パートの押し引きとせめぎ合いのバランス
──本来のとろけるような声の甘さに、凛とした佇まいが加味されたように思えるんです。曲によっては別人とも思える透明感を感じたりもするし。
SOTA:やっぱり、引き出されますよね。各メンバーの気持ちや音に対するシビアさから“こういう歌じゃないとダメだ”というのが引き出されていくと言うか。マルが加入したことによってずっとやりたいと思っていたサウンドが出せるようになったし、方向性が明確にもなったから、あとは納得の行くまでやるだけだったんですよ。
──たとえば「philter」のヴォーカルは、最初に聴いた時にMOROさんが唄っているんじゃないかと思ったほどの違いを感じたんですよね。
MORO:ああ、なるほど。タッチの変わった曲が増えたと思うし、曲のテンションもこのアルバムでかなり変わったと思うんですよね。今までは七色のカラフルさがあるポップなイメージだったのが、僕の中では少し大人っぽくなった感じがするんですよ。歌詞の内容もそうだし、
SOTAも今まで通りじゃいけないのを実感したんだと思うんです。今までに持ってなかった引き出しを自分から進んで作るところもSOTAにはあっただろうし。
──曲調で言うと、同じ七色でも今まではたとえば赤と橙がくっきり分かれていたのが、今度のアルバムでは赤と橙の境目の溶け合っている部分まで表現できるようになったと言うか、文章で喩えるなら行間を巧みに描写する術を得たように思えるんですよね。
MORO:そうかもしれません。そういう部分が出てくる環境に自ら身を置いたところはあったと思うんですよ。
──叙情感に溢れた「umbrella」、ジャジーでソウルフルな「Billy」、コーラスがとりわけ美しい「新呼吸」など、ピアノを基調にした曲は特にその“行間”がにじみ出ていますよね。
MORO:ええ。勢いもありますよね。まったりとなよっとした感じよりは、全体的にロックっぽい感じになったのかなと。ロックというのも、今までは真正面から余り言ってこなかったキーワードだと思うんですけど。
──ロックっぽい感じと言えば、「存在音」から始まって「doubt」「philter」と繋がる流れが個人的には凄く好きなんですよ。
MORO:僕もその流れは大好きですね。振り切ってグイグイと押しまくる感じで。
──と同時に、胸をギュッと締め付けられる何とも言えない切なさがあるんですよね。
MORO:そうですね。「doubt」も「philter」も、今まで僕が書いてきた泣きのメロディとはちょっと違うと思うんですよ。これまではバラード調で多分にJ-POP的なアプローチでしたけど、メロディのタッチが変わってきたんです。そこが今回のアルバムの肝の部分なんですよね。それは、「On SHOWTIME」みたいな実験的な曲を作ってみたり、真逆な「Replay」みたいな曲を作ってみたり、もっとストレートな「MONOchrome」や「STAR MESSAGE」みたいな曲を作ってみたりと、試行錯誤を重ねてきた成果だと思ってます。マルのピアノが想定外のアプローチをしてくるから、それまで思い付かなかったメロディのタッチが自然と浮かんできたんですよ。やっぱりマルの存在が凄く大きいんですよね。
──アップ・テンポの激しい曲もじっくりと聴かせるバラッドも、その表情が非常に豊かなのは屋台骨を支える鉄壁のリズム隊があってこそですよね。
SHITTY:ええ、そこは間違いないですね!
