昨年、YOUR SONG IS GOOD、TROPICAL GORILLA、ASPARAGUSという強者達とのスプリット3部作をリリースしたお面PUNKバンド、BEAT CRUSADERSより早くも単独シングルが到着。初回盤にはなんと彼らの真骨頂でもあるライヴ映像が収録されたDVDも付いてくるというこのシングル。気になる内容はというと、ひと肌もふた肌も剥けて、お面までも剥いじゃうんじゃないかってくらいのビタ~な哀愁ソングだった。一体彼らに何が起こったのか? 気になるすべてを残念ながら欠席だったクボタマサヒコ(Ba&Vo)を除く、ヒダカトオル(Vo&G)、カトウタロウ(G&Vo)、マシータ(Dr)、ケイタイモ(Key)に聞いてきた。(interview:有馬和浩/エビスパブリッシング)
スプリットをやって振り切っていいんだって思った
──今回のシングルを聴いた瞬間かなりビックリしました。特に1曲目の『GHOST』。今までのビークルにはない、大人な曲に仕上がっていますけど、これは何か心境の変化があったのですか?
ヒダカ:元々、この曲は2005年の暮れぐらいからあったんですよ。でも、全然大人すぎちゃって、どうアレンジしても俺たちには背伸びしてるようにしか聴こえないなっていうことで、そのまま放置プレイ?(笑)してたんです。そんなこんなで、YOUR SONG IS GOOD、TROPICAL GORILLA、ASPARAGUSというロフトでもお馴染みの面々とスプリット制作に入ったんですが、そのスプリット3部作をこなした結果、いよいよ単独でシングルを出そうぜ!! って時にこの曲を引っ張りだして来たら、5分でアレンジが決まっちゃったんです(笑)…俺たち大人になったねぇ~って思いマシータ(笑)。
──(笑)なるほど。最初ボツにしたのは何が原因だったのですか?
ヒダカ:やっぱ「BEAT CRUSADERSにしては暗過ぎんじゃないのか?」だったり「ギターPOP過ぎんじゃねーの?」っていうのがあって、色々迷ってたんですけど。
──その時のBEAT CRUSADERSではできなかったと。
ヒダカ:はい。でも、 スプリット3部作やって「振り切っちゃえばいいじゃない!!」ってのが判ったんですよね。
──じゃあ、スプリット3部作でかなりお相手のバンドから影響を受けたと?
ヒダカ:受けましたね…受けまくりマシータ!!
YOUR SONG IS GOODから学んだアレンジ術
──それぞれのバンドのどこに影響を受けたかっていうのを聞きたかったりするんですけど。
ヒダカ:え~、まずYOUR SONG IS GOOD。カリプソとかソウルっていう、全然ロック的な文脈のアレンジじゃないバンドでしょ? だからまず、アレンジが凄い勉強になりましたね。単純にハット、スネア、キックの位置っていうのが置き所によってこんなに変わるのかっていうのが判りました。特にYOUR SONG IS GOODがやったウチの曲だったり、ウチがやったYOUR SONG IS GOODの曲は全然聴こえが違うっていうね。鳴ってる楽器はそんなに違わないのに。それが凄い斬新でしたね…まぁ、言うほどYOUR SONG IS GOODは最近カリプソやってないんですけど!!(笑)
──ハット、スネア、キックの位置っていうのは、4つで取るか、裏で取るかみたいなことですか?
ヒダカ:そうですね。だから、カリプソも4つ打ちで成立はしちゃうんだけど、YOUR SONG IS GOODってよくよく聴くと別に4つ打ちではないし。で、純粋なトリニダードとかキューバのラテン音楽を聴いてみるとYOUR SONG IS GOODっぽいかって言ったらそうでもないし。
カトウ:それは本人たちも言ってました。あういう音楽ってホントはもっと大人数でやったりするから、ズィ~レイ(YOUR SONG IS GOOD/Dr)が手数多くやってるところって、ホントはパーカッションの人がやったりすることであって、基本的にドラムは一定なんですよ。人数足りないからやらざるを得なくなってるだけという。 ──なるほど。その人数の足りなさがアレンジとして上手く形になっているということですね。
カトウ:まぁ、そうとらえてあげると向こうは喜びますね(笑)。
TROPICAL GORILLAから受けた初期衝動
──TROPICAL GORILLAからはどんなことを学びました?
