以前より、プロモーションとしてのTVコマーシャルとの関わり方をどうするか? という案件がレコード会社より出されていて、自分としては化粧品は使わないので、資生堂ほかのメーカーは問題外、ロールスロイスかフェラーリ、そして本田宗一郎のオヤジさんがいるHONDAだったらやってもいいよと半分冗談、半分本気で返すのが常だった。
そしてある日、プロデューサーからの電話が鳴った。TOYOTAからCMの依頼があるのだが…という切り出しで始まった話は、申し訳ないが丁重にお断りしてくださいという自分の高慢ちきな言葉で一旦は受話器がおろされた。
その後、一度話をちゃんと聞いてほしいということで場を設けられ、プロデューサーから聞かされた話は、電通の一部・二部の合同プロジェクトで始まっているこのCM製作が、実はもう動き始めているという。一応、断りを入れたつもりだったが、まさか断られるとは思わなかったレコード会社と電通側が見切り発車で話を進めてしまっていたらしい。
さあ困った、ここで我を張って話をぶち壊しても、せっかく自分を名指しで依頼してくれた担当の電通マンの立場を失墜させることになる。そこに選択の余地はあらず、では思い切りやらせてもらいましょうという返事を返したのは言うまでもない。
どのアーティストも必死になって流行り始めたタイアップというシステムに夢中になっている頃、自分も初めてコマーシャルというものに関わることになった──。