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トップコラムISHIYA 異次元の常識第55回「やってみたから気づけたのさ」

5回「やってみたから気づけたのさ」

第55回「やってみたから気づけたのさ」

2024.05.15

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Text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)

やってみて初めて理解できることが、この歳になっても尽きない

 このコラム全般に共通していることなのだが、書いている本人が1980年代に思春期から青春時代を過ごしたおっさんであるばかりか、思春期に「ハードコアパンク」という生き様と音楽に出会ってしまったために、人生を社会から踏み外した人間の感覚で書かれているという事実がある。
 道から外れて当たり前、犯罪行為もなんのその、常軌を逸して通常営業といった、およそ一般社会でまともに生きる人たちとは隔たりが天と地以上の差があるのだ。
 そんな人間であるために、やってみて、経験してみて初めて理解できる感覚も、真面目に、まともに社会生活を営んできた人々とは隔たりがあるのではないか? と、色々な初体験をしてやっと最近薄々感じ始めたのである。
 
 先日行なわれた自著『静岡ハードコア』『新装版 関西ハードコア』の発刊記念イベントで、西荻窪のDARTS & VEGAN BAR METEORAで一日店長をやらせてもらったときのことだ。それまでも一日店長をやったことはあったが、今回初めてまともに飲食店業務を体験した。
 注文取りから洗い物、ドリンク作りなど様々な業務は多忙を極め、ようやく閉店時間になっても、まだ片付けや食器などの洗い物のほかにも売上計算がある場合もあり、実際は閉店してもまだまだ仕事が残されているではないか。
 今まで自分が飲みに行ったときなどに、ラストオーダーや閉店になっても粘っていたりしたのをひどく後悔するような大変な仕事であり、これからはラストオーダーや閉店時間になったら極力できるだけ速やかに帰ろうと身に沁みた日だった。
 
 「今更かよ」というツッコミが聞こえてくるのは気のせいではないとは思うが、言い訳させてもらうのであれば、成人する前からまともなバイト経験がほとんどないために、社会経験というものをほとんど知らず、ようやく60歳も間近に迫りつつあるこの年齢になって、初めて経験する物事が多いのが実情なのだ。
 一人暮らしというものも、18歳頃に半年ほど経験してからは、友人の家を転々とし、彼女ができれば転がり込み、まともに家賃すら払わないのが当たり前で、ようやく最近一般的な一人暮らしを経験し、実感しているところである。
 結婚し、子どもが生まれ、家族を形成できるという一般的な幸せにも巡り会えたのではあるが、自らの過ちにより家庭が崩壊し、子どもには寂しい思いをさせてしまった。今でも子どもとは毎週遊んでいるのだが、これもまた親になるという初めての経験であり、自分の親の気持ちを今になってようやく理解し始めているところだ。
 
 子どもと出かけていても初めての経験は多い。最近サッカーのJリーグをよく観に行くのだが、応援席で大勢のファンと一緒になり、大声を出して応援歌を歌うのは非常に気持ちが良く、ライブ以外でここまで大声を出すのも初めての経験だ。
 自分の息子が応援しているチームではないのだが、何千人というファンが、声を合わせて大声で相手を罵倒する応援歌を歌うチームなどもあり、その歌詞に表れる思いなどは、近年のSNSによる影響がかなり大きいと思えるような陰湿で嫌味なものも多い。
 「スポーツの応援でこんな歌詞を歌って楽しいのか?」と不思議になるようなものも多く、若者文化なのかサッカー文化なのかわからないが、ある意味新しい感覚ではあると認識もできた。個人的には決して良いとは思えないが。
 
 他の日常では、家で仕事をするか、仕事関係で出かけるか、友人と飲みに行くか、ライブかスタジオに行くといったところなのだが、ひとりで暮らしていると「会話」というものがあまり交わされないという経験も初めてだ。
 それまでは常に誰かと生活していたために、暮らしの中で会話が無いという状況に陥ったことがなかった。仕事も家でひとりのために、誰と会話するわけでもない。
 そんな日常生活で会話があるのは、銭湯の常連のおっちゃんか、家にいる猫になる。銭湯のおっちゃんたちは、1日の中で数十分程度のあまり突っ込んだ話ではないので、俺の日常で現在会話と呼べる行為の中心は猫である。
 もちろん猫なので人間の言葉を話しはしないが、なんならSNS上で絡んでくる輩よりは、よっぽど会話が成り立つし意思疎通もできる。
 
