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9回「意識すれば変化する」

第49回「意識すれば変化する」

2023.11.09

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Text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)

俺たちみたいな弱いひとりひとりでも、できることがあるって意識だけでもしてみようよ

 今、この原稿を書いている現在は2023年の11月初旬なのだが、通常なら晩秋に差し掛かる時期で、なんなら暖房器具を出してもおかしくない季節にもかかわらず、気温が25度を超えている。そして俺は今、部屋の中で窓を開け、Tシャツに裸足で原稿を書いている。
 11月になった東京で、25度もあるような気温を「異常」だと思わない人がいるとしたら、移住者や子どもを除いて、それこそが「異常」だと思う。
 化石燃料の利用や畜産動物、その飼料のための農地開発など、地球環境を壊してきたのは俺たち人間の欲望だ。今後20年ほどの間に温室効果ガスが劇的に減らない限り、地球の平均気温が2度ほど上がってしまうという。こうした随所で見られる科学的な推定は「直面した現実の危機」であるのは事実だろう。
 
 歴史学者で『サピエンス全史』や『ホモ・デウス』といった著書で世界的なベストセラー作家でもあるユヴァル・ノア・ハラリ氏の『21Lessons』という本でも、重要な指摘がされている。
 
 「地球温暖化のせいで極地の氷床が解けるにつれ、地球から宇宙へ反射される日光が減る。つまり、地球はより多くの熱を吸収し、気温がさらに上昇し、氷がなおさら早く解けるわけだ。このフィードバック・ループ(フィードバックが繰り返されることで結果が増幅されていくこと)が決定的な臨界点をいったん超えてしまえば、歯止めの利かない弾みがつき、たとえ人間が石炭や石油や天然ガスを燃やすのをやめても、極地の氷が解けてしまう。したがって、私たちは自分が直面している危機に気づくだけでは足りない。今すぐ実際に何か手を打つことが肝心なのだ」
 
 他にも『21Lessons』で見ると、地球温暖化によって産業が乱れ、世界の様々な都市部でも浸水が起き、居住地域が減ることによる難民の増加など、数えればキリがないほど、この星に住む生き物全てへの影響は計り知れない。
 
 化石燃料への依存を少なくすることはかなり重要な課題であるが、そこでは「原発」という問題に直面する。
 日本に住む人々は知っているはずだ。原発が爆発し、甚大な被害が起きたことを。そして現状の核汚染水垂れ流しに至っていることを。人類の手に負えない代物であるということを。
 もちろん節電や節水、脱プラスティックなどは、今すぐ誰もができる温室効果対策である。再資源の利用も大事だろう。その上で自然エネルギー主体になっていけばいいとは思うが、それだけでは間に合わないほどの危機が、今訪れている。
 あと20年で、引き返せない地球の危機が訪れる。いま地球上に住む人間の「変化」は必然なのではないだろうか。
 
 今や地球温暖化における畜産の影響は、世界中で言われている大きな原因のひとつだ。だからといって「今すぐ肉食をやめろ。肉ばっかり食ってきたからこんな状況になっているんだ」と言っても、そう簡単に肉食の欲望を抑制できる人は少ないだろう。
 そのほかにも、病気やアレルギーなどの理由で、動物性の食品を取らざるを得ない人もたくさんいると思う。
 そこで「肉食をやめる以外にも、極力動物を殺さない方法がある」と言ったら、少しは耳を傾けてもらえるだろうか?
 大切なのは、交通事故死がなくならないからといって、無謀な運転をしないように「極力、できるだけやる」という部分だ。
 
 これから迎える冬は寒い。ダウンジャケットを着る人は多いと思うし、コートやセーターなどは防寒具としては一般的なものだ。ほかにも革ジャンやブーツもある。
 これらの衣料品に使われる革やダウン、フェザー、ウール(毛)、カシミヤ、アルパカ、モヘア、アンゴラ、キャメルなど、全て動物の皮膚や毛だ。
 動物を殺さずに皮を剥ぐのは無理なのはわかるだろうが、ダウンやフェザーの素材になる水鳥たちや、ウールの素材になる羊などの動物たちは、死体もしくは生きたまま毛をむしられる。
 死体の場合は採卵やフォアグラのためなどに殺された死体で、生きたままの場合は、麻酔もなして毛をむしられる。その痛みを想像してみてくれ。その後、毛が取れなくなった鳥は食用か飼料用として殺される。たかが服のため、たかがおしゃれのためにだ。
 
 そこでまず、これら動物性の素材が使われている衣料を、見直してはいかがだろう。化学繊維や綿で作られている製品でも、かなり暖かいし安い。革製品だってフェイクレザーがある。
 フェイクレザーは確かに革と比べれば丈夫ではないが、加工がしやすく、針と糸で手縫いができる上に、手入れも簡単だ。革の手入れに使うミンクオイルだって、動物のミンクから取られる。たかが衣料の保存のために動物を殺すことはないと思わないか?
 もし「どうしても革ジャンやダウン、ウールじゃなきゃダメだ」と言うなら、せめてユーズドの古着にしてはいかがだろう。世界中には衣料素材があふれているので、リメイクで新品のようになっているものがたくさんある。
 たかが服やおしゃれのために、いま生きている動物を新たに殺す必要はないし、別に格好よくて暖かければそれでいいじゃないか。
 
