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1回「何に貢献している?」

第51回「何に貢献している?」

2024.01.11

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Text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)

ひとりひとりは小さな力かもしれない、しかしその小さな力が集まれば、何かが変わるかもしれないし、実際に変わる現実はある

 2024年最初のコラムになるが、能登半島地震犠牲者の方々のご冥福を祈ると共に、被災された方々へ心からのお見舞いを申し上げます。
 
 いつものように、大晦日に毎年行なっているオールナイトライブを終え、いつものように宿酔で迎えた元日に、珍しく明るいうちに目を覚ますと、地震が起きた。
 「またいつものことか」と気にしていなかったのだが、いつもより揺れが長く続く。「ん? 長いな。これは大丈夫か?」と、心に不安が生じ始める。
 まさかと思い、SNSの旧Twitter(X)を見てみると、石川県の能登半島で震度7の大きな地震が発生したというではないか。
 いつもは気分が悪くなる投稿ばかりのSNSなので、やらないようにしていたのだが、そういえばSNSを始めたきっかけは東日本大震災だった。こういうときこそ役に立つだろうと覗いてみると、津波警報なども発信されるかなりの大規模な地震だということがわかる。
 親しい友人などから新年の挨拶と共に、地震の話になる。海外でも心配してくれる友人から連絡が来るほどで、世界中で大きなニュースになっていると想像がつく。
 情報を見ていると、阪神淡路大震災や東日本大震災の時と同じような不安が広がり始め、その間にも東京ですら感じられる余震と思われる揺れがある。これはまずいぞ。
 石川県の能登半島といえば、2023年の夏に息子と一緒にイルカを見に行った場所だ(参考記事:Rooftopコラム『異次元の常識』第47回「愛のかけら」)。
 七尾市に滞在し、羽咋市や能登島などにも行ったのだが、綺麗な海が広がる風光明媚な場所で、空港から七尾市までの道のりものどかで、地元の人たちも優しく素晴らしい旅行だった。息子との旅行の思い出も鮮やかに蘇る、つい最近訪れたあの街が……。
 さらに翌日の2024年1月2日には、羽田空港での飛行機事故もあり、正月気分などどこかへ行ってしまう年明けだった。
 
 能登半島地震が非常に心配なのだが、自分に何ができるのか? といえば微力な支援ぐらいしかできない。不幸中の幸いと言っていいのかわからないが、俺自身にそんな力はなくても、俺のまわりのパンクスやバンド関係、音楽に携わる人間たちの動きは早い。様々な友人や知人が支援の方法を探っているところで、すでに動いている人間たちもいる。そういった友人や知人の信頼できるところから、微力ではあるが極力できる限りの支援をしていきたいと思っているところだ。
 やはりこういう非常時に頼りにできるのは、信頼できる友人関係の支援である。国家機関なども動くが、細かなところまで支援が届かないのが現実だ。そんなときに、経験豊富な活動を実際に行動して行なってきた友人や知人関係のボランティアには、信頼できる人間が多い。自分なりにできることを探し、信頼できるところから支援をする。すべては過去の非常時に経験してきた、実際に行き渡る支援の方法だと思っている。
 
 こうした友人や知人、主に音楽関係の人間やパンクスやロッカーなどは、普段世間からは疎まれる存在の人間たちだが、今回のような震災などの非常時にはかなり頼りになるという現実もある。
 自ら率先して選んだ生き方ではあるのだが、普段から虐げられている人間だからこそ、弱い立場や辛い状況などが容易に想像できるのだろう、いや、想像などする前に、肌感覚として「辛さ」が理解できるのだと思う。
 被災者以外にも、パレスチナやウクライナの戦争被害に遭ってしまっている人々や、外国籍を持ちながら日本に住み差別に遭っている人々。障がいを持つ人々や貧困に苦しむ人々、ホームレスの他にも、様々な被差別環境に置かれた苦痛を、自分のことのように思い、感じ、訴え、闘う人間だ。
 こうした人間たちは、総じて弱い立場や虐げられている現実を理解できる。この「他者の苦痛を思いやる心」を持つ人間たちは、普段から社会システムから外れた生き方が多いために「痛み」や「苦しみ」を敏感に感じられ、理解できるのだと思う。それだけ「弱者の苦痛」は社会の外に追いやられている現実がある。
 