ヒダカ:TROPICAL GORILLAはやっぱりコード感ですね。パンクの持つ悪~いコード進行を学びました。それまで俺たちって明るめの曲なほうに寄っちゃってたところがあって、まぁ、お面だし「バカやってなんぼでは?」っていうのがあったんですけど…でも別に、悪い音で鳴らしてもBEAT CRUSADERSっぽくなるんですよね。で、TROPICAL GORILLAがウチの曲やってもちゃんと悪く聴こえるんですよ。
──そこら辺の違いって何なんですかね?
ヒダカ:たぶん、センスです。単純に。Gの後、Cに行かないで、C#に行っちゃうみたいなね…そういう良い意味での力技感。そういうところはTROPICAL GORILLAとやって凄く勉強になりましたね。結局、自分たちだけだと論理立てて考えちゃうんですよ…スケールだったり、ノート的に次はこうなんだっていうセオリーについつい足を取られちゃうと、TROPICAL GORILLAみたいな曲はできないですね。Cim(TROPICAL GORILLA/Ba)は逆に学術的な音楽理論がまったくないから、それが思い切り良くて気持ち良かったりするんですよ。あ、これ悪口ではないですからね…お互い頭悪いとは言ってますけど(笑)…そこがね、ホントにスカッとするんですよ。「全然気にしなくていいじゃん、コード進行なんて」っていう感じで。もともと、彼はベーシストだからベースで曲を作ってるんで、彼の中でコード進行は二の次なんですよ。“鳴り”として気持ち良ければ。
カトウ:初期衝動感が半端ないです!! 小学生ぐらいの勢いを持つ人ですね(笑)。
ヒダカ:そいういった意味では大槻ケンヂさんに近いんだなと。前に大槻さんもベースから曲を作るって聞いたことあるから。Cimとは全然出てくるものが違うけど、初期衝動感は何か似てますよね。あ~、TROPICAL GORILLAって筋肉少女帯なんだなって思いマシータ(笑)。
カトウ:(笑)新しい解釈だね!!
ASPARAGUSからは論理と感覚を成立させることを学んだ
──(笑)では、ASPARAGUSにはどんなところを学びましたか?
ヒダカ: ASPARAGUSに関しては、みなさんライヴを観ればよく判ると思うんですけど、とりあえず何やってるかさっぱり判らない(笑)。3人しかいないのに、全員何やってるか判らないという凄いバンドです。パッと見ね、YOUR SONG IS GOODのほうが何やってるか判らなそうに見えるんですけど、実はYOUR SONG IS GOODのほうが何プレイしているか判りやすいんですよ。でも、シノッピー(渡邊忍・ASPARAGUS/Vo&G)も自分が使ってるコードの名前とか知らないんですけど、彼の中で独自のセオリーがちゃんとあるんですよね。ある意味、TROPICAL GORILLAと対極にいるというか。でも2バンドともPOPだったりキャッチーだったりというところはちゃんと持ってるんですよねぇ。だから、アプローチの仕方で全然音楽の面白さも変わってくるんだなと思って、ヒッジョーに勉強になりましたね。
──わりと『GHOST』はASPARAGUSのコード感に影響受けた感じがしたんですが。
ヒダカ:そうですね。もともとそういうコード感で作っていたんですけど、去年の段階では上手くいかなくて。一緒にやったことで、ひとつのヒントをもらいましたね…「あっ、こうすればいいんだ」っていうのが判ったというか…ASPARAGUSがやっぱり一番天才肌ですね。J×J×(YOUR SONG IS GOOD/Organ&Vo)とCimにはホントに悪いんですけど(笑)…シノッピーは天才ですよ。ノーベル賞もらっちゃう人みたいな(笑)。
──ヒダカさんは音楽を論理立てて作るタイプですよね?
ヒダカ:はい、今までは。でも、スプリット3部作を経て「論理なんか捨てちゃえよ」っていう時と「論理をこう転ばせば面白くなる」っていうのを使い別けられるようになったと思います。理論派か理論派じゃないかっていうのは、どちらが正しいとか間違ってるとかそういう問題ではない…どっちも面白いぞっていう。
──なるほど。理論とフィーリングとの狭間がいいと。そのバランス感覚がスプリット3部作を通して養われたわけですね。
ヒダカ:そうですね。今まで論理で曲を作ってたんですけど、そこに頭の中で鳴ってる音をフィーリングで足すこともできるようになったというか。それは結構ASPARAGUSがそうなんですよね。YOUR SONG IS GOODはやっぱりウチのように論理があって作ってるんです。TROPICAL GORILLAとやったことにより、その論理が少しなくなり、で、ASPARAGUSはその両方を上手く成立させてたんですよ。それを見てて何となく、頭の中で鳴ってる気持ちいいコード感をちゃんと音にするっていうことが上手くできるようになったと思うんです。そこは凄い収穫でした!!