 1歳ぐらいの仔猫の頃、土砂降りの雨の中、片足が粉砕骨折していて道端でずぶ濡れになりながら、人が通るたびに必死に鳴き声をあげ助けを求めていたのを保護してから16〜7年一緒にいるので、息子よりも長く暮らしている家族だ。
 子どもの頃にも家に猫がいたが、この猫を保護して一緒に暮らしてからわかったのは、人間との違いは見た目や言語の違い、思考能力の差異ぐらいだということだ。
 保護したときに医者へ連れていくと「まだ仔猫なのに粉砕骨折しているので、このまま生きるのは難しい」と、安楽死を勧められたが、そんなことができるはずがない。そのまま連れて帰り今に至るのだが、腹が減れば飯をねだってくるし、トイレが汚ければ掃除をしろと言ってくる。
 病気で苦しいときには寄り添って寝てくれ、舐めて看病してくれたり、友人が亡くなったときなどの悲しみに沈んでいるときには、ずっとそばにいてくれたりもする。
 ツアーや旅行などで長い間留守にして帰ったときには、帰るとかなりの勢いで話してくるし、付きまとって離れない。撫でたり抱っこすればゴロゴロと喉を鳴らし気持ち良さげにしているし、寒いときには一緒に寝かせろと布団に入ってくる。
 機嫌が悪いときには怒るし、面倒なときにはこっちが放っておかれたりもする。声をかけたり名前を呼べば返事をするし、やりたいことの意思表示もはっきりしている。
 
 長年一緒に住んでいれば、もう多少の病気では顔だけ覗き込んできたり、たまにそばに来て様子を伺ったりするぐらいで、寝る場所も自分のお気に入りの場所を見つけて一緒に寝やしない。
 人間だって子どもの頃には親と寝たり、些細なことでも心配するような可愛さがある。しかし大人になっても親と一緒に寝る人はあまりいないだろうし、親が大きな病気のときでもない限り、多少の様子は伺って心配はするが、べったり寄り添って看病することもないだろう。本当に人間と大差がない。そりゃそうだ。人間だって動物だ。
 
 最愛の家族である動物には、愛もあり、感情もあり、痛みも苦しみも感じていて、自分たちと同じだと、動物と一緒に暮らしている人にはわかってもらえるはずだ。
 でも肉は食べるし、魚も食べる。俺だって猫を飼いながらずっと肉や魚を食べていた。しかし肉や魚を食べなくなってから、気づいたことがたくさんある。
 
 それまで家族として一緒に暮らしてきていた猫ではあるが、やはりどこかに「動物だから」といった意識があったのだろう。
 言うことを聞かなかったり、いたずらや粗相をすれば怒ったりもした。何かを訴えてきていても相手をしなかったり、出かけて飯をあげられなかったりなど、人間に対するよりも粗末に扱っていた部分もあった。
 すると寂しそうな声を出したり、顔を舐めてきたり甘えたりしてくるのだが、あるとき「この猫の思いの全ては、俺にしか向けることができないし、俺にしかこいつの思いは汲んでやれないんだ」と気づいた。
 今までやっていなかったのかと言われたら本当に申し訳ないし、動物を保護する資格がないと言われるかもしれないが、肉や魚、乳製品などの食事や、動物性製品の使用を一切やめてから、今までよりも深く動物の気持ちを考えられるようになっていたのである。
 
 あのずぶ濡れになり、死にそうになっていたこの猫を保護したときの、必死に「助けてくれ」と訴えていた鳴き声は忘れられない。人間だろうが猫だろうが、犬だろうが、豚だろうが、牛だろうが、馬だろうが、死にそうな危機に遭遇したら「死にたくない」と思うのは当たり前だ。
 
 人間と猫に違いがあるのか?
 猫と犬に違いがあるのか?
 猫と豚に違いがあるのか?
 猫と牛に違いがあるのか?
 猫と馬に違いがあるのか?
 この猫が殺されようとしていたらどうする?
 感謝されて残さず食べられるなら、この猫が殺されてもいいのか?
 
 俺は自分に何度も問いかけた。答えは明白だ。生命を奪ってもいい違いなど全く無いし、殺されるのを許すことはできない。
 こう気づいたのも、動物性食品を食べなくなってからだ。
 それ以前は、海外に動物性食品を摂らず、動物の権利を守る友人が多かったためにそういう生き方の認識だけはしていたが、いざやってみると様々なことに気づき始めたのである。
 
 戦争や差別など、それまでに憤りを感じていた行為と同じことを、俺が動物たちにしていたではないか。
 ナチスドイツがユダヤ人たちに行なった、優生思想による人種差別の虐殺行為の数々と、俺が動物たちにしていた行為は全く同じじゃないか。
 国民を騙し自分の欲望を満たしている政治家と、俺が欲望のために動物たちにしていた行為のどこに違いがあるんだ。
 物心がつく頃から言われてきた、肉を食べなければ力が出ない、牛乳を飲まなければカルシウムが摂れないという常識は、統一教会やオウム真理教の洗脳とどこが違うんだ?
 俺が散々憤り、許せないと息巻いて、歌詞でもライブでも訴え、路上のデモでもやってきた怒りの矛先は、俺が動物たちにやっていた事実そのものじゃないか。
 何が反戦だ! 何が反差別だ! 俺が動物たちにやってきたことは、戦争や差別とまるで同じじゃないか。
 
