bloodthirsty butchersという不世出のバンドの音楽を同時代で享受できる我々は「こんなに素晴らしい世界に生きている」(「Yeah #1」)と胸を張って言えるのではないだろうか。彼らの通算11作目となるオリジナル・アルバム『ギタリストを殺さないで』を繰り返し聴くにつけ、つくづく僕はそう感じる。
今年、バンド結成から晴れて成年に達した彼らが提示した新たなる"イッポ"=『ギタリストを殺さないで』には、彼らがこれまで発表してきたアルバムのエッセンスがすべて詰まっている。今も昔も変わらないのは、"bloodthirsty butchersの最高傑作は常に最新作にある"ということだ。ブッチャーズ若葉マークの人に「何から聴けばいいですか?」と訊かれれば、僕はいつも迷うことなく最新作を挙げる。今なら『ギタリストを殺さないで』を挙げる。最新作こそが常に先鋭的でスリリングで、文句なしに恰好いい......そんなバンド、国内外を見渡してもそうそういるもんじゃない。それはひとえに、彼らが今ある評価や名声、現状に甘んじることなく、常に変化を恐れず音楽と向き合いながら前進し続けてきたことに起因する。だからこそ、成人したにも関わらずブッチャーズの音楽はいつまでも赤子のように瑞々しく、純真であり続けることができる。この『ギタリストを殺さないで』に収録された楽曲の鮮度の高さは、ブッチャーズが2度目の成人を迎えた頃にもきっと失われることはないだろう。bloodthirsty butchersというバンドが存在する限り、僕は音楽の魔法を信じることができるのだ。(interview:椎名宗之)
バンドとしての音楽的な姿勢は変わらない
──20周年を迎えての率直な感想からお伺いしたいのですが。
吉村:早かったなぁ…。とにかくあっという間だったね。
──小松さんが加入してから数えても18年、吉村さんと射守矢さんに至っては小学校からの付き合いになるわけで。
吉村:そうなんだよねぇ。
射守矢:ヘタしたら家族よりも一緒に長くいるもんね。
──でも、バンドにとってはあくまで通過点にすぎない感じですか。
吉村:そうだね。20周年ってこと自体にも疑惑が出てきたんだよ。「ホントは21周年なんじゃない?」ってメールがとあるところから来て(笑)。どう考えてもおかしいよね、俺が20歳になる前からバンドを始めてて、今40歳だから…21周年? でもまぁ、そんなのほっとけよって感じだけど。
──その辺は無頓着であると(笑)。ひさ子さんが『荒野ニオケルbloodthirsty butchers』発表後のツアー中に正式加入されてからも早4年が経つんですね。
田渕:5年目に入りましたけど、まだまだですねぇ…(笑)。でも改めて4年と言われると、もっと前からいたような気もします。
──確かに。20年の重みを感じさせないところが如何にもブッチャーズらしいと思うんですが。
吉村:なんせまだまだヒヨッ子ですから(笑)。
──そんな祝いめでたな20周年の節目として、通算11作目となるオリジナル・アルバム『ギタリストを殺さないで』が遂に発表となるわけですが。何度かレコーディング現場にお邪魔させて頂きましたけど、すこぶる快調に作業が進んでいるように見えましたね。
吉村:曲をちゃんと作ってからレコーディングに入ったからね。練習してから入らないと、現場でモタモタできないから。だから順調には見えたんじゃない? そのためにちゃんと曲を作ったからね。今までの経験上ちゃんと考えて、できるところはちゃんと予定通りというかね。音の狙いとかも自分達で判ってたからね。問題はその後の歌だったんだけど、それもSTUDIO VANQUISHが協力してくれてうまいこと行ったからね。そこで時間的にもっと詰まってたりしたら、もっとギスギスしたアルバムになってたかもしれないけど。
──前作『banging the drum』は、タイトルに反して実は射守矢さんのベースに焦点を当てた名作でしたけど、次作の構想を吉村さんに尋ねた時に「次はギターを殺さないアルバムにしようと思ってる」と仰っていましたよね。
