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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】六畳人間(2007年11月号)- 空想を現実に、デタラメを真実に── 音の出る空想科学工房『SF「テスラチルドレン」』

空想を現実に、デタラメを真実に── 音の出る空想科学工房『SF「テスラチルドレン」』

2007.11.01

ロックのダイナミズムと幻想的な世界観が同居した深淵なる音楽性、昂揚する感情をありのままに叩き付ける沸点の高いライヴでじわじわとその名を浸透させている六畳人間〈ろくじょうひとま〉が、初のフル・アルバム『SF「テスラチルドレン」』を満を持して発表する。ゆらゆら帝国やギターウルフ、穴奴隷などの一連の作品で定評のある中村宗一郎(PEACE MUSIC)をエンジニア&スペシャル・アドヴァイザーとして迎え、8月初旬からのほぼ1ヶ月をレコーディング作業に費やした甲斐あって、余分なものを削ぎ落としたその音像は滔々と流れる大河のような悠然さと大樹の幹のような泰然さを兼ね備えている。過去2枚のミニ・アルバムに顕著だった焦燥感は鳴りを潜め、何度聴いても飽きのこない豊かなコクと深みを増したことが本作の何よりの特徴で、メンバー自身がようやく心底納得のできる高みにまで達せた記念碑的作品であることがこのインタビューからもよく窺えるだろう。本質を掴み取ろうとすればするほど掌からすり抜けるその音楽性同様、こちらの問い掛けに対して柳に風がなびくように受け流す彼らだが、「"空想あるいは嘘"を出発点として人間はこの世界に存在しないものを生み出す」という本作におけるテーマはとても真摯なものである。その意味で、この『SF「テスラチルドレン」』は人間の無限の可能性を信じようとする極めて人間くさいコンセプチュアルな作品集と言えるのかもしれない。(interview:椎名宗之)

フィクションを理論付けて現実に変えていく

──デビュー・ミニ・アルバム『嘘の国』(2005年10月発表)、セカンド・ミニ・アルバム『夢の万祝』(2007年1月発表)は力任せで薙ぎ倒すような勢いに満ちた作品でしたけど、今回発表される『SF「テスラチルドレン」』は練りに練った作風なのが一聴して窺えますね。

高尾 諭(g, vo):そうですね、そこは狙い通りで。曲がヴァラエティに富んでいるのも、それだけのものを出せるフル・アルバムだからこそなんですよ。

──アルバムの始まりと終わりにそれぞれ『SF「???」』と『SF「きみ」』というスローな曲を並べていたり、『SF「スーパーエフェクト」』というインスト曲を挟ませていたりと、六畳人間初のコンセプト・アルバムとも言えるんじゃないですか。

高尾:まぁ、“SF”というキーワードで括っているアルバムだとは思いますけどね。そこは聴いた人の捉え方次第で。

──アルバム・タイトルにある“テスラ”というのは、ハンガリー出身の電気技師・発明家であるニコラ・テスラ(1856~1943)のことで、“テスラコイル”(高周波・高電圧を発生させる共振型変圧器)の“テスラ”なんですね。

高尾:そうです。交流電流、ラジオやラジコン、蛍光灯を発明した人なんですよ。

──世界の偉人伝とかを読むのが単純に好きとか?

高尾:
なんか面白そうな人だなって思うとその人のことを知りたくなると言うか、それはミュージシャンも一緒じゃないですか? たとえば“こいつの耳はどんな形だったんだろう?”とか(笑)。

──テスラはトーマス・エジソンのライバルと目されていた人で、両者の間には相当根の深い確執があったみたいですね。

高尾:テスラも最初はエジソンに憧れてたけど、後半は大嫌いだったみたいですね(笑)。エジソンの会社に雇われて、交流電流による電力事業を提案したのにエジソンに認められなくて、自分で会社を立ち上げたんですよ。それでテスラは独自に交流電流による電力事業を推し進めることになって、エジソンは直流を推し進めて。お互いに忌み嫌ってたみたいですね。

──一般的に名の知られたエジソンを“明”とするなら、テスラは“暗”じゃないですか。そのテスラに着目してアルバム・タイトルに引用したのは、明暗で言えば“暗”に惹かれる高尾さんの嗜好性の表れなのかなと思ったんですけど。

高尾:エジソンも好きなんですけどね。ただ、“エジソンチルドレン”よりも“テスラチルドレン”のほうがいいと思って(笑)。語感的にも格好いいし。“エジソンチルドレン”ってなんか才能がなさそうじゃないですか(笑)。

──確かに(笑)。“SF(サイエンス・フィクション)”=科学的な空想に基づいたフィクションの総称なわけですけど、元々そういう世界がお好きなんですか。

高尾:そう…だと思います。超常現象とかキワモノ的なものには余り興味がないですけど、UFOとかは好きですね。訳の判らないものが好きなんでしょうね。サイエンス・フィクションというでっち上げた嘘みたいなことに理論を付けていくことで現実に変えていくと言うか、そんな意味を込めてみたんですよ。そういう空想の世界に惹かれやすいところはありますね。なんて言うか、物語が生まれるじゃないですか? たとえばUFOだったら、“なんであんなものが宇宙から飛んでくるんだろう?”とか、自分で色々と想像するのが面白かったりしますよね。

──「“空想あるいは嘘”を出発点として人間はこの世界に存在しないものを生み出す」のが本作のテーマということなんですが、高尾さんの言う“嘘”という言葉にはマイナスのイメージがないですよね。嘘こそが現実に変えていく力の糧であり、源なわけだから。

高尾:うん、そうかもしれないですね。まぁ、ネガティヴな性格なのでそういう表現になるんでしょうけど(笑)。

──翻って言うならば、空想を現実に変える人間の力を信じているということですよね?

高尾:そんな崇高なものじゃないですけどね。僕は単純に“物語が生まれる瞬間”みたいなものにグッとくるんですよ。一般的な物語っていうのとはちょっと違うんでしょうけど。たとえば目の前にびっくりするような絵があったとすると、“これは一体なんなんだろう!?”って考えるじゃないですか? その絵が生まれるまでの過程を頭の中で思い巡らせてみるんです。そうやってあれこれ想像するのが面白いし、それが僕の言う“物語が生まれる瞬間”って言うか。全部説明されちゃったものじゃなくて、のりしろがあるようなもの。訳が判らなくて、それでいてなんでか知らないけど心を惹き付けてくるもの…そういうものが好きなんです。

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01. SF「???」
02. 未確認・F・物体
03. タイムマシン
04. SF「スーパーエフェクト」
05. ありふれた物語
06. お花ちゃん
07. いないない・ばあ
08. アリゾナ(もしくは蟻ドーナツ中)
09. SF「きみ」

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