「暴力、もう見たくない」と書かれたポスターが駅に貼ってある。高校生ぐらいの男の子が顔を両手で覆っているポスターだ。たぶん彼の目の前で、理不尽な暴力が繰り広げられているのだろう。「顔隠してないで止めろよ」と言いたくなる。
これが正しい反応だとしたら、「戦争、もう見たくない」「差別、もう知りたくない」「原発問題、もう聞きたくない」とするのが正しい作法だろう。これって超カッチョ悪くないか?
このチキンくん、現実に目を向けないんだ。こんなチキンくんが増えすぎたら、どんな問題も解決できなくなる。ちゃんと問題を見据えて、不可能と言われたって未来をあきらめずに生きるべきだ。顔を隠して見ないふりなんかしてんじゃねぇよ!
一方でこんな人もいる。1975年、高知県窪川町に原子力発電所建設計画が持ち上がった当時、窪川町自民党支部広報副委員長だった島岡幹夫さんだ。島岡さんは反対したが、党内で同調する人はいない。そこで彼は共産党の反対集会に単身乗り込んだ。
「この町の有権者は圧倒的に保守だから、革新が運動を主導したら原発は止められない。私のような保守の人間が中心にならなければ力にならない。私を反対運動の代表にしてほしい」と。そして『窪川町原発反対町民会議』の代表になる。間もなくして彼は自民党から除名される。記事によれば、「急発進した車を道路に転がってかわしたこともあった。また、腹を刺されて、『オレを殺しても、反対運動はやまらんぞ!』と相手をにらんだこともあった」という。そして「住民投票条例」を要求し、町長リコールを実現した。しかしその後の出直し選挙に負け、一進一退が続く。チェルノブイリ原発事故後の1988年、原発建設を推進していた町長は「窪川原発は今日的課題ではなく、海洋調査を棚上げにする。私は公約の責任をとって辞任する」と述べ、13年に及ぶ原発計画はついに幕を閉じた。
「原発問題、もう聞きたくない」では解決しない。チキンだって追い詰められれば反撃するんだ。反撃できずに顔を隠してしまうのはチキンの名にも値しない。なんてカッチョワリイポスターだろうか。冗談みたいだ。