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0回「殺すな」

第50回「殺すな」

2023.12.06

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Text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)

パレスチナのために抗議をする人間がたくさんいる。動物のために抗議する人間もたくさんいる。その想いに何か違いがあるのか?

 生きていく上で必要な「食」の部分で「美味しい」というのは大切な部分だろう。極端に言えば「美味けりゃなんでもいい」という部分さえあると思う。
 美味くて安いに越したことはないが、「美味しい」という感覚は誰もがその人なりに感じる、生きていて重要な要素のひとつだろう。
 
 先日、友人がやっている店が終わりになるというので行ってきた。この店は酒が飲めて美味い料理があり、店主が友人ということもあって、様々な友人たちともよく行く店だった。
 俺がお気に入りの店なので、肉や魚介類、乳製品や蜂蜜などの動物性のものを一切使わない料理を出す店なのだが、とにかく美味い。
 この料理が食べられなくなるのは非常に残念なのだが、店主が移住をして新たな目標に向かって進むための閉店なので、残念ではあるが応援したい気持ちがあり、最後には毎週行くほどになっていた。
 「動物性食品を一切使わない」という、日本では珍しい部類の店に入るので、知らない人から見れば「そういう特殊な店だから客も来なくて閉店になるのだろう」と思うかもしれない。しかし実際は、大人気のまま惜しまれつつの閉店だ。
 特殊に見えるのかもしれないが、アレルギーなどを除いて、基本的に誰でも食べられるものを出しているだけで、特殊だと感じる人のほとんどが、別に肉や魚、乳製品を使わない料理でも充分美味しいというのを知らないだけなのかもしれない。
 
 簡単な話「食べてみれば?」というだけで、自分だけが感じる自分自身のオリジナルな「美味しい」という感覚を、もう少し信じてみればいいだけだと思う。食べ物の産地や価格、食材などの事前情報を全く知らずに食べてみてどう感じるかというような部分だ。
 銭湯でいつも会うおっちゃんにも「肉食いたくなるだろ?」と毎回のように言われるが、「いや、肉って食感と油と味付けですよね?」と言うと「まぁそれはそうだな」と納得する。
 前に行った他の店の人は「油を変えればいいだけで、A5ランクの肉料理は肉を使わなくても作れる」と豪語していた。実際、その店で食べた料理はめちゃくちゃ美味かった上に、動物性ではない生卵まであり、感動したのを覚えている。
 
 植物だって生きている、動物だって生きている。生きていく上で「殺す」のは仕方のないことなので、たとえ「殺した」としても、感謝していただく。それが生命に対する礼儀だと言う人が日本には多いし、俺もそうだった。
 「植物は生きていない」なんて、誰も言ってない。
 人間だって生きている、犬や猫などのペットも生きている。植物と同じく生きている人間やペットも、礼儀を持ち感謝すれば「殺す」ことが許されるのか?
 植物だって生きているという人たちが、本当に植物の権利を思うのであれば、サッカーやラグビー、ゴルフや野球などの芝生の上で行なうスポーツを見ると、心が痛んでしまうだろう。中には抗議をする人がいてもおかしくないと思うのだが、あれだけ芝生が痛めつけられているにもかかわらず、声を上げない。なぜだろう?
 
 人間を含めた動物の生命が途切れたときに「死ぬ、死んだ」という言葉を使う。他者の手によって生命が奪われる場合には「殺す、殺された」と言うし、生命が宿っていない体を「死体」と言う。
 植物に「死ぬ」「殺す」とは言わないし、「死体」とは言いわない。薪割り用の木材の束が積まれているのを見て、誰も「死体の山」とは言わないし、ジャガイモを切るときに「殺す」とは言わないだろう。芝生の上で行なわれるスポーツを見ているときも、同じような感覚だと思う。
 こういった言葉の感覚ひとつとってみても、動物と植物の違いは誰もが認識しているはずだ。自分が認識している事実ぐらいは、認めてみないか?
 
 まぁしかし、俺がどんなに言葉を並べても、伝わらないことは多い。そこでやっぱり思ってしまう。「動物性を使用しない料理店は凄い」と。
 スプーン一杯の料理を口に入れただけで、一瞬にして1000の言葉を並べるよりも理解できてしまう。個人的にはどんな活動家やメッセージを発する人間よりも、こうした料理人たちが一番理解を広げているのではないかと思う。
 「美味しい」なんて欲望は、簡単に解決できる。先月2週目の火曜日に食べたランチなんて、覚えていないだろう? そんなものでしかない欲望のために、愛があり感情を持ち、自分と同じように痛みや苦しみを感じ、監禁されて泣き叫んで「殺さないでくれ!」と助けを求めている動物を、わざわざ惨殺して切り刻む必要はないと思う。
 
 イスラエルがパレスチナにやっていることと、人間が「美味しい」という欲望のために畜産動物にやっていることと、一体どこが違うんだ?
 病院や学校を攻撃目標にして、多くの犠牲者を出した非道な行為も「ハマスの地下施設があり、戦略拠点になっている」というような理由があった。理由があれば殺しても構わないと言っているように聞こえるのだが、違うのか?
 「いただきます。ごちそうさま」と言い、感謝しているという理由があれば、一生監禁して閉じ込めて殺しても構わないのか?
 イスラエルがパレスチナへやっていることは、ただの虐殺じゃないのか? あなたが毎日食べているものは、ただの虐殺の上で成り立っていないのか?
 パレスチナの人々にネタニヤフが礼儀を持って感謝すれば許せるのか? パレスチナの人々が、礼儀を持って感謝してくれるなら殺されてもいいと思っているはずがないだろう? 人間以外の動物たちだって同じだよ。
 
