何処にも属せないパニックスマイルの特異性
──なんというか、凄まじく情報量の高いアルバムだということが話を伺ってきてよく判りましたよ。
吉田:今までのアルバムも本当は情報量が高いんですよ。ただ、こうしたインタビューでも歌詞に関してそこまで深く訊かれたことがなかっただけで。みんな歌詞まで見ないというか、音の斬新性ばかりに話がどうしても行ってしまいがちなんです。でも、そんなスクエアなバンドではないし、歌詞の深い部分まで語らなくても別にいいかなという気もしてましたしね…。
AxSxE:俺はなるべく歌詞を分析しないように努めて作業をしてたんだけど、今の吉田さんの解説を聞いてなるほどなぁ…と思ったよ。俺はそんなに暗いとは思ってへんかったからね(笑)。でも、言葉はちゃんと聴こえるようにはしたかったんよね。
吉田:面白いのが、僕の書いた日本語の歌詞なんてほとんど判らないジェイソンが「アルバムのタイトルは『BEST EDUCATION』にしよう」って言ったことなんですよ。それを聞いて、こいつ、日本語を判ってないくせによく判ってるなぁと思って(笑)。タイトル曲のテーマはどの曲にも通底しているので、僕も全く異議なしだったから、それで行こうと。
──吉田さんの中では、コンセプチュアルなアルバムにしようという意図は当初からなかったんですよね。
吉田:ないですよ。今話したような説明は初めてしたし、AxSxE君にも初めてしたし、実はメンバーにすら話してないんですよ。他のメンバーは、「なんかよく判らないけどそういうことを唄ってるんじゃないの?」っていう感じでしょうね(笑)。
AxSxE:バンドが全て一丸となって突き詰めてやるのもアリかも判らんけど、そうじゃないところが俺はパニスマの良さのような気がするけどね。
吉田:今までも一貫してそうだった気はするんですけどね。『10songs, 10cities.』(ユ01年発表)と『GRASSHOPPERS SUN』は石橋さんがヴォーカルで、歌詞は僕が書いていたんですけど、最初のヒントを石橋さんからもらうんですよ。「この曲はこういうストーリーにして欲しい」というように。それに対して僕が歌詞を渡す作業をしていたので、そこはひょっとしたら意味が通じていたのかもしれないけど、前作の『MINIATURES』からは歌詞に関して特に説明はしていませんからね。
AxSxE:吉田さん以外の3人はなんか共通してるところがあるよね。「ケッ!」と思うポイントが同じとかさ(笑)。
吉田:そうそう、僕以上に他の3人のほうがパンクかもしれないですね(笑)。
AxSxE:その「ケッ!」っていう感じが演奏中にも出てるもんね。
吉田:特に石橋さんがね(笑)。ジャケットの写真には控えめで清楚な音楽教師として写ってますけど、リアルにスケ番ですからね(笑)。
──今回のアーティスト写真も随分と思い切りましたよね。『BEST EDUCATION』だけに、メンバー全員が教師に扮する凝りようで(笑)。
吉田:レーベルA&Rの片山君のアイディアなんですけど、『BEST EDUCATION』というタイトルにするなら学校で撮ろうよって話になって、トントン拍子で話が進んで。
──4人とも、夜になると別の顔がありそうな訳あり風情な教師に見えますよね(笑)。
吉田:そういう先生も最近問題になったじゃないですか。この間も下着泥棒の現行犯で逮捕された中学教師とか、子供の死体を自分のホームページにアップしていた小学校の教師とかいましたよね。
AxSxE:吉田さん、話つなげるのウマイねぇ(笑)。昔やったらちゃんと怖い先生っておったやん? 生徒よりもちゃんと強い先生がね。今の時代は立場が逆になってるもんな。
──今の教育現場は、表向き体罰は厳禁らしいですからね。
吉田:僕が子供の頃なんて平気でありましたよ。先生に竹刀でボコボコにされてましたからね。でも、だからと言って体罰を受けて警察に届けを出そうなんて思わなかった。
