Text by ISHIYA (FORWARD / DEATH SIDE)
ひとりひとりの人間が、過ちを認め、殺さず、差別せず、搾取しなければ、そんな世界が出来上がる
2019年7月18日に、京都にあるアニメ制作会社「京都アニメーション」に男が侵入し、ガソリンを撒いて放火し、70人が死傷する事件が起きた。
その事件の犯人である青葉真司被告に対し、2014年1月25日に死刑判決が言い渡された。
この事件に対して様々な意見や思いがあるとは思うが、亡くなってしまった被害者遺族のひとりが取材に応じた記事を目にした。その中で遺族は、こう話していた。
「私としては、別の形の判決を望んでいた。彼がずっと生きて、自分のやったことを認識して、彼自身が本当に悪いことをしたという気持ちが芽生えて、各遺族にわびるようなことがあれば、遺族の気が済むこともあるかもしれない。そういうチャンスがある判決を望んでいた」(引用:読売テレビのニュースサイト『YTV NEWS NNN』、現在は削除)
過去にもこの国で起きてしまった様々な殺人事件の犯人に対して、世間の多くの意見は「遺族感情を考えれば、死刑は当たり前だ」というものが多数を占める。
「遺族感情」という部分に対して「もし」報われる可能性があるとすれば、加害者の心からの反省と謝罪を、遺族が少しでもいいから受け入れられた時ではないだろうか。そのためには、加害者である犯人が、やってしまった「ことの重大さ」を認識するのがまず一番だ。
認識さえできるのであれば、己の犯した過ちを受け入れ、後悔し、反省し、被害者の気持ちや立場も理解できるようになり、初めて心からの謝罪の気持ちが沸き起こる。
「ことの重大さ」を認識しないまま殺してしまって、果たして遺族が報われるのだろうか?
遺族の立場からこうした思いを発言したことによって、死刑肯定派が常に言う「遺族感情を考えろ」という意見に対しても、人が人の生命を奪う死刑制度そのものに対しても、大きな問題提起がなされたのではないだろうか。
ほかにもこのご遺族の方が話している内容は、記事を読んでいただくと理解できるが、このご遺族の思いによって「殺したのだから死ね」という短絡的な思考ではなく、生命というものに対し、もっと深い思慮を望むばかりである。
以前、この連載コラムでも書いているが、「認識」は、成長や進歩にとても大切なものであると感じている(参考:コラム『異次元の常識』第48回「
事実の認識 」)。
2024年1月に発覚した、自民党の政治資金規正法違反事件でも「裏金を認識していない」と、いけしゃあしゃあと抜かす議員たちに腹を立てている人は多いはずだ。
何千万の金を認識していないなどというたわごとを、よくぞここまで堂々と言えるものだとあきれ返るばかりだ。まぁ与党やその取り巻きあたりの政治家なんて、ほとんどがそんなもんだろうとは思うが。
認識をせずに何かほかのせいにし続けていれば、反省も謝罪も引き出すことはできないだろう。
其処彼処に「認識」から逃れる人間で溢れているのが、今のこの国の現状だ。それは何も京都アニメーション事件の犯人や、ほかの殺人犯、自民党の裏金議員や与党まわりの政治家だけに限ったことではない。認識不足のために、ひどい誹謗中傷で差別発言を繰り返すレイシストも数多く存在する。
SNSの世界では、いかに自分が正しいかを、事実の認識もせずに、言い訳や誹謗中傷で自己防衛をするのが当たり前の世界になっている。そんな世界での言い合いを、会話と捉える時代になってしまった。そしてそんな世界が、今の世の中の当たり前というか常識になっている。
世の中や人々の日常が「認識」を避けてばかりいるならば、何千万もの金を認識していないというたわごとが、まかり通ると思われても仕方がないだろう。事実を確認もせずに事実無根と言って、まかり通ると思われても仕方がないだろう。
俺たちがそんな世界を作り上げてしまっているんじゃないのか? その「認識」は持っているか? あなたが過ちを「認識」せずに、武装した言葉を並べて攻撃していたら、そんな世界になってしまうんだよ。
過ちを「認識」できれば、そこには反省が生まれ、謝罪や感謝の気持ちが生まれ、理解が生まれ、今より前に進んで行ける上に成長できる世界になると思うけどね。
他人に指摘された過ちに、過剰に反応してしまうのもわかる。自分は間違っていないと思いたいのもわかるし、俺だって自らの過ちを認識できていないために、友人に注意されることがある。
その場では言い訳のような自分の正当性をまくし立てたりもするが、信頼できる友人の言葉であれば、全く知らない人間の言葉よりも深く考えられ、耳を傾けられる。そうして自らの過ちを認識できることもよくある。そんな時には本当に反省できるし、心から「悪かった」と思え、謝罪も快くできる。
そうやって過ちを認識し受け入れると、反省と謝罪の気持ちにより新たな気持ちになれるというか、すっきりと気分も晴れて、前に進んでいける。
少しでいいから、自分を第三者的に見ても良くないか? それが難しければ、せめて信頼する友人の言葉には耳を傾けてみないか?
