができたらすごく嬉しいです。テルスターをゴールにする必要はないですから。
── ご自身では納得の出来なんですよね?
横山:はい。何回も何回もやって、納得いかないからもう1回やりたいって。歌も演奏もうまいわけではないので苦労しましたけど出し切りました。
── ここでまたからっぽになった感じですか。
横山:そうなんです。今はこれをみんなに届けたいし、伝えたいという気持ちだけですね。これをリリースして掴むものがあればそれを歌いたいと思うし、掴めないかもしれないし、そもそも音楽をやる理由がなくなってしまうかもしれないし、掴めないから楽しめなくなっちゃうかもしれないし。
── 逆に言えば、それだけ達成感のあるアルバムということですよね?
横山:はい。
── これだけクオリティーの高い楽曲をオーディエンスの前で歌うと、楽曲にまた違った魂が吹き込まれて、どんどん成長していくんじゃないかなと思いますよ。
横山:それも楽しみですね。
今日の自分があるのは、これまで知り合った人のおかげ
── 今回は"LOFT CIRCUIT 2010"と銘打って、ロフトグループの5店舗すべてでイベントを開催して頂きますけど、これは僭越ながらロフトに対する愛情の深さと捉えていいんでしょうか。
横山:15年音楽を続けてきて、ロフトがなかったらここまでやってなかったんじゃないかなって思うんです。テルスターだけでなく、GRAPEFRUITSの柳井くんはLINKの時にタイガーホールからCDをリリースしていたり、15年続けてきていろんな人と知り合っていろんな話ができたのもロフトなんです。お客さんと話しながら飲むスペースもありますし、打ち上げでもたくさんの人と話をしてきましたし、そういう出会いが今日の自分を作ってくれているので。恩返しなのか迷惑返しなのかはわからないですけど、ロフトを回りたかったんです。
── ありがたいことに、"supported by Rooftop"という言葉まで冠に付けて下さって。
横山:それこそ、昨年リリースもなかったのに、1年間遊星横町でお世話になりましたから。遊星横町がなかったら、今回のアルバムが作れなかったので感謝を詰め込みました。
── 遊星横町で得たものを具体的に言うと?
横山:一番勉強になったのは、10年以上音楽活動をやってキャリアもある4人が、ライブハウスのオーディションに出て初心に戻ったというか、池袋サイバーに行った時はライブハウスの階段を下りるのが怖かったぐらい緊張感があったんですよ。ピュアな気持ちになりましたよ、もう一回1からがんばってやってみようかなって。
── 中堅バンドにもなれば経験値が上がって、鮮度の高いことはなかなかできなくなりますからね。そう考えると、ここ数年の助走モードはテルスターの仕切り直しをするために必然だった気もしますね。
横山:そういう意味では必要な時間でしたね。ライブハウスの経営もそうだし、他のバンドでベースを弾いたり、全部が自分の中では繋がっているし、だからこそ感謝する気持ち生まれましたし。
── 今年で結成15周年、向こう10年はどんな音楽活動をしていきたいですか。
横山:それが全く考えられないんですが、自分の気持ちに正直にやらなければいけないなと思っています。ただ、音楽が大好きだから15年やってきていることは確かです。
── そこで、「音楽だけは僕の人生から拭い去れません」と絶対に言わないところが横山さんっぽいですね。自分の感情に対して常に真摯で、嘘は決して付かないのが横山さんの流儀のように感じます。
横山:嘘は付かないけど、フワッと皮肉を言う感じですね(笑)。皮肉はスパイスですから。皮肉があるから言い切る言葉が生きてくるし、感動もできると思うんです。感動するものとかの裏には絶対に皮肉が含まれていると思っています。椎名さんは『アンヴィル(夢を諦めきれない男たち)』見ました?
── まだ見てませんけど、同業者の評判は凄くいいですよね。
横山:すごく感動して、2009年で一番面白かった映画なんですけど、『アンヴィル』みたいにはなりたくないって思うんです。50歳でボーカルの主人公が弁当を配達しているシーンで、「俺は知っている、今より悪くならないことを」って言うところから始まるんですけど。
── 絶望的なバンド・ストーリーなんですか?
横山:いえ。まだスターになれると思っているんです。50歳のバンドがヨーロッパツアーに行ってお客さんが2人とかで、自分はここまでピュアにはなれないなって。
── ところで、新代田FEVERで行われる大感謝祭は縁の深いバンドから15周年をお祝いされるという、これまたテルスターらしくないイベントですよね(笑)。
横山:たまには御神輿に乗っかろうかなって。そういうことをやってみたかったんです。こんな機会もなかなかないので。それと、今回手書きのテルスター新聞を作ったんです。インターネットが普及していますけど、前は毎回チラシをコピーして、それを頼りにみんながライブを見に来たりしていたから、その気持ちになれたらと思って。ライブ会場で始まるまでに見て、こんなくだらないものを折り込んでるんだって思ってくれるだけで、何かできたのかなって思えます。
── 15年間支え続けてくれたオーディエンスやリスナーに思うところは?
横山:「なんで出さないんですか?」って業を煮やして去っていった人もいるだろうし、「出ないから嫌いになった」って思う人もいるだろうし、「いつ出るんですか?」と期待して待っていてくれる声は支えになったし、待ってくれてたみなさんには絶対に届くものだと、待った甲斐はあったというか、なぜこれだけ時間がかかったのかというのも聴いてもらえばわかるようになっていると思うので、そういう意味ではすごく感謝しています。
── 従来のファンは気味悪く感じるんじゃないですか? 横山が感謝なんて言葉を使い出したぞ、って(笑)。
横山:おっさんになったなって思われると思いますけどね。でもよくよく聴いてみると全然感謝してないですよ。お祝いの熨斗が付いていたのに、開けたら15年間履き古したパンツが入っていたみたいな感じでしょうね。でも、嬉しいですよ。自分の音楽は自分じゃなきゃ作れないですから、みんなを巻き込んで何かひとつ物事が動くというのはすごく嬉しいです。それに対してはありがとうございますという感じです。僕等がすごいお金を生むわけではないですし、経済的に動かせるわけではないですけど、そこで面白いと思ってくれる人がいて、その人の中のワクワクする気持ちが湧いてくれたらそれが一番嬉しいし、求めているものはそれだけだし。いろんな立場でいろんなことがありますけど、そういう感じですね。期待していてください、ライブも面白いと思うので。