TETSUYA(ds, cho):自分で言うなよ(笑)。
──でもこれはお世辞ではなく、作品を追うごとに揺るぎないグルーヴがバンドの太い幹となっているのを実感しますね。
TETSUYA:今までいろんなタイプの曲をやってきた土台があったので、今回のアルバムのようにヴァラエティに富んだ楽曲が並んでもちゃんと対応できたんだと思いますよ。頭の中で思い描いた音をそのまま形にできるようになってきたし、それが今回確信に変わった気はします。
──「DANCE DANCE DANCE」の乱れ打ち具合と言ったら、凄まじいという言葉ではとても済まされない凄味がありますよね。
SOTA:後半は特に乱れ打ちもいいとこですね。よくあれだけ叩けるものだなと同じバンドなのに思いますよ(笑)。
MORO:それも、いろんな曲をアプローチしてきた結果だと思うんですよね。ドラムの手数も多くなってきたし、フレーズのチョイスも無理なく持ってこられるようになってきたと思うし。TETSUYAもSHITTYも、その曲に合ったドラム、その曲に合ったベースをそれぞれが熟考した上で、ちゃんと自分が前に出るようになったと言うか。それを5人全員ができるようになったと思います。ここはSOTAが前に出る部分だというところは他の4人が引くとか、押し引きもちゃんと覚えてきて。そうかと思えば、SOTAが唄ってない時は“俺が一番だろ!?”とばかりにそれぞれが前に出て行く感じもあって、そのせめぎ合いがあってこそバンドが良くなるんだと思うんですよ。
日本のパワーポップ・バンドとしてのこだわり
──あと、「DANCE DANCE DANCE」然り「Dear my voice」然り、英語詞の比重が多い曲が増えましたね。
MORO:そうですね。日本語か英語かは余りこだわってなくて、その曲が呼んでる言葉に準じてるんですよ。それは僕も
SOTAもSHITTYもみんながそうなんです。“これは英語を呼んでるでしょ?”という時は素直にそれに従って、でもそこで背伸びした言葉は余り使わないように努めたりして。メロディが洋楽ノリになる楽曲が今回は多かったと思うんですよね。
──洋楽と言えば、ファウンテンズ・オブ・ウェインの「Mexican Wine」のカヴァーもありますね。以前、『One minute SNOW』のカップリングでマライア・キャリーの「All I Want For Christmas Is You」をカヴァーしていましたけど、アルバムでは初めてですよね。
MORO:ええ。僕らは日本のパワーポップ・バンドとしてのこだわりが強くあるし、海外のパワーポップ・バンドに対して自分達なりのリスペクトを表したかったんですよ。僕らは僕らで、自分達の国で独自のパワーポップをやっているんだという意思表示として。まぁ、単純に好きな曲なのでやってみたかったというのもあるんですけどね。
──しかも、大胆にもアルバムの2曲目にこのカヴァーを持ってきていますよね。
MORO:その曲順に関しては多少物議を醸し出しましたけど(笑)、ライヴを意識した曲順にしたかったし、2曲目は横ノリの感じを出したかったんですよ。「DANCE DANCE DANCE」で飛ばして、そのノリを横にグッと寄せてみたかったんです。
──英語詞は唄うのも難しいですよね。
SOTA:凄く難しいですよ。マライア・キャリーとファウンテンズ・オブ・ウェインでは歌の特性も仕上がりの着地点も全く違いますしね。マライアの曲は単純にクリスマスっぽいイメージを出すことに腐心しましたけど、今度のはもともとの大人っぽい感じをポップ的に解釈するというテーマがまずあったんですよ。余りキッズ、キッズすることなく、大人っぽい感じがないとダメだなと思っていたんです。
──曲の終わりにグラスの割れる音が入っているところは、子供っぽい遊び心がありますけどね(笑)。
MORO:実際にワイン・ボトルをバーンと割ったんですよ。あれは完全にベン・フォールズ・ファイヴからの影響ですね(笑)。
──「DANCE DANCE DANCE」の終わりにもジッポーで火をつける音が入っていますよね。
MORO:それは、いきなり何の脈絡もなくジッポーで火をつけた音があったらシブいんじゃないかと思って。大人=ジッポーだろ、みたいなところがありましたから(笑)。
──マライアのカヴァーではアーチンなりのソウル・ミュージックへのアプローチを試みていましたけど、今回はそのテイストが「Billy」という曲で見事に昇華されていますね。マルさんによるジャズのテイストも加味されて。
MORO:うん、そうですね。「Billy」は周囲の評判が凄く高い曲なんですよ。曲自体のネタは結構前からあったんですけど、マルがいなかったらこういう形にはなっていなかったでしょうね。この路線が本当は一番狙っていきたいところなんです。リアルなジャズやソウルを目指すという意味ではなくて、バンドとしていいメロディを弾き語れるのをコンセプトとして、自分達のできる範囲で良質な音楽をやると言うか。
──「Billy」のような曲を聴くと、今のバンドのアンサンブルが過去随一なのが如実に窺えますね。
MORO:ええ、そこは自信を持って言えますね。特にこの「Billy」にはそれがよく出てると思います。押し引きも凄く上手くいった楽曲なんですよ。ギターも弾き過ぎてないし、ベースもドラムもキーボードもちゃんと持ち味を発揮していて、印象としては
SOTAの歌が一番メインに出ていますから。ミックスも凄く上手くいったんですよね。
SOTA:そう、ミックスがとにかく素晴らしくて、聴きながら泣きそうになったんですよ。