何度でも言うが、あなたが過ちを認めずに言い訳ばかりしていたら、世の中がそんな人間ばかりになってしまっても仕方がないだろう。
あなたが、あなたと同じ感情や苦痛を持つ生命を、搾取したり差別したり殺していたら、戦争も差別も搾取もなくならない。同じことだと思わないか?
戦争はなくなったか? 殺人はなくなったか? 差別はなくなったか? 搾取はなくなったか? なくしたいと思うなら、まず自分が「その行為」をやめようよ。
俺は過去に、自分の「美味しい」や「かっこいい」という欲望のために動物を殺してきた。動物もヒトと同じだ。ヒトと同じように感情があり、苦痛を感じる生命は殺したくないし、差別したくないし、搾取したくない。動物って可愛いいじゃんね。可愛いのに殺して食べるの? なんで? ってぐらい簡単な話なんだけどね。
俺は搾取や差別、苦痛で溢れる世界なんて、まっぴらごめんだ。殺し合ったり、傷つけ合ったり、憎しみ合ったりするよりも、愛し合いたい。動物にだって愛という感情はあるよ。知ってるだろう?
愛がある世界を営んでいるものたちを、一方的な欲望のために権力や暴力で破壊したり、支配するなんておかしいと思わないか? それをやっているのが自民党やイスラエル、ロシアなんじゃないの? そんなことする奴らに腹が立たないの?
あなたがやっている事実が世の中に現れているんだよ。自分が腹の立つ、憤りを感じる現実をなくすために、あなたがやっている事実を認識して、過ちを認め、反省して、新たな行動に踏み出そうよ。
この世の中を作り上げているのは、ひとりひとの人間だ。ひとりひとりの人間が、過ちを認め、殺さず、差別せず、搾取しなければ、そんな世界が出来上がる。そんな世界が良いと思わないか?
過ちを認めず、自分が正しいとだけ主張し、人を屈服させるのが楽しいか? そんなもんが楽しけりゃ、そんな世界になっちまうぜ?
俺は屈服なんかさせたくもないし、したくもねぇよ。
まずは「認識」することだ。認識さえできれば、あとはあなたの良心次第かな。
CHAOS U.K『SELFISH FEW』(利己的な少数)
決して負けないようにする
勝つことしか考えない
頭を使って新しい
人を屈服させる方法
相手が持っているものを奪う
良い友人になる
だが今、彼らは光を見た
あなたは終わりを迎える
何も与えず、いつも嘘をつく
何も与えないことで、人々はあなたのずるさを見抜く
いつも何も与えずに奪う
正直という言葉を知らない
皆にとって辛い時代だ
しかし、あなたは血まみれで見ることができない
人々はあなたのドアに列を作る
食べ物をねだる
君はただドアを叩く
くたばれと言うだけだ
*翻訳はDeepL にて。間違いがあればご指摘いただけると助かります。
CHAOS U.K『SELFISH FEW』
You make sure you never lose
You only want to win
You use your head to find new
Ways to make people give in
Taking what they have
Becoming a good friend
But now that they have seen the light
You'll come to your end
Never giving nothing, Always giving a lie
Never giving nothing, People sussed your sly
You always take without giving
You've never heard of honesty
Times are hard for everyone else
But you can't bloody see
People queuing at your door
Begging for some food
You just slam the door on them
And tell them to get screwed
VIDEO
◉CHAOS U.Kは1979年にブリストル近くで結成されたハードコア・パンク・バンドであり、80's UKノイズコアの代表格。同年代に結成されたディスオーダーやディスチャージとの活動を通じてハードコア・パンク・シーンを革新した。「SELFISH FEW」は1983年にRIOT CITYよりリリースした1stアルバム『CHAOS U.K』に収録。
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。