 10代の頃、初めて触れた海外のハードコアパンクバンドたちが、なぜ動物の権利を訴え、反戦を訴え、反差別を訴えていたのか。
 ハードコアパンクになって海外にできた友人たちの多くが、パンクスとして生きる上で、なぜ動物の権利を守り、差別に反対し、自由と平和を求めるのか。
 やってみて初めて理解できることが、この歳になっても尽きない。
 強制もしないし押し付けもしない。ただ、こういう生き方もあると認識してくれればいいだけだ。
 そうすれば何かのきっかけで、生命を奪う側から、一つでも多くの生命を救う側になれるかもしれないから。

CONFLICT『MEAT MEANS MURDER』(肉は殺人を意味する)

工場では、加工され、包装され、整然とした肉が生産されている
ラベルには「肉」と書かれている
豚肉、ハム、子牛肉、牛肉といった偽名に隠されている
目には目を、命には命を、いまや忘れ去られた信念がある
そして毎日の生産ラインは、この茶番劇を送り出している
テーブルの上に並べられ、ケツからクソが漏れる
 
それでもなお、彼らは列をなし、それでもなお、彼らは見ている
煮込むのにちょうどいい手足を鋸で切り出し
山積みにされた死骸
冷凍庫の奥からジューシーな塊を並べ替える
その汁が血だとわからないのか
生まれたばかりの喉から赤い川が溢れる
若い心臓の血、静脈の血
あなたの血、そこに流れる血は同じ
 
今、君はテーブルについて、座って、ニヤニヤしている
そこに座って食べているあなたは、その中身に気づかない
無菌の皿に盛られ、殺すことなど考えない
あなたの脳は、揚げ物か、焼き物か、どちらを選ぶのだろう?
アザラシの淘汰やクジラの虐殺に呻くが
しかし、それが陸上であろうと水上であろうと、本当に問題なのだろうか?
毛皮のコートを着たこともないくせに、ミンクは残酷だと言う
牛や豚や羊はどうだろう、考えさせられることはないだろうか?
生まれてこのかた、ミッシング・リンクのことを知らされたことがない
 
それでも彼らは行列を作り、まだ見ている
煮込みにちょうどいいように手足を鋸で切る
山積みにされた死骸
冷凍庫からジューシーな塊を取り出す
汁が血だとわからないのか
生まれたばかりの喉から赤い川が溢れる
あなたの血も、彼らの血も、同じもの
 
【注】ミッシング・リンク:失われた環(わ)。生物の進化・系統において、その存在が予測されるのに未発見のためにできている間隙。鎖を構成する環にたとえていう。
 
翻訳はDeepLにて。間違いがあれば指摘していただけると助かります。
 
Meat Means Murder
 
The factory is churning out, all processed, packed and neat
An obscure butchered substance and the label reads Meat
Hidden behind false names Such as Pork, Ham, Veal, and Beef
An eyes an eye, a life's a life, the now forgotten belief
And everyday production lines are feeding out this farce
To end up on a table then shat out of an arse
 
Yet still they're queuing and still they're viewing
Sawing out limbs just right for stewing
Carcasses piled up in a heap
Sort juicy chunks from freezers deep
Well can't you see that juice is blood
From new born throats red rivers flood
Blood from young hearts, blood from the veins
Your blood there blood serves the same
 
Now you're at the table, sitting, grinning
Sitting there eating you never realize the filling
It's served upon a sterile plate you don't think of the killing
The furthest your brain takes you, is it for frying or for grilling?
You moan about the seal cull, about the whale slaughter
But does it really matter whether it lives on land or water?
You've never had a fur coat, you think it's cruel to the mink
Well how about the cow, pig or sheep, don't they make you think?
Since the day that you were born you've never been told the missing link
 
Yet still they're queuing and still they're viewing
Sawing out limbs just right for stewing
Carcass piled up in a heap
Sort juicy chunks from freezers deep
Well can't you see the juice is blood
From newborn throats red rivers flood
Your Blood, Their Blood, serves the same
 

◉CONFLICT(コンフリクト)は1980年代初頭から活動している英国の老舗ポリティカル・パンク・バンド。反戦、核兵器廃絶、動物保護など一貫して政治的・左翼的なメッセージを掲げている。「Meat Means Murder」は1983年に発表されたデビュー・アルバムにして世界中の平和主義者、活動家、アナキストのバイブル的名作『It's Time To See Who's Who』に収録。
 
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。
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