 屠殺場に連れていかれるトラックから、飛び降りて逃げ出す動物がいるのを知っているか? 仲間が殺されていくのを理解し、次は自分の番だと知り、震えて歩くこともままならない動物がいるのを知っているか?
 パレスチナのために抗議をする人間がたくさんいる。動物のために抗議する人間もたくさんいる。その想いに何か違いがあるのか? そうした想いを持つ人たちが気づいて、少しずつでいいから変わっていけば、世の中は今よりもっといい方向に向かっていけると、俺は思う。
 
 とにかく、動物性じゃない食材を使うプロの料理を食べてみてはいかがかな? なんの偏見もなく食べれば、びっくりすると思う。そりゃ多少は違うのかもしれないけど、ずっとそんな食生活だと味覚は変わる。味覚が変われば「美味しい」という感覚も変わる。「殺した」「死体」じゃなくても、美味しいものはたくさんある。
 美味しけりゃそれで良いじゃないか。「殺す」ための理由よりも「殺さない」ための理由を探さないか?
 
 世の中を変えるのは、他の誰でもないあなただよ。なんの罪もなく殺されていく生命を、なんとかしたいと思わないか? 
 あなたが「殺して」いるのに、他の人に「殺すな」と言っても、俺には「お前が言うんかいっ!」とツッコまれるのを待っているボケかと思えてしまう。決して「殺すな」という声を上げるなと言っているわけではない。
 
 「殺すな」と言うなら、あなたも「殺すな」。
 
 「殺さない」人間が多ければ多いほど、素晴らしい世界になると思わないか? みんなが「殺さない」なら、戦争だってなくなるかもしれない。
 イスラエルがパレスチナにやっていることを見てみなよ。自民党が国民にやっていることを見てみなよ。
 俺たちゃまるで動物さ。

亜無亜危異『缶詰』

同じ人間ばかり作って行こうとするのさ
俺たちゃ大量生産の缶詰と違うぜ
あれしちゃダメダメ これもダメ
ギュウギュウ押し込め 入れたがる
扱いやすいように そんなものこわしてGO GO GO
 
やめろ! チクショウ! あることねぇこと言うのは
やめろ! チクショウ! 手前らなんか用は無ぇ
やめろ! チクショウ! あることねぇこと言うのは
やめろ! チクショウ! 手前らなんか用は無ぇ
 
やりたい時にはいつでも いつでも奴らはそうさ
何から何まで取り上げ 俺たちゃまるで動物さ
首には首輪をかけられ 手には手錠をはめられ
ゴミ溜め入れられおしまいさ 身動き一つできねぇ
 
やめろ! チクショウ! あることねぇこと言うのは
やめろ! チクショウ! 手前らなんか用は無ぇ
やめろ! チクショウ! あることねぇこと言うのは
やめろ! チクショウ! 手前らなんか用は無ぇ
 

◉亜無亜危異(アナーキー / ANARCHY / 亞無亞危異)は、1978年に埼玉県和光市の団地育ちの幼馴染み5人で結成された日本屈指のパンク・バンド。1980年にシングル『ノット・サティスファイド』、アルバム『アナーキー』でビクターインビテーションよりメジャー・デビュー。1986年に“THE ROCK BAND”と改名、1996年に新メンバーを加え活動再開したが、2001年に再び活動休止。“マリ”こと逸見泰成の逝去を受け、2018年に不完全復活を果たしたものの、2024年3月をもって無期限の“活動禁止”(休止)とすることを先ごろ発表した。「缶詰」は、1980年発表のファースト・アルバム『アナーキー』に収録。
 
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。
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Laugh Til You Die 笑って死ねたら最高さ!

著者:ISHIYA(FORWARD/DEATH SIDE)
ISBN:C0073 978-4909852-44-1
発売日:2023年8月4日(金)
価格:3,000円(税抜)
判型:A5変形
頁数:472頁
発売元:株式会社blueprint

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【内容】
ISHIYAが自身の体験をもとにシーンの30年史を綴った書籍『ISHIYA私観 ジャパニーズ・ハードコア30年史』、1992年に34歳の若さでこの世を去った片手のパンクス・MASAMIの生き様に迫った『右手を失くしたカリスマ MASAMI伝』に続く、ノンフィクションシリーズの第3弾。
アメリカ、オーストラリア、韓国、カナダ、スウェーデン、フィンランド、チェコ、イギリス、イタリア、オーストリア、セルビア……FORWARD / DEATH SIDEのボーカリストとして、世界各国でライブを行なってきた男・ISHIYA。その半生は、ハードコアを愛する仲間たちとの熱い信頼に支えられたものだった──。
東京での無宿生活、ハードコアとの出会い、亡き友・CHELSEAと夢見た「世界制覇」の野望、初アメリカツアーの洗礼、連日続く狂騒のパーティー、人種差別の体験、極貧のオーストラリアツアー、隣国・韓国のパンクスと築いた絆、憧れの地・イギリスでの大失態、ニューヨークに刻んだ友の魂、そしてコロナ禍を経て訪れた未知なる東欧。かつては家さえもなく東京を彷徨い歩いていたパンクスが、バンドを通じて仲間たちと出会い、世界各国で精力的にライブを行なうアーティストになるまでを、当事者ならではのリアルな筆致で綴った一冊だ。タイトルの「Laugh Til You Die」は、DEATH SIDEの楽曲名をそのまま使ったもので、著者の生き様が表れている。
カバーイラストは、同シリーズではお馴染みとなった俳優・浅野忠信の描き下ろしで、ISHIYAらのツアーをイメージしたものとなっている。帯には大槻ケンヂが「なんてレアな読書体験なんだ。ワクワクする。ジャパニーズ・ハードコアパンクバンドの海外ツアーから見た世界の景色だぜ。そんなの他にどこでも読めやしない」と推薦文を寄せている。

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