吉村:うん。その通りにしましたよ(笑)。
──でも、そこまでギターの音が際立って前面に出ているわけでもないですよね? 各パートのバランスは整合性が取れていると思うし。
吉村:そこは色々ね。清志(エンジニア)も良い意味でまだ若いから、邪心というものがないだろうし(笑)。勢いを大事にしただろうし、そこで俺達との折り合いがついたんだろうね。追求すればもっと違ったこともできたんだろうけど、そこで訳の判らない「これやったらどうなるんだろう?」みたいな変な追求はしてないんだよね。前作とかと比べると、表現としたら判りやすいかもしれない。前作みたいなことをずっとやろうとしたら頭が破裂しちゃうからね(笑)。そういった経験も経てレーベルを新しく作って、なるべくストレートで行きたかったというか。まぁ、そうは言ってもストレートではないんだけど(笑)。
──直球で行こうとしたら、結果的にはブッチャーズらしく変化球になったと(笑)。じゃあ、その若手のエンジニアの方とは相性が良かったわけですね。
吉村:そうだね。俺がやりたいことを踏まえつつ、彼が「ああしたい、こうしたい」っていうのもあったから、そういう引き出し方を俺とできたのは良かったなって。
──今回の自主レーベル“391tone”の立ち上げにはどんな意図があったんでしょうか。
吉村:結局、自分達でやらなくちゃいけなかったんだよね。自主でやるっていうのはメンバーの中でもう決めていたことではあったんだけど、体勢とか資金繰りとか判らない部分もあったから。色々どうしたらいいんだろうっていうのがあって、でもやっぱりやらなくちゃってところで何とか折り合いをつけて。まぁ、進めていくとそれなりにできるんだよね。ただ、アルバムのクオリティを落としたくないっていうのが絶対にあったから、最後の最後で勉強するところっていうのは多々あるんだけど。ジャケットひとつにしても、全部自分達の手でやったからね。
──色々と煩わしいことはあるでしょうけど、でも凄く前向きなことですよね。
吉村:まぁ、前向きではあるけどね。もうちょっと色々判ってなきゃいけないんだけど、それはまだこれからだよね。とりあえず第1弾のアルバムを出すにあたっては、クオリティを落としたくないっていうのがあったよね。でも、みんなも実際にどうしたらいいのか判んないっていうのもあったし…。
──最初は手探りでやって行くしかない部分も多々ありますよね。
射守矢:まぁ、今回は自主レーベルでやるっていうのが前提だったから、そこでじゃあどうしましょうかっていうのがあって。さっき前向きだと言って頂きましたけど、前向きにならざるを得ないって言うか(笑)。後ろを見られない状況ではあった。そんなヒマねぇよ、みたいなね。
小松:自分達でやったら良いも悪いも全部自分達に跳ね返ってくるし、いろんなことが見えてくるから、僕らに合ってる感じはしたよね。いろんな人と絡んでやるのはこれまでも散々やってきたから、そういう部分も残しつつではあるけど、とにかく自分達でやってみようっていう。あと、この歳になってまだそんなことをやるっていうのが普通と違うのかもしれないけど(笑)、この歳だからこそできるっていうのもあるし、まぁいいんじゃない? って感じ。
吉村:それを普通、この歳になってなかなか嬉しいこととして受け止められないじゃない?(笑) 迷いもなく言えるのは時間が経ってからで、徐々に「これでいいのかな? いいんだ!」ってなっていくものだよね。最初から成功するならとっくの昔にやってるわけで。まぁ、この先どうなるか判らないけど、バンドとしての音楽的な姿勢っていうのは変わらないからね。だから、自主レーベルを立ち上げてもやることは同じって言えば同じだよね。
田渕:私は、自主レーベルっていうのはブッチャーズには合ってると思う。でも、大変なのはナベちゃん(マネージャー)かなって(笑)。
小松:今のこの4人とナベちゃんがいるからこそできるんだよね。ちゃこちゃんが入る前の3人でもっと若い頃だったら絶対に無理。全部どんぶり勘定で大変なことになってたと思う(笑)。