AxSxE:そうそう。あと、昔は道徳の授業とかあったよね。今思うと、意外とああいうの大事だったんじゃないかな。
──そうですよね。あと、小学校の運動会で手をつないでみんなが1等になれる徒競走をやるような横並び主義の教育方針では、闘争意識すらも芽生えてこないですよね。その延長線上にあるのが、仲の良い寄り合い所帯バンドの馴れ合いライヴだと僕は思うんです。そういう没個性で画一的な教育こそが“WORST EDUCATION”じゃないかと(笑)。
吉田:判りますよ。僕らの若い頃は、対バンは時に敵であり、時に良き競争相手だという意識がどのバンドにもありましたからね。今はみんなで仲良しな感じで、いいライヴもダメなライヴも「良かったよ、カンパ~イ!」でオシマイだから、ぬるいなぁと思いますよね。
──それに比べて、パニックスマイルはライヴでアウェイを強いられることが多いですからね(笑)。
吉田:アウェイじゃない場所もあるにはあるんですけど、そういう所でライヴをやるのはもうちょっと後でいいかなと思ってるんですよ。
AxSxE:アウェイのほうが燃えるよね。逆にワンマンとかやっても、“なんでこんな人来てんねやろ”って自分で思ってしまうなぁ(笑)。
吉田:僕達は、実はまだワンマンをやったことがないんですよね。
AxSxE:やろうよ! むずがゆい感じになるかもしれないけど(笑)。
──お客さん全員が非国民みたいな感じになりそうですよね(笑)。
吉田:300人でも400人でもいいから、そういう嗜好性の人達が集まったらホントに非合法集会みたいですよね(笑)。でも、僕は心底アウェイが好きなんですよ。単純にモチベーションが上がりますし、“とにかくやらかしたるで!”って思いますからね。
──そのパニックスマイルのアウェイ感っていうのは本当に独特ですよね。
吉田:何処にも属せないがゆえのものなんでしょうね。普通の人が「言わなくていいじゃん、それ」っていうようなことを、マイクロフォンを通じてPAシステムを使ってあえて言うので(笑)。「またそういうこと言ってるよ」っていう雰囲気にさせてしまうから、「みんなで仲良く頑張って行こうよ!」みたいなことにはどうしてもならないわけですよ。
──そう考えると、15年もよくバンドが続きましたよね(笑)。
吉田:ホントですね(笑)。歌詞は一貫してイヤなことばかり唄い続けているし、ようやれたなぁ…と自分でも思いますよ。その割には普通のOLにモテたい願望もあるんですけどね(笑)。
AxSxE:そんなこと思ってるの?(笑)
吉田:モテたいっていうか、聴いて欲しいよね。ミスチルやスピッツを聴いてる人にもパニックスマイルの音楽を聴かせたいんですよ。闘魂溢れる若いサラリーマンにも聴いて欲しいし、いわゆるJ-POPを聴いているような一般層の人に聴かせてナンボだと思っているので。僕が好きだったニューエスト・モデルやエレファントカシマシの初期、(忌野)清志郎さんも然り、どれも凄く毒々しかったじゃないですか。そういうロックがもっといっぱいあってもいいのになぁと思うんです。今は“はれたほれた”の歌ばかりだし、「たまにはこういうのどうですか?」って僕達の音楽を勧めたいですよね。
AxSxE:今回のアルバムはいい意味でこれまでと全然違うから尚更だよね。こういう形のあるアルバムを作った後に、むっちゃやらかすような正反対のアルバムを作りそうなのがパニックスマイルの面白いところやと思うよ。
吉田:今回のアルバムは、紆余曲折ありながらもこういうことがやりたくてここまでやって来たんだなと自分でも思えたし、それがベストな状態でできたので幸せですね。たまに地元の同級生と会うと、それぞれ温かい家庭があったり、立派な役職に就いたりしているんですよ。自分はそんな身分じゃないけど、ずっと音楽をやり続けて、こうして理想的な作品を作ることもできたんだから、形は違えどやっぱり幸せなんだな、と。だから、「幸せに暮らしているので心配しないで下さい」と同級生達に伝えたいですね、この誌面を通じて(笑)。あと、福岡の親父にも(笑)。