確信の周りをグルグル回る「???」な歌詞
──高尾さんが今話した言葉に『SF「テスラチルドレン」』のすべてが集約されている気がしますね。だって、どの曲も歌詞を読んでも字面だけじゃ何を言っているのかさっぱり訳が判らないじゃないですか(笑)。
高尾:はははははは。確信衝いちゃった!(笑)
──『お花ちゃん』に至っては、いきなり「ハナのまんなかには 花ふん/お花ちゃん お花ちゃん」ですよ?(笑) そりゃぶったまげますって(笑)。
高尾:『お花ちゃん』は3、4年前からあった曲なんですよ。杉原さんが入る前からあったんじゃないかな。家でずっと鼻歌で唄ってたような曲で。どういう気持ちで作ったかとか、そういうのはもう全部忘れちゃいましたけど。
──もちろん、意味不明な歌詞でも音に乗ると伝わってくる部分もあるんですけどね。でも、そういう歌詞の訳の判らなさっていうのは、意味の押し付けをしたくないがゆえなのかなとも思うんですよ。
高尾:うーん…まぁ、結局は後付けなんですよね。表現したいことはあるけど、言いたいことって余りないのかもしれないですね。必要な歌詞もだいたい4、5行くらいで、後はその繰り返しが多かったりするし。それだけ言っときゃいいかなぁっていう。こんなこと言うとこっぱずかしいですけど、たとえば“愛”っていうものがあるとして、それをそのまま“愛”って言っちゃうと面白くないんですよ。「きみが大好きで、一緒に暮らしたい」なんて唄っちゃうと、“ああ、そうなん?”で終わってしまう。そんなの彼女に直接言えばいいじゃん? っていう話だから。
──よく判りますよ。“頑張れソング”にも同じことが言えると思いますけど。
高尾:それも「頑張れ!」って言いたい人に言えばいいだけだと思うし、要するにそれを歌詞にした時にどう言うかですよね。言葉の確信を衝いたらそれでオシマイな気がするし、確信の周りをグルグル回すことでぼんやりとその像が見えてくるっていうふうに作ってるところはありますね。
──聴き手のイマジネーションを稼働する必要のない、起承転結の“結”まで言い切ってしまう歌が最近は多いような気がしますよね。
高尾:まぁ、そこは人それぞれのやり方があるので何とも言えないですけどね。あと、作品が出来上がるのは運もあるんですよね。運が良ければバシッと曲が出来るし、運が悪ければ寒いことになるし。最初から“こういうふうにしたいんだ”っていう意図があって曲作りをしてるわけじゃないし、ものを作り始めた時はどうなるか判らないじゃないですか? こういうインタビューでも、最初から“こんなふうに話そう”と思って話しても全然面白くないし、喋ってるうちに思わぬ方向に行くのが楽しいと思うし。そういうのと一緒で、曲作りもある程度着地点が見えてきてから“こうしたいな”っていうのはあるけど、どうなるか判らないのがやっぱり楽しいわけですから。だから、取り立てて歌詞に意味を付けたいわけじゃないですよね。結果的に成功すれば、自分の身体に合った意味が生まれていたんだなって後で思うくらいで。
──運の良し悪しで言えば、今回はもの凄く運が良かったように思えますけどね(笑)。
高尾:ええ、運はあったと思いますよ(笑)。
──運を味方に付けるのも実力の内とよく言うじゃないですか。
高尾:でも、実感がないですよね。自分が頑張ったんだから運を引き寄せたんだっていう実感が。終わってみて“ラッキーだったな、今回は”っていう感じですから(笑)。
──スタジオで起こった音の偶発性に“ラッキーだな”と思うこともあったのでは?
高尾:ありましたね。“その音、出た!”みたいなのが。細かいところで入ってるシェイカーとか。
伊藤良貴(ds):僕は『ありふれた物語』の間奏で流れるオルガンの音にそういうのを感じましたね。自分はレコーディングの時には立ち会ってなくて、ミックスの時に初めて聴いたんですけど、あの音にはびっくりしましたね。
──あのオルガンはゲスト・プレイヤーの高橋 梢さんによるものなんですよね。
高尾:そうです。音は僕と中村さん(中村宗一郎/PEACE MUSIC)と高橋さんの3人で作ったんですけど、フレーズ自体は高橋さんが作ってくれたんです。高橋さんは昔バンドでヴォーカルをやってて声が凄くいいから、コーラスもやってもらったんですよ。
──『SF「???」』『お花ちゃん』『SF「きみ」』での高橋さんのコーラス、凄くいいですよね。
高尾:中村さんも凄く褒めてましたからね。しかも、高橋さんは1回唄っただけで大体OKだったんですよ。
──あと、「タイムマシン」でPEACE MUSICにあったレスリー・スピーカーを効果的に使っているところも“ラッキー”の部類なんですかね。
高尾:うん、そうですね。あの音も凄く良かったですね。