異次元の常識 text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)
もうテレビに振り回される時代は終わりにしよう
まだインターネットや携帯電話などという代物がなかった俺がガキの頃には、テレビという存在は娯楽の中心だった。ドリフターズを見て大爆笑し、プロレスや野球、相撲は大人たちばかりか子どもまでもがその試合や結果に一喜一憂させられた。
テレビはほとんどの家庭にあるという意味で「テレビジョン」という名前をつけたバンドがいるほど、生活の中心と言っても過言ではないものがテレビだった。
兄弟がいれば、1台しかないテレビの番組のチャンネル争いが家庭内で起きていただろう。子どもたちの遊びでさえテレビから得たものが多く、子どもの頃にテレビで放送しているものの真似をして遊んだ人が、かなりの数でいるのではないだろうか。
それほどまでに生活の中心を占めていたテレビだが、まだテレビのなかった時代を知る祖父や祖母といった年齢の人たちに、子どもの頃テレビにかじりついているとよく言われた言葉がある。
「テレビばっかり見てるとバカになるぞ」
テレビばかり見てバカになった世代が、現在この国で大人として社会の中心にいる。祖父や祖母の年代の人間たちが、未来を予見していたかのような社会になっていないか?
戦争を経験した祖父や祖母たちの時代とは違い、現代は様々な娯楽があるにもかかわらず、未だにテレビによって一喜一憂している人間の多さには驚くばかりだ。
おそらくではあるが、子どもの頃に娯楽の王様として君臨していたテレビという幻想が、今の大人たちが気づかないうちに心の奥底に根深く巣食っていると思わざるを得ない。
現在、老人となっている世代も、俺がガキの頃の大人たちである。それを考えてみても、テレビという装置は人々の心を操作できるほどに進化し、テレビによって「考える」ということをしない人間を作り出すことに成功した事例だろう。
恐ろしいことに、テレビの情報が欲しくないために見ないようにしている俺にでさえ、インターネットによってテレビで何をやっているかが分かってしまう。どれだけの人間が未だにテレビを信仰しているかが分かるし、非常に恐ろしい装置であると思わざるを得ない。
テレビで放送されるもののほとんどが、宣伝と広告である。中には良質なドキュメンタリーもあるのだろうが、9割以上の番組は何かしらの宣伝や広告のために存在している。
おそらくテレビ局を持っている会社やスポンサーなどの意向によって、何を宣伝し何の広告番組を作るかが決まるのだと思う。それは当然虚飾にまみれた世界であり、真実などとは対極にある世界であるということを、どれだけの人間が気づいているのか疑問である。
事実2021年9月現在、各局で躍起になって放送されているという投票もできない自民党総裁選によって、コロナ対策の失態で急落した自民党政権の支持率が上がっているというではないか。そこまで簡単にコロコロと手のひらを返せる国民を作り出すことに一役を買ったのも、テレビという装置だと思う。
気づかないうちに深層心理に入り込んでいることは、子どもの頃に見ていた大人と、今の大人になった自分たちを比べてみても分かるだろう。
祖父や父親などがニュースだけはチャンネルを譲らない家庭があったはずだ。現代でもほとんどテレビを見ない人間にもかかわらず、ニュースだけは見るという大人は多くいる。
ニュースもテレビの番組であり、目的は視聴率であることは明白な事実なのに、ニュースだけは信じる人間の何と多いことか。
おまけにどこのチャンネルを見ても、大差のない内容ばかりであるにもかかわらず、ニュースだけはテレビ番組ではないというような幻想を刷り込まれてしまっているとしか思えない。フィクションのテレビドラマとニュース番組に、どれほどの差があるのか甚だ不思議である。
ワイドショーやニュースを見て文句を言う大人たち。これはテレビ放送が始まって以来変わらずに継続されている事実だろう。はけ口としての役割とともに、諦めを刷り込み、笑いと感動で真実を覆い隠す。
そんなインスタントな笑いや感動に慣れてしまった人間の未来には、一体何が待ち受けているのだろう。答えは今現在のこの国の状況を見れば一目瞭然だ。
国家という機関は、国民を統率するためにはどんなんことでもやるだろう。国家でなくても会社でも学校でも、人間の集合した社会であれば、統率する人間の思いで環境は変わる。
残念ながら今の日本という国家は、嘘で塗り固めた国民の生命を蔑ろにする人間たちによって統率されている。そんな国家の宣伝や広告の一番手を担っているのが、テレビという機関と装置である。
幸い今の子どもたちはテレビ離れが進んでいるという。しかしこの先には、デジタル社会の恐怖が待ち受けているだろう。テレビで騙された人間と同じく、デジタル社会に騙される人間が増えていくのを想像するのは容易だ。
実際、デジタル社会に騙され、やめられない自分がいることも認識している。自分が騙されている事実を認識しているだけ、まだマシだとは思いたいが……。
何重にも仕掛けられた罠は巧妙だ。がんじがらめにされて動けなくなる前に、簡単に見極められるシステムがテレビという装置と機関であると思う。そんなことは分かっている人間が多いとは思うが、それでもテレビを見れば、気づかぬうちに確実に刷り込まれ騙される。
もうテレビに振り回される時代は終わりにしよう。バカなダンスを狂った奴らに操られて踊らされるぐらいなら、多少かっこ悪くても自分のダンスを踊ったほうが、テレビに映し出されるものより、はるかに豊かな生活が送れるだろう。
「T.V. EASY」SYZE
俺たちかろうじて今日ここで生きてる
夢なんか見る暇もなく時間に追いたてられて
いろんな奴等がひしめき合って生きてる
だけど誰一人満たされた奴はいないさ
T.V.は誰もが簡単に幸福になれると言うけど
そんなもの実際どこにもありゃしない
気が付かないうちにお前の中に忍び込み
俺達の不満や怒りはすっかりもみ消されるのさ
世界中の有りとあらゆるニュースが溢れる
だけど目の前で起きてる出来事が
いったい何なのか誰も分からない有様さ
俺達の頭は混乱で破裂しそうさ
T.V.は何でも簡単に解決してしまうけど
ブラウン管に映し出された見事な作り事
昼のショー番組をあんたは見終わると
さっきまでの悩みはすっかりもみ消されているのさ
T.V. EASY
ごまかしはたくさんさ
T.V. EASY
FOOLなDANCEは御免さ
T.V. EASY
気休めのJOKEさ
T.V. EASY
血まみれのPARODYさ
俺達かろうじて今日ここに生きてる
夢なんか見る暇もなく金に追い詰められて
いろんな奴等がひしめき合って生きてる
だけど誰もが見えない鎖に縛られ
T.V.は誰でも簡単に自由になれると言うけど
ブラウン管に映し出された見事な作り事
昼のショー番組をあんたは見終わると
さっきまでの悩みはすっかりもみ消されているのさ
T.V. EASY
ごまかしはたくさんさ
T.V. EASY
FOOLなDANCEは御免さ
T.V. EASY
気休めのJOKEさ
T.V. EASY
血まみれのPARODYさ
T.V. EASY
T.V. EASY
T.V. EASY
FOOLなDANCEさ
伊藤耕、川田良、中嶋一徳、マーチンがTHE FOOLSの結成前に活動していたSYZE。4曲入りライブ音源『UPPER NIGHT』が唯一の作品だったが、現在はそのライブの完全版として『UPPER NIGHT Revisited』というタイトルでCD化されている。
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。