 仮にあなたが、ウールやダウン、革などの動物を使った衣料品を着るのをやめたとしよう。そこには「あ、これにはウールが入ってる。これは化学繊維だから大丈夫だ」というように、意識して避けている事実がある。衣食住の中で、動物性のものを何かひとつでも意識して避けるようになれば、他でも意識し始める。
 日々買い物するスーパーなどで、今まで当たり前だと思っていた事実に変化が起きる。
 「なんで革は避けているのに、肉は食べてしまうんだろう?」
 「なんでダウンは避けているのに、鶏肉は食べてしまうんだろう?」
 というように、意識の変化が起きるはずだ。
 こればかりはやってみると実感する事実なのだが、意識の変化が訪れたときの自分自身の「気づき」は、様々な理解が進む素晴らしい瞬間である。
 
 化学繊維のマイクロプラスチック問題にしても、漁業で利用する網やロープが海洋汚染の多くを占めている事実があり、人間の欲望のために、利用されて苦しめられて殺されている動物が少なくなれば、今より良い環境になるのは明らかだ。
 大切なのは認識することであり、せめて意識だけでもすれば、様々な状況が見えてくるんだ。
 
 「俺、肉や魚をやめられないけど、革ジャンとかブーツは新しいのを買わないようにしたよ」
 「私、お肉が大好きだけど、ダウン買うときに羽毛のものを買わないようにしたの」
 
 こんな人が増えたら、少しずつかもしれないが、いろんなものがより良い方向に変わっていくと思う。
 なぜかって? そこには「意識」があるからだ。意識していれば自ずと変化は訪れる。
 
 「美味しい」や「格好いい」といった人間の欲望で、この地球が破壊されてるんだよ。地球の未来がどうなるかは、俺たちひとりひとりにかかってるんだ。
 俺たち人間が変わらなければ、この地球が終わっちまうかもしれないんだよ。動物を殺さなければ、温室効果ガスや水の使用料に変化が起き、マイクロプラスチックによる海洋汚染に歯止めがかけられ、温暖化で沈んでしまう南洋の島々の人々を救える大きな可能性があるんだ。
 
 俺たちみたいな弱いひとりひとりでも、できることがあるって意識だけでもしてみようよ。
 意識して変化が起きたときに、地球のために、人間のために、子どもたちのために、動物たちのために、植物たちのために、自分のために良いってわかってくると思うんだけどね。
 言い訳を探して何もしないなら、何もわからないし、何も変わらないよ。やってみな。わかるから。変わるから。

SLANG『何もしないお前に何がわかる 何もしないお前の何が変わる』

何もしないお前に いったい何がわかる
何もしないお前の いったい何が変わる?
辿り着いたと… 何処についたんだ?
か細き小山の 大将となり終われ
 
くそ! くそ! くそ! くそ!
 
全て知ったと… 何を知ったんだい?
堕ち行く深さの 底も知らないくせに
 
くそ! くそ! くそ! くそ!
くそ! くそ! くそ! くそ!
 
何もしないお前に いったい何がわかる
何もしないお前の いったい何が変わる?
 
くそ! くそ! くそ! くそ!
 

◉SLANGは、1988年に北海道札幌市で結成されたハードコア・パンク・バンド。自身のレーベル〈Straight up records〉を主宰し、“SAPPORO CITY HARDCORE”を一貫して体現・標榜し続けている。「何もしないお前に何がわかる 何もしないお前の何が変わる」は、2001年に発表された3rdアルバム『SKILLED RHYTHM KILLS』に収録。
 
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。
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Laugh Til You Die 笑って死ねたら最高さ!

著者:ISHIYA(FORWARD/DEATH SIDE)
ISBN:C0073 978-4909852-44-1
発売日:2023年8月4日(金)
価格:3,000円(税抜)
判型:A5変形
頁数:472頁
発売元:株式会社blueprint

amazonで購入

【内容】
ISHIYAが自身の体験をもとにシーンの30年史を綴った書籍『ISHIYA私観 ジャパニーズ・ハードコア30年史』、1992年に34歳の若さでこの世を去った片手のパンクス・MASAMIの生き様に迫った『右手を失くしたカリスマ MASAMI伝』に続く、ノンフィクションシリーズの第3弾。
アメリカ、オーストラリア、韓国、カナダ、スウェーデン、フィンランド、チェコ、イギリス、イタリア、オーストリア、セルビア……FORWARD / DEATH SIDEのボーカリストとして、世界各国でライブを行なってきた男・ISHIYA。その半生は、ハードコアを愛する仲間たちとの熱い信頼に支えられたものだった──。
東京での無宿生活、ハードコアとの出会い、亡き友・CHELSEAと夢見た「世界制覇」の野望、初アメリカツアーの洗礼、連日続く狂騒のパーティー、人種差別の体験、極貧のオーストラリアツアー、隣国・韓国のパンクスと築いた絆、憧れの地・イギリスでの大失態、ニューヨークに刻んだ友の魂、そしてコロナ禍を経て訪れた未知なる東欧。かつては家さえもなく東京を彷徨い歩いていたパンクスが、バンドを通じて仲間たちと出会い、世界各国で精力的にライブを行なうアーティストになるまでを、当事者ならではのリアルな筆致で綴った一冊だ。タイトルの「Laugh Til You Die」は、DEATH SIDEの楽曲名をそのまま使ったもので、著者の生き様が表れている。
カバーイラストは、同シリーズではお馴染みとなった俳優・浅野忠信の描き下ろしで、ISHIYAらのツアーをイメージしたものとなっている。帯には大槻ケンヂが「なんてレアな読書体験なんだ。ワクワクする。ジャパニーズ・ハードコアパンクバンドの海外ツアーから見た世界の景色だぜ。そんなの他にどこでも読めやしない」と推薦文を寄せている。

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