この曲が出来なかったらもうバンドをやめる!
──先月号のインタビューで、「『story』がどういう作りになってるのか、まだ自分でも理解できていない」と仰っていましたけど…。
吉村:そうだね。でも、その後ネイキッドロフトでソロの弾き語りをやって、だいぶ掴めた感はあったけどね。「ああ、こうじゃないのね」みたいな。そっから先を分析できればいいんだけど、あまりコードを知らないから判んない(笑)。
──20年選手が何を今さら(笑)。僕が新大久保のFREEDOM STUDIOにお邪魔した時には、「イッポ」が最初に出来ていましたよね。ブッチャーズが21年目の一歩を踏み出すという意味も含めて、非常に重いテーマの曲ですよね。
吉村:そうだね。曲は一番最初に出来て、歌詞は一番最後だったんだけど、完成させるのに結構苦労したんだよ。
──「この曲が出来なかったらもうバンドをやめるぞ!」とメンバーに宣言したと聞きましたが。
吉村:「この曲を仕上げるぞ!」っていう勢いを出そうとしてたんだよ。そういうふうにしていかないと、自分の勢いもついていかないからね。
──その場の空気が凄まじく張り詰めそうですけど…。射守矢さんは付き合いも長いから「ああ、怒ってるな…」とか感じたりしたんですか。
射守矢:いや、そこまでナメてないよ(笑)。真剣なんだなっていうのがちゃんと伝わるからね。「イッポ」に関しては、小松には「もう何もするな」って言ってたんだよね。
小松:そう、でもそのくらいのほうが判りやすかったし、そのほうが俺もいいなって思って。
吉村:小松のプレイ・スタイルからすると、「何もするな」って言われるのが一番難しいんじゃないかと俺は思うんだけど(笑)。
小松:確かに他の曲だったら難しいけど、この曲だったら逆に何もしなくても全然行けるって思ったんですよね。
──凄くシンプルな曲だからこそ難しさがあったと思うんですが。
射守矢:聴いてもらったら判るんだけど、「ジャジャーンってやってくれ」って言われて、「俺、ベースなんだけど!?」みたいなね(笑)。
吉村:ベースは音が詰まっちゃうし、どうしようかなぁって思ったんだけど…。
田渕:私も、「ガシャーン、ガシャーンってやって」って言われて、“ガシャーン”ってなんだ!? って思って(笑)。「こういう感じ」っていうのが吉村さんの頭の中にはあるんだろうけど、そこに辿り着くのに時間が掛かったような気がします。
小松:コード感っぽいのは吉村さんがやっちゃってるから、じゃあ他の2人はどうするんだ! みたいなのはありましたね(笑)。何を入れればいいんだ、みたいな。
──リーダーからの擬音での注文というのは日常茶飯事なんですか?(笑)
田渕:多いよね(笑)。
小松:凄く多いと思う。でも地域性なのかどうか判んないけど、俺もアイゴン(會田茂一)とかと話してる時に擬音を使うと、「それ、どういう感じ?」って訊かれることが多くて。多分、この3人(吉村、射守矢、小松)の間だったら通じるんだけど、他の人は判らない擬音っていうのがあるんだと思う。九州は九州の擬音があるのかもしれないし(笑)。
射守矢:吉村がイメージを言葉にする時は、具体的には言わないんだよね。言えないわけじゃないんだろうけど。
小松:俺のイメージはそんな言葉ひとつじゃ言わない、みたいなのもあるんだろうし(笑)。
田渕:あと、受け取る側のイメージっていうのも入れて欲しいっていうのもあると思うし。
──のりしろを残しておいて、その人の良さを引き出すみたいなところが吉村さんにはありますよね。
田渕:それは絶対あると思う。
小松:「そういう考え方もあるんだ」っていう部分を受け入れられるところはありますよね。だから言われたほうも怒られてるわけじゃないっていうのは当たり前に感じるし。そんなんだったら、もっと全然違うバンドになってると思うし。
──何も知らない人は、ブッチャーズを吉村さんのワンマン・バンドのように思いがちですよね。
小松:全然そんなことないですよ。そういうバンドは他にいますから、もしそうならそんなバンドになってると思うし。
射守矢:誤解しちゃってる人はいっぱいいるけどね。
──そうやってハッパをかけて「イッポ」を完成させたというエピソードはとてもブッチャーズらしいですよね。ピンチを如何に切り抜けるかを命題に掲げたバンドというイメージがブッチャーズにはあると思うんですよ。
射守矢:それはまぁ、吉村の言葉を借りるならば“クソッタレ精神”ってことだよね(笑)。
──「イッポ」の他に手こずった曲というのは?
