初めて感謝の気持ちが生まれた
── 今回のアルバム『We Love You! You Love Us!』は文句なしに会心の出来だと思いますが、僕がレコーディングに遊びに行ったのは随分と前のことだった気がするんですけど...。
横山:昨年の2月とか、長袖を着ていた時期でしたね(笑)。
── どうしてこんなに空いてしまったんですか?
横山:お客さんにここまで待ってもらったからには、本当に納得いくものを作りたかったんです。だから、録っては聴き、時間をおいてチェックしてをダラダラ続けていたら1年かかっちゃいました。その代わり、録り終わって聴いた時に、こうしておけば良かったと思うことがないです。完璧です。
── ここまで長いタームでアルバムを作ったのは初めて?
横山:はい。前のアルバムは3日で作れとかだったんですが、もうちょっとわがままに作ってみようかなと思ったんです
── それにしても、バンド界きっての皮肉屋・横山マサアキが『We Love You! You Love Us!』というタイトルをぶつけてくるとは思いませんでしたよ(苦笑)。
横山:らしくないですよね(苦笑)。さっきの話に戻ってしまうんですけど、なんでやる気がないのかと自分に問いつめてみたんです。それで、音楽をやりたいかやりたくないかを考えた時に、ワクワクできないなら音楽をやめちゃえば良いじゃないかって思ったりもしたんですが、15年バンドを続けてこれたのは周りのおかげだななんてこともしみじみ思ったわけですよ。単純にありがたいと思う新しい感情が湧いてきたんです。初めて、友達とかメンバー、音楽仲間や仕事の相手、家族に対して少し感謝の気持ちが芽生えてきて、それに最近ビックリしたんです。
── 僕も今、ビックリしました(笑)。
横山:(笑)なので、こういった新しい感情をテーマに曲が作れるんじゃないかなって。ただありがとうとか言うんじゃなくて、15年間皮肉な考え方をしていたのに、こういう人間でも感謝の気持ちに行きつくんだなってところを表したかったんです。
── 『まっすぐ帰れない人』は皮肉屋・横山マサアキの面目躍如といった世界だし、『ソウルミュージック』にも"アイ・ラブ・ユーなんて 歌えやしない"という横山さんらしいフレーズが健在ですが、皮肉屋だって誰かに感謝したくなる瞬間はあるだろうし、感謝と皮肉を描写するバランスもいいのかもしれませんね。
横山:だから、感謝一辺倒で世界観を作るんじゃなくて、感謝の裏に憎しみとか皮肉とかもあって、その上で抱かせてくれたのも感謝ということですね。
── リード曲の『理解者』では"理解者はいないが〜"と歌っているぐらいですから(苦笑)。
横山:全然"We Love You! You Love Us!"ではないですよね。裏切りとか皮肉とかネガティブな感情を持っているからこそ、感謝の気持ちも言えるのかな。前は感謝を言うのも恥ずかしいので、皮肉を吐き捨てることでしか感謝ができなかったんですけど、皮肉を言うのも感謝をするのもすごくストレートにはなってきたかなという感じは成長した部分だと思いますね、音楽的にも人間的にも。
── 皮肉屋が放つ"We Love You! You Love Us!"という言葉の重さも感じますね。
横山:最初からアイ・ラブ・ユーを歌っている人は寛大な心の持ち主なのかもしれないけれど、僕はあまり信用ができないんです。その裏にはいろんな感情があって、それが見え隠れするような人間でいたいと思うし、"We Love You! You Love Us!"と言ってまとまるもんじゃないぞと、自分に言い聞かせた上でのこういうタイトルですね。
── 歌詞にもある通り、"デタラメだけど"。
横山:デタラメですね。でも、おっさんになったのか何なのか、そういう気持ちしか湧いてこないです。
── まるで仏様のようですけど(笑)。全体を通して聴くと、迷ったままでも前を向いて行くしかないと腹を括った潔さを感じますね。
横山:日々生活していて腹が立ったり、皮肉のひとつも言いたくなりますが、そういう気持ちも全部肯定したくなったんです。だから、"皮肉なんて言わないぜ"じゃなくて、皮肉を言い切りたい時もあるし、良いことも言いたい時もあるし、かっこつけたい時もあるし、かっこつけたくない時もあるし、素晴らしいと思う時もあるし、人間なんてくだらないと思う時もありますし。そういうのも全て素晴らしいという気持ちです。
── そんな言葉を、まさか横山さんから聞ける日が来るとは思いませんでした(笑)。『まっすぐ帰れない人』や『約束はしない』などに顕著ですが、音の質感も含めてここまでストレートな作風の曲は今までになかったんじゃないですか。
横山:ストレートになりましたよね。
── 迷ってない感じがしましたね。
横山:迷ったりすることもありますけどね。
── ひねくれることにも飽きたと言うか?
横山:飽きる時もあるし、飽きてない時もありますけど、今までは、ここはもっとひねくれなきゃいけないんじゃないかとか、"横山はこういう人間"っていうのに囚われていたのかな。期待されて嬉しい部分もあるし、期待に応えて充実する時があるし、期待に応えないで自然にやってもいいし、自分に課してたルールをあまり考えなくなったんでしょうね。
── 音楽をやる上で自由度が増した感じですね。
横山:感情が自由になりました。あと、人のことを許せるようになりました。
── 今日はらしくない言葉を連発してますけど(笑)。
横山:大人になったんでしょうね。
── 30代になったことも大きいんでしょうか。
横山:そろそろ35歳ですからね。年齢もありますし、自分の35年はバンドとか音楽とか出会いから人間が形成されているので、その中であった良いこと悪いこと悔しいことを全部含めて肯定したくなったんです。そういう経験があって今の自分がここにいて、音楽をやれていて、みんなに1枚のアルバムを届けられることができるということを考えた時に、本当にありがたいなと思ったんです。この気持ちを歌わなきゃだめだって。これを歌わないで音楽をやろうなんて、なんてわがままな人間なんだろうって。
── 今頃気づいたんですか!?(笑)
横山:遅いですよね(苦笑)。それまではその気持ちはなくはないですけど、そういうものを表現しようとは思わなかったんです。みんなわかってるじゃんって。そうじゃなくて、もう一度そういうことを表現したかったんですよ。