 一般社会から外れていようがいまいが、生きていて容易に想像できるものが「苦痛」だと思う。人々は皆、「痛み」や「苦しみ」を避ける、もしくは退けたいと思っているはずだ。
 そうした他者の苦痛を思いやる優しい心が、今回の震災などの非常時には大きく広がっていく。
 こうした素晴らしい思いは、非常時だけではなく普段から実践していくだけで、大きく違う環境に変化していくのではないだろうか。「痛み」や「苦しみ」を、自分のことのように感じられる事態は、震災や戦時下だけではない。非常時に認識する自分の思いがあるならば、普段少しずつでいいから、その気持ちを実践していかないか?
 車椅子やお年寄り、怪我人やベビーカーにエレベーターは譲ろうよ。階段で声をかけたり、電車で席を譲ったりしようよ。大きな荷物を抱えた人が辛そうにしていたら、白い杖をついた目の不自由な人がいたら、声をかけようよ。
 あなたが容易に想像できる苦痛を、あなた以外に感じているものがいるんだよ。まずはやってみようよ。やってみなきゃ始まらない。やればわかることがたくさんあるよ。
 
 被災者が避難している場所だって、決して良い環境と言えるものでは無い。もう少しなんとかできないかと心を痛める人は多いはずだ。
 水や食べ物すら行き届かず、子どもたちが苦しんでいる。お年寄りが寒さに震えている。赤ちゃんのミルクやおむつがない。プライバシーへの配慮のかけらもない避難所。行き届かない行政支援。未だ見つからない最愛の人たち……。
 
 震災などの被災者でなくても、同じような環境に置かれているものたちは常に存在する。無理やり家族と引き裂かれ、先の見えない幽閉空間の中、清潔とは言い難い環境で身動きすらほとんどとれないまま生きるしかなく、最愛の家族さえどこにいるかすらわからない。中には亡くなってしまった家族もいるだろう。今のような環境下では、命を落としてしまうものも出てきてしまうかもしれない。最愛の子どもと引き裂かれる気持ちは、親であれば想像するだけで頭がおかしくなるだろう。
 父親や母親は一体どこにいるんだ。最愛の我が子はどこにいるんだ……。
 
 こうした事実を知り、「仕方ない」といって放っておけないだろう。
 
 現実に起きている悲しみや苦しみ、痛みを理解できるからこそ、なんとかできないかと思い、支援をしようと思い立つのだと思う。
 何ができるかは人それぞれではあるが、その思いでできることは必ずある。ひとりひとりは小さな力かもしれない、しかしその小さな力が集まれば、何かが変わるかもしれないし、実際に変わる現実はある。
 そんな思いでSNSで発信したり、ボランティアに行ったり、支援の輪を広げようとしたりしているんじゃないのか?
 
 なんで苦しんでいるものたちを見捨てておけるんだ?
 なんで悲しんでいるものたちを見捨てておけるんだ?
 なんで痛みを感じているものたちを見捨てておけるんだ?
 誰もが理解できる苦痛を感じているのに、なんで見捨てておけるんだ?
 俺にだってできることがあるはずだ。やってみよう。
 
 苦痛を感じている事実を知り「まぁいいや」とは思えない。苦痛を与えるために、汗水垂らして稼いだ金を払うなんて俺はおかしいと思う。
 苦痛から逃れたいと思うものたちへの支援は、普段の生活の中でできる。無理のない範囲でいいから、やってみようよ。
 日常のほんの少しのことでいいから、自分は一体何に貢献しているのか。それをちゃんと理解するだけで、変化は訪れる。
 苦しみや痛み、悲しみの声に耳を傾ければ、苦痛に支配されている事実がある。俺は自分のできる範囲で、極力支援をしたいと思うだけだ。
 全て同じことなんじゃないのかな。俺はそう感じている。
 
 最後に、ひとりでも多くの被災した行方不明者が見つかることを、心から願っています。

CRASS『YOU PAY』

あなたは刑務所に金を払い、戦争に金を払っている
ロボトミー手術に金を払い、法律に金を払う
彼らの命令に金を払い、彼らの殺人に金を払う
茶番劇を見るためのチケット代を払っている
 
