頭脳警察に『金曜スペシャル』の話が舞い込んできた。
フィリピンの孤島で現地人の前でロックを演奏してほしいとの話だった。
話を聞けば、フィリピンのモロ湾に撮影のために入ったオランダのロケ隊が帰ってこないという。オランダ政府からフィリピン政府に調査の依頼があり、フィリピンのレンジャー部隊が二機の輸送機に分乗し向かったところ、谷あいからの十字砲火で一機撃墜され、調査が滞っている現状らしい。
谷あいからの十字砲火は旧日本軍のやりかた以外の何ものでもなく、残存日本兵なのか、訓練を受けた現地住民なのかも定かではない。
チェコ製のマシンガンを装備したモーターボートも徘徊しているらしいモロ湾の島々。そんなところへ行かされるのは面白いと言えば興味は尽きないが、そこでロックをがなり立ててどうする? という疑問がわかないわけでもない。ヤマハのPAセット、発電機、必要なものは命を置いてもいっぱいありすぎる。
そんな心の準備も整わないうちに、現地に向かっていた台湾の水先案内人が帰ってこないと大騒ぎになった。結局、案内人が帰ってこないんじゃ、この無謀とも言える企画に乗るわけにはいかないと、自分が断りを入れる前に、企画のほうが自滅していったのだった。
それから十数年を経て、その『金曜スペシャル』を企画していたのは、『ミスター・バイク』編集長を経て、『ロードスター』、『Tipo』を牽引していた山崎憲治くんだったと知ることとなり、なんてバカな企画を考えたものだ、企画が潰れて良かったとみんなで大笑いした思い出が懐かしい。