かつて友人がジャガーのアドバイザーとして渡英せねばならず、しばし彼は英国で暮らしていたのだが、いきなり電話がかかってきて、車を買わなければいけなくなってしまい、ジャガーとアストンと候補があるんだけど、どっちがいいかな? ととんでもない話が舞い込んできた。「そりゃアストンに決まっているだろうが!」と電話口で叫び声に近い大声だったように記憶する。
ニッサンの誘致にも関係している彼が、いつもの同僚と帰るときに彼が送ってくれるというので、彼のジャガーのなかで待っていたときがあり、ダッシュボードを覗くと、そこにカセットテープが置いてあり、エリック・クラプトンの曲がズラリと並んでいた。
彼が車に戻り、ドアを開けて入ってくるやいなやキーを捻る前に、「このテープはお子様のかな?」と訊くと、彼は「いや、私の大事なテープだ」と答えが返ってきた。たまらず友人も、「自分も日本にいるときはもうクラプトンをコピーしまくったよ」と言葉を返すと、それからは話が止まらず、クラプトンからあらゆるロックな話に膨らみすぎて家まで遠回りして帰るほどだったという。
それからというもの、同じ社内で仲の良いとされている英国の友人は、それまでどこかでイエローという気持ちがあったであろう話し方、接し方がガラッと変わり、心底友人として付き合うようになったという話を聞いて、そうか、これからの国際社会との付き合い方はメガネをかけ、計算機を持ったビジネスマンというものではなく、どれだけ遊んできたかというおまえのような天真爛漫なものが世界を回し始めるのかなと大笑いしたことがある。実際、いまグローバルな付き合いとしての商社マンより、世界を動かしているのはオタクと呼ばれる人種だと自分は固く信じている、開花宣言の出るとか出ないとか言われている春の目覚めな朝だった……。