自分が貢献していることを知る
システムの破綻に
政治汚染に
革命の可能性はない
変革のチャンスもない
君には何もない
 
彼らの言うことを鵜呑みにするな
奴らのゲームに乗るな、奴らのせいにするな
自分の頭を使え
代わりに自分の番だ
 
“謝罪” でも “節約” でもない
“やりくり” でも “やり抜く” でもない
“取る” のでもなく、“作る” のでもない
あなただけではない、狂人でもない
難しいことでも、“ふるまう” ことでもない
“まあいいや” じゃない
不可能なことだ
耐えられない
クソバカバカしい
 
(和訳は DeepL無料版を使用。ネイティヴの方や、イギリス英語の理解が深い方には間違いなどあるかもしれませんが、指摘などあれば助かります)
 
You're paying for prisons, you're paying for war
You're paying for lobotomies, you're paying for law
You're paying for their order, you're paying for their murder
Paying for your ticket to watch the farce
 
Knowing you've made your contribution
To the system's fucked solution
To their political pollution
No chance of revolution
No chance of change
You've got no range
 
Don't just take it, don't take their shit
Don't play their game, don't take their blame
Use your own head
Your turn instead
 
It's not “apologise”, it's not “economise”
It's not “make do”, it's not “pull through”
It's not “take it”, it's not “make it”
It's not just you, it's not madmen
It's not difficult, it's not “behave”
It's not, “oh, well, just this once”
It's fucking impossible
It's fucking unbearable
It's fucking stupid
Fucking stupid
 

◉CRASSは1977年から1984年まで活動し、“Anarchy & Peace”をスローガンとしたイギリスのアナーコ・パンク・バンド。“ダイヤルハウス”と呼ばれる家で自給自足の集団生活を送り、自身のレコードレーベル“CRASS RECORDS”を立ち上げ、DIY精神の基礎を確立した。「YOU PAY」は1978年発表の1stアルバム『THE FEEDING OF THE 5000』に収録。
 
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。
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Laugh Til You Die 笑って死ねたら最高さ!

著者:ISHIYA(FORWARD/DEATH SIDE)
ISBN:C0073 978-4909852-44-1
発売日:2023年8月4日(金)
価格:3,000円(税抜)
判型:A5変形
頁数:472頁
発売元:株式会社blueprint

amazonで購入

【内容】
ISHIYAが自身の体験をもとにシーンの30年史を綴った書籍『ISHIYA私観 ジャパニーズ・ハードコア30年史』、1992年に34歳の若さでこの世を去った片手のパンクス・MASAMIの生き様に迫った『右手を失くしたカリスマ MASAMI伝』に続く、ノンフィクションシリーズの第3弾。
アメリカ、オーストラリア、韓国、カナダ、スウェーデン、フィンランド、チェコ、イギリス、イタリア、オーストリア、セルビア……FORWARD / DEATH SIDEのボーカリストとして、世界各国でライブを行なってきた男・ISHIYA。その半生は、ハードコアを愛する仲間たちとの熱い信頼に支えられたものだった──。
東京での無宿生活、ハードコアとの出会い、亡き友・CHELSEAと夢見た「世界制覇」の野望、初アメリカツアーの洗礼、連日続く狂騒のパーティー、人種差別の体験、極貧のオーストラリアツアー、隣国・韓国のパンクスと築いた絆、憧れの地・イギリスでの大失態、ニューヨークに刻んだ友の魂、そしてコロナ禍を経て訪れた未知なる東欧。かつては家さえもなく東京を彷徨い歩いていたパンクスが、バンドを通じて仲間たちと出会い、世界各国で精力的にライブを行なうアーティストになるまでを、当事者ならではのリアルな筆致で綴った一冊だ。タイトルの「Laugh Til You Die」は、DEATH SIDEの楽曲名をそのまま使ったもので、著者の生き様が表れている。
カバーイラストは、同シリーズではお馴染みとなった俳優・浅野忠信の描き下ろしで、ISHIYAらのツアーをイメージしたものとなっている。帯には大槻ケンヂが「なんてレアな読書体験なんだ。ワクワクする。ジャパニーズ・ハードコアパンクバンドの海外ツアーから見た世界の景色だぜ。そんなの他にどこでも読めやしない」と推薦文を寄せている。

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