革新的なビートを軸として、不安定に融合を果たす凄まじく殺傷能力の高いノイズと浮遊する不協和音。あらゆる既成概念をブチ壊し、悦楽と不快の狭間を自由に行き来しながら酷く乱暴に聴く者を絶頂へといざなうパニックスマイルの音楽はまさに唯一無二、オリジナリティの塊である。結成から15年、度重なるメンバー・チェンジと目まぐるしい音楽的変遷を経て彼らが到達した至高の作品『BEST EDUCATION』は、前衛と大衆性の間隙を縫う危ういバランスを兼ね備えた新境地。降り注ぐ陽光と篠突く驟雨が同居したかのようなこのアルバムの完成を記念して、バンドの首謀者である吉田 肇とプロデューサー兼エンジニアを務めたAxSxEの両名に制作中の秘話を存分に語ってもらった。(interview:椎名宗之)
音はクリアに、パートの棲み分けははっきりと
──何はさておきパニックスマイル結成15周年、おめでとうございます。
吉田:ありがとうございます。
──結成15周年にして、このたび目出度く発表されるオリジナル・アルバム『BEST EDUCATION』でやっと6作目という、この寡作っぷりが如何にもパニックスマイルらしいと思うんですけれども(笑)。
吉田:福岡にいた頃にさんざんデモ・テープを作っていたんですよ。多くて6、7曲入りのテープを、年に2本の割合で。この間再発されたファースト・アルバム『E.F.Y.L.』にボーナスで入っている『scale kit 1/72 100% PLASTIC』というカセット音源がボリューム的にはアルバムに近い形だったんですけど、あれを出した時点でユ95年だったので、そろそろCDを作りたいなと。でも、当時はCDを作るスキルがなくて、結局初めてのCDがユ98年に発表した『E.F.Y.L.』だったわけなんです。まぁ、(中尾)憲太郎もルーフトップの座談会(ユ07年2月号)で「あれがファーストとは思わない」と言ってましたけどね。だから、CDでカウントすると今回の『BEST EDUCATION』で6枚目、ライヴ盤(『EATS TOKYO ALIVE! / PANICSMILE LIVE』)を入れると7枚目になるんです。
──以前、吉田さんに次作の構想を尋ねたら「次は歌モノです」と仰っていて、『BEST EDUCATION』を聴いて確かにその通りだなと。もちろんそこはパニックスマイルなので、決して一筋縄では行きませんけど(笑)。
吉田:歌モノに聴こえました? いわゆる歌モノとは全然違うと思いますけど(笑)。
──でも、不協和音で混沌とした従来のイメージは成りを潜めて、いつもは異様なまでに歪んだギターもかなりクリアな音になっていますよね。その結果、吉田さんの歌がちゃんと残るような音作りになった印象を受けましたが。
吉田:『MINIATURES』(ユ04年発表)を作った後に、「次に作る曲はエフェクトを使わんとこう」ってジェイソン(・シャルトン/g)と話していたんですよ。リードを弾く時くらいにチューブスクリーマーみたいなちょっとしたブースターは使うにしても、基本的にはアンプから出る音だけでセッションしようと決めていたんです。ライヴの現場でも、もっと音をクリアにしたいと思うようになって。ライヴって会場によって音の聴こえ方が全然違うじゃないですか。グァングァンに回る会場でディストーションを掛けちゃうと、せっかくこしらえてきたギターのフレーズが全然聴こえなくてもったいないから、クリーンでくっきりはっきり聴こえさせたほうがいいのかな? っていう、言うなればライヴ対応策でもあるんです。ギターのフレーズみたいな部分をもっと強調したかったんですよね。
──パニックスマイルには似つかわしいほどに(笑)、凄く整合性の取れたサウンドですよね。
吉田:それはもう、プロデューサー兼エンジニアのAxSxE先生のお陰ですよ(笑)。ただ今回、棲み分けははっきりさせたんですよね。僕が単音フレーズっていうよりはカッティングに徹して、ジェイソンはそこでウネウネときしょいフレーズを弾いた組み合わせが多いんです。そのコントラストを出そうとしたから音が潰れていないんだと思います。でも、その反動でインストみたいな曲を作りたくなるから、僕もへんてこりんなフレーズを弾き、ジェイソンも負けずと弾き…みたいな感じになるんです。
──『GRASSHOPPERS SUN』(ユ02年発表)以降、ライヴ盤を含めるとこれで4作目のプロデュースとなるAxSxEさんですが、今回は吉田さんと事前にどんな音作りにしようと話し合ったんですか?
吉田:今回はあえてしなかったよね。
AxSxE:うん。ライヴはしょっちゅう観ていて、新曲がどんどん増えてくるじゃないですか。その新曲が従来とはベクトルが変わってきた感じがした。新曲を聴いて…そのままやろうって感じで。インストの3曲(「Chicken Force (May the chicken force be with you, always)」「Rabid Dog Bite」「Wedding Present」)は全然作り込まないで生音そのままに、スネアとかにコンプとか掛かってないようにして。歌有りのほうは逆にいじくろうと思って、ディレイとかいっぱい付いちゃった(笑)。吉田さんがこだわったのはバスドラの皮だよね。
吉田:そう。コーテッドのやつなんですけど、応援団の太鼓みたいな音がするんですよ。ベードラの中によく毛布とかスポンジを入れてミュートするじゃないですか。それを抜いちゃって、コーテッドの皮を打面に貼ると、バイン! バイン! バイン!って音になるんです。そういうちょっとガレージ・テイストのサウンドで録りたかったんですよ。そこだけかな、僕のリクエストとして最初にあったのは。ジョン・ボーナム(レッド・ツェッペリン)とかジンジャー・ベイカー(クリーム)とか、ユ70年代のハード・ロックのドラムみたいにベードラはボコンボコン言ってる感じにしたかったんですよね。あとはサークルサウンズの特性なのかな、あれは?
AxSxE:そうやね。自由が丘の外れにある、ただの狭いリハスタなんですけどね。俺はそこの部屋でばっかり、もう10年以上ずっと練習とかしてて。
──その部屋の空気感が良かった、と。
吉田:そうですね。
AxSxE:そこでみんなヘッドフォンもしないでレコーディングして。ヘッドフォンはね、絶対にしないほうがいいと思うんよね。たまにしゃあない時もあるけどね。俺から言わせれば…ヘッドフォンは敵だ!(笑)
吉田:その意見には賛成ですね。ライヴの時にヘッドフォンなんてしないわけじゃないですか。それと同じことですよ。演奏する時に頭に何かはまってるのが不自然でしょうがない。ヘッドフォンなしでやれるのが一番です。