先月、アイスランドに行った。ここは地学のガラパゴスだ。地球のプレートがここで生まれ、毎年数センチずつ山を切り裂く。ギザギサの火山となだらかな大地。マグマの熱があちこちに湯気をたなびかせる。ちょうど白夜の時期、全く日が沈まない。暴走族らしき若者もいるが、白昼のような深夜の下ではイマイチだ。歩道には凸型の突起があって、通るには「よっこらしょ」とスピードを下げて乗り越えなければならない。しかも親切だから歩行者を待ってくれる。ありがたいけど、『なんだかなぁ』なのだ。
アイスランド最大という「グトルフォスの滝」を見に行った。なだらかな大地が続くばかりでそれらしい場所がない。しかし確かにあった。高さの違わない隣の大地との間に、30メートルほどの溝があって、その下に轟々と水が流れているのだ。飛び移れそうなぐらい対岸が近い。氷河からの水が大地を裂き、深く川を掘っている。そこに硬い岩盤があったおかげで、落差50メートルほどの水量豊富な二段の滝ができた。
百年前、ここにイギリス企業が目をつけた。ちょっと流れを仕切れば簡単にダムが作れる。ボーキサイトも豊富だし、水力発電してアルミの精錬をできると。いまやアイスランドはダム開発を中止している。しかし百年前の時点では、ダム建設は進められようとしていた。地域に住むシグリットという女性が一人反対し、ついにダムを止めた。シグリットは石碑となり今も滝を見守っている。当時のやりとりを関西風に再現してみよう。
「おー! この土地はダムに最適でっせ。簡単にせき止められるさかい、安うダム造れば大儲けでんがなー。がはは…、笑いが止まらんて。ほな、さっさと造りまひょか」
「待たんかい! ここはわての育った土地やで、ダムを造ることは許しまへん!」
「そげなこと言うたかて、ここはあんたの土地やないやんか」
「ええいうるさい、翼くんかて『ボールが友だちや』言うてますやろ、滝はわての友だちでっせ。友だちを売るんやったら、わてもこの滝に飛び込んで一緒に死にますさかい」
「そんなことされたらかなわんがな。うちは撤退や」
ええ話のはずやのに、なんや、迫力おまへんな。