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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】六畳人間(2007年11月号)- 空想を現実に、デタラメを真実に── 音の出る空想科学工房『SF「テスラチルドレン」』

空想を現実に、デタラメを真実に── 音の出る空想科学工房『SF「テスラチルドレン」』

2007.11.01

小さい音で録るとダイナミックスな広がりが生まれる

──最初に中村さんにデモ・テープを聴いてもらった時も、アルバムの着地点は見えていなかったんですか。

高尾:いや、その時点で方向性はあったんですけど、その方向性自体が良くなかったんですよ。最初は1枚目、2枚目に近い感じで作ってたので、音がバチバチだったんです。僕達としては音を減らしてるつもりだったんだけど、バチバチだった。「それじゃ1枚目と2枚目を作った意味がないんじゃない?」って中村さんに言われて、今回は違うことをやらないとダメだなと。

──過去の2枚に比べて、無駄なものが削ぎ落とされた印象は確実に受けますよね。

高尾:そうですね。要らないものを削ぎ落とせたのは中村さんのアドバイスがあったからだと思いますね。

──「小さい音量で演奏したのを録ると、CDになった時にどれだけ音量を上げても深くていい音になる」と前号のインタビューで高尾さんが話していましたけど、実際にアルバムを聴かせてもらってその意味がよく判ったんですよね。僕はそれ、イントロが長くてセッション色の強い「アリゾナ(もしくは蟻ドーナツ中)」で痛感したんですけど。

高尾:おお、そうですか。

──“蟻ドーナツ中”という言葉を力業で“アリゾナ”に持っていく歌詞は思い切りダジャレでしょうけどね(笑)。

高尾:まぁ、そうですね。バレちゃった(笑)。

──「ないようはないようで ない/なにもない そう まして意味はない」とは唄われていますけど、その行間に何かあるんじゃないかという妄想を逞しくさせてしまうところがある曲ですよね。

高尾:それは音の力だったりするんじゃないですかね。音と言葉のバランスが成功すると想像する余地が生まれると言うか。まぁでも、今回は全体的に音が凄くいいと思いますよ。多分、オン・マイクで大きめに音を録っちゃうと、鳴りが入らないと思うんですよね。ドラムだったらバチッ、バチッ、バチッ…ってアタックのところばかりが入っちゃって、音の響きが入らなくなる気がします。ちょっと外したところのマイクで音を小さめに録ると楽器の響いた音がしっかり録れるんで、それが音源になって音量を上げた時にダイナミックスな広がりになると言うか。

──そういう残響音にこだわった部分も、直接的ではない歌詞同様に行間を読み込む楽しさなのかなと思いましたが。バンドとリスナーの妄想合戦みたいな感じで。

高尾:なるほど。その行間を読んでくれたら嬉しいですね。CDを出して、聴いた人達はどう感じるんだろう? っていうのを考えるのは楽しいですから。

──レコーディングを終えた後に杉原さんが「自分の腕のなさを実感した」と話していましたけど、リズム隊の音も太く際立っていたから全然心配する必要ないんじゃないかと思ったんですよね。

杉原考祐(b):無理してないからだと思いますよ。できないことはしてないので。

──もうちょっと腕を磨きたいというところですか。

杉原:“もうちょっと”どころではないです(笑)。さっき曲が出来るのは運だっていう話がありましたけど、たとえいい曲が生まれても腕がないことには話にならないと思ってますから。

──でも、身の丈に合った過不足ないプレイだと思いますけどね。

杉原:いや、過不足の“過”がないんですよ(笑)。まぁ、心技体が多少なりとも前作よりは成長した気はしますけど。前作は訳が判らないまま作業が終わってましたからね。

──そういう無理をしてないところがいいんじゃないですかね。“サイエンス・フィクション”なんて聞くと壮大なプログレ的大作を連想してしまうけど、この『SF「テスラチルドレン」』はもっと生活に根差したものと言うか、いい意味で箱庭的なところが親しみを持てるんですよ。

高尾:とりあえず大袈裟なことはしてないですよね。身の丈以上のことはできないし。

──伊藤さんと杉原さんが不在の状態で作業が進むことは結構あったんですか。

高尾:最初のリズム録りを終えたら、2人にやってもらうことが特になかったですからね。いてもらっても僕が気を遣うし。音を1個作るのに2時間掛かったりしたこともあって、その間待たせるのも悪いし、僕がミックス・ルームに戻って2人が暇そうに雑誌を読んでたらちょっと萎えますからね(笑)。それなら中村さんと2人で色々話しながら進めたほうが楽しいし、気を遣わないで済むし。

伊藤:それは僕らも判ってましたよ。高尾君に対して信頼もあるし、自分達がいなくても大丈夫だと思ってましたから。

──ダビングをほぼ終えた段階でPEACE MUSICにお邪魔した時、高尾さんが歌録りに詰まった曲とかもありましたよね。

高尾:歌は結構何度も録り直したんですよ。なかなかいいのが録れなかったですね。そこだけは運がなかったです(笑)。

──そういう煮詰まりそうな時は、中村さんが適宜にアドバイスをしてくれたんですか。

高尾:煮詰まることはなかったですね。2回くらい唄って上手く行かないとその日はダメなのが判るので、中村さんが「今日はもう唄うのはやめて、他の作業をやろう」と言ってくれて。だから作業が止まったことは1回もなかったんですよ。その間にギターの重ねとかキーボードを弾いたりとかしていたので。

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