田渕:射守矢さんのベースのフレーズが最初にある曲っていうのは難しいんですよね。逆から作ってるような感覚なんですよ。ギターが最初にあって、みんなでなんとなく作っていくのと違って、なんかでっかいものが最初にあって、そこから逆に作ってるみたいな。
射守矢:ブッチャーズの曲の中にはそういう作り方をするものもあるんだけど、きっとやりづらいんだろうなぁとは思うね。普通、ベーシストでも曲を作る時はギターで作ったりするのかもしれないけど。俺は逆にギターが最初にあるとやりづらい(笑)。
──よく指摘されることですけど、ブッチャーズはベースの特異性が際立っていますからね。
田渕:そう、ギターが3人みたいな感覚ですよね(笑)。
──「神経衰弱」が射守矢さん主体の曲だというのはちょっと驚きましたけど。陰か陽かで言えば陽の曲ですから。
射守矢:でも、フレーズは陰なんだよ。
田渕:ベースだけ聴くと、こんな明るいギターが付くとは思えないような…。ベースのフレーズを聴いて、なんとなく普通にギターを合わせただけじゃ恰好良くならなくて、ガラッと変えて合わせたら良くなったような気がします。
──つくづく面白いバランスで成り立っているバンドだと改めて思いますね。小松さんは、今回も吉村さんから細かくドラムの指示を出されたりしたんですか。
小松:いやいや、そんなこともないですけど(笑)。
吉村:でも、未だに8(エイト)感とかは言うけどね。唄いやすさっていう部分で。あと、音がでかくなくちゃダメだっていうのがあるから、普通のバンドだったら8ビートは軽やかでいいのかもしれないけど、俺達が8ビートをやるとドタバタになるのは判るし、そういうノリもありつつ唄いやすさもありつつ音もでかくするんだっていうのは今もよく言うね。普通だったら全然必要のない指示を出してるのかもしれないよね(笑)。
小松:ブッチャーズの中でいわゆる8感っていうのはあまりないとは思うんですよね。俺もそんなに得意ではないし、やったこともないし。でも8感って人それぞれであって、射守矢さんも当たり前の8感っていうのは絶対やらないし。
吉村:そうそう。だからどこにも折り合いがつかないっていう。
小松:そういう当たり前の8ビートをずっとやってこなかったから、他のバンドの人に「変わった8だね」と言われることはある(笑)。
吉村:まぁ、実際そうでなくちゃダメなんだろうけど。社会的な8ビートに対する歪んだ感じというか。
小松:「こだわりの8」っていうのは多分人それぞれあると思うから。でも、そういうところがブッチャーズではホントに難しい。あと、「アハハン」のタイム感とかは凄く難しかった。タイム感を変えるっていうのが俺はホントにできないから。
吉村:それはかなり言ったよね。「アハハン」に関しても「イッポ」に関しても、4つ打ちドラム感っていうのは。「アハハン」は俺達の中で流行りの音楽なの。ギタポ! 言うなれば“ドッチタッチ、ドッチタッチ”みたいな感じ(笑)。でも、俺達がやるとこうなるっていう。ちなみに、「イッポ」は俺達流の「サティスファクション」だからね(笑)。
一同:(笑)
吉村:発想と出してるものがまんまだったら面白くないでしょ? そこが深いところなんですよ。「○○っぽく行こう」って言っても、そうはならないのがいいんだよ。で、いざやってみたら「チャゲアスとかダ・カーポみたい」とかさ(笑)。