想い出の音楽番外地 戌井昭人
最近、ピーター・グリーンが亡くなりました。ピーター・グリーンは初期フリートウッド・マックに在籍していたというか、リーダーだったギタリストで、数々の名曲を世に送り出しました。
1968年に全英1位となった「アルバトロス」という曲は、わたしの心の中にビシリとヘバりついてる曲で、自分が死んだときは、葬式のとき、この曲をエンドレスで流しておくだけで良いですよ、と思っています。
わたしは1971年生まれなので、この曲がヒットしたときは、まだ生まれてないのですが、大人になって「アルバトロス」を聴いたきっかけは……、などと紹介しようとしたら、以前もこの連載で、「アルバトロス」を紹介していたのに、いま気づきました。
それは連載の37回目でして、「アルバトロス」を初めて聴いたのはエロ本屋だったというもので、20代の頃、エロ本屋をウロウロしていたら、ラジオでフリートウッド・マックの「アルバトロス」が流れてきて、感動したという、どうしようもない内容なのですが、気が向いたら、読んでみてください。
そんなこんなで、「アルバトロス」の紹介は、もう良いかとも思ったけれど、やはり、ピーター・グリーンのギター、そして「アルバトロス」は本当に素晴らしい曲なので、もう一度、紹介したいと思います。
そこで今回紹介したいのはライブ盤、フリートウッド・マック『Live At The BBC』です。よくわからないのだけれど、題名から、BBCで行なわれた録音ライブなのでしょう。
ここでの「アルバトロス」の演奏はライブ版なので、『English Rose』というアルバムに収録されているものと比べると、安っぽいし、なんかスカスカした感じなのですが、そこがまた良いのです。やはり、名曲というものは、演奏がどんな状態でも良いし、なにはともあれ、ピーター・グリーンのギター演奏が、スカスカでも素晴らしい。
この前、ピーターはピーターでも、バラカンさんのほうのラジオを聴いていたら、亡くなったピーター・グリーンの特集を組んでいて、とても良い放送でした。
ピーター・グリーンが、バンドを辞めるきっかけとなったのは諸説ありますが、ヨーロッパ・ライブで、ドイツをまわっていたとき、ヒッピーにやらされたLSDが粗悪だったのか、強すぎたのかわからないけれど、その影響によって、頭が混乱してしまったとか。その後、後遺症なのか、統合失調症になり、いままでの印税を受けとろうとせずに、渡しに来た弁護士か何かにショットガンで脅して捕まったとか。なんだか、めちゃくちゃだけれども、そんなことはどうでもよく、とにかく、素晴らしいギタリストです。
世の中いろんなギタリストがおりますが、もし、自分の手を誰か好きなギタリストに交換できて、いつでもギターを弾けるとしたら、わたしはピーター・グリーンの手が欲しい。そして、死ぬまで毎晩必ず、「アルバトロス」を弾くのです。
戌井昭人(いぬいあきと)1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。2016年には『のろい男 俳優・亀岡拓次』が第38回野間文芸新人賞を受賞。