ホテルにて朝食を取り、移動日だったと思うが、いきなり背中のほうで、いまでいえばエアプレイだが、ラッパを模した口真似で、グレン・ミラーの「In the Mood」のさわりが飛び込んできた。
思わず後ろを振り向くと、メンバーたちがそれぞれに管楽器を持っているふりで「In the Mood」の演奏は続く、そしてこの曲の顔ともいうべきトランペットのタラーッのフレーズが出てきたときにはペット部隊が立ち上がり、バスの後席は自分も混ざり、ほぼグレン・ミラー・オーケストラと化していたのであった。
南へ北へ、日本全国へのツアーは続くそんなある日、記憶が正しければ、広島かな。いやまったく当てにできない記憶だが、ライブを終え、スージーらと食事をして一緒にホテルに帰り、エレベーターの前で待っていると、扉が開いて、いきなりクリフ・リチャードが現れた。クリフ・リチャードと言えば、“イギリスのプレスリー”と呼ばれ、自分も音楽に目覚めたころに、「The Young Ones」「Summer Holiday」などのシングルを買わせてもらった世界の大スター。
そんなクリフ・リチャードが目の前に現れ、それは当然に、スージーと話が盛り上がるのは間違いない、ずっとイギリス人だと思っていたスージーが実はアメリカはデトロイト生まれでプロデューサー繋がりで、イギリスへ行ったのがデビューのきっかけとなっていたらしいことは後で知るのだが、そんなクリフ・リチャードとスージーの盛り上がる会話のなかで、間に挟まれている自分はなんなんだと戸惑うことしきり。
クリフや、スージーの視線がときどき話の流れでこちらに向けられるので、とりあえず作り笑いではないが、カラ返事もどきは返しておいた、そんなあり得ないほどの嬉しい(?)突然の出来事であった。