text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)
強者の欲望のために、権力や暴力を振りかざし、弱者から搾取して奪い、命を蔑ろにする行為は戦争と全く同じではないか?
日本ではやたらと目の敵にされ、明確な理由もなく断罪される“ヴィーガン”というライフスタイルの人間たちがいる。
牛、豚、鶏、魚、蜂蜜、ミルク、卵などの動物性のものを、極力可能な限り食べない、身につけない、動物実験をしているメーカーを使用しないという、動物の生きる権利を理解し、守り、伝えようとする人々だ。
もちろん完璧にできるなどとは思っていない。肉食をなくしてほしいとは思うが、それはとても困難であるし、畜産業や漁業を撤廃するのも困難だ。農業でも害虫や害獣駆除はあるだろう。
ヴィーガンが絡まれる場合に一番多いのが「植物だって生きている」というものだ。ヴィーガンたちの間では「プランツゾウ」と言われるお決まりの反論なのだが、ヴィーガンが「植物が生きていない」などとは、ひと言も言っていないのを理解してほしい。
植物も生き物だと感じている優しい心の人たちは、牛や豚が食べるものが植物であることは知っているだろうか? そして動物たちがどのくらいの量の植物を食べるのか? その餌となる植物を作るためには、どれだけの森林が破壊されているかを調べてくれないだろうか。植物の生命を大切にするのであれば、牛や豚を肉として消費しない行動がベターな選択だとわかるはずだ。
(ちなみに、牛肉1kgの生産に必要な穀物量は、とうもろこし換算で11kg。豚肉では6kg、鶏肉では4kg。農林水産省HPより)
植物も動物も人間も生きているのだから、極力可能な限り生きているものを殺さないように努力しているのがヴィーガンだ。少なくとも俺はそうである。
何も極端なことは言っていない。「交通事故はなくならない」という理由で、交通ルールを無視しためちゃめちゃな運転はしないはずだ。みんな事故を起こさないように気をつけて運転する。それと全く同じで、自分という人間と同じ痛みや苦しみ、喜びや悲しみを感じる動物が殺されていくのを、少しでも減らしたいと思っているだけだ。
過激だと言われ、「自分の勝手を押し付けるな」とよく言われるヴィーガンだが、先日もAbema TVでひとりの女性ヴィーガンをゲストに招き、周りにいる人間でいじめて吊るし上げるようなヴィーガンを貶める番組があったという。
筆者はその番組を観ていないのだが、司会のお笑いタレントがTwitterで「ヴィーガンなのは勝手だけど、頼むから押し付けないでくれ」といった内容の呟きで、尋常ではない数の賛同を得ているところを見ても、日本ではまだまだ動物の生命を軽んじて蔑んで差別する生き方が常識のようだ。
差別と言うと言い過ぎに聞こえるかもしれないが、最近出てきた「ねこホーダイ」という、猫のサブスク事業は批判の的になるが、同じ感覚を牛や豚などには思わない時点で、猫と牛や豚などを分け隔てて考えているではないか。
猫や犬などの動物と、牛や豚などの動物の何が違うのか考えてみてほしい。もしそこに違いがあって分け隔てているのであれば、それこそが差別である。まさか猫や犬と、牛や豚などが違うなんていう人間はいないとは思うが。
自分より弱く、言葉が通じないもたちのが、泣き叫んで訴えても監禁され、傷つけられ、レイプされ、子どもを奪われ、殺されてしまうのをやめないかと言っているだけで、何も押し付けてはいない。それは押し付けなのか?
自分の「美味しい」という欲望のために、自分と同じ苦痛を感じるものに対して、監禁して殺したり傷つけたり、レイプしたり子どもを奪う行為を「押し付け」というのではないのか?
日常的に生活の一環として、死や虐待、監禁などを動物に押し付けている人たちが、それをしないように極力努力している人に「押し付けるな」と言う摩訶不思議が日本には存在している。同じ地球上でなぜここまで違うのだろう。
痛みや苦しみ、喜びや悲しみなどを、人間である自分たちと同じように感じる生き物を殺さないようにしたいだけで、それほど難しいことは言っていないのだが、日本ではどうしてもみんな「押し付けるな」「植物だって生きている」というところから先に進んでくれない。
それほど肉の美味しさというものは麻薬よりもひどい中毒症状で、肉を食べなければダメだという洗脳は、統一教会などと比べ物にならないほど強固に日本では浸透していると実感する。そりゃ自民党が常に選挙で勝つのも当たり前だ。自分すら変えられない人間が、他のものを変えられるわけがない。
前回のコラムでも書いたが、2022年11月23日から11月28日まで、バンドのツアーで東欧のオーストリアとセルビアに行ってきた。ヨーロッパやアメリカに行くと、その辺りの事情がまるっきり違ってくる。今回、東欧に行ったのだが、ヴィーガンは当たり前のように認識され、経験上、日本のように無理やりな理由を作り上げて攻撃されることはない。
日本では外出時にヴィーガン食を見つけるのはひと苦労である。それでも最近はまだマシになってきたとは思うが、価格が高いために頻繁に外食するのは難しい。
ヴィーガンの食品や製品もかなり出てきてはいるが、やはり価格が高く、手軽にヴィーガン生活が送れないという現実はある。
しかし実際に生活してみると、外食は高いので自炊が多くなるために、料理の腕が上がる。肉よりも野菜のほうが同じ値段で量が多いので腹も膨れる上に、外食もあまりしなくなるため支出も抑えられる。
肉食時代には食器用洗剤の強い洗浄力がないと、フライパンや鍋の調理器具と皿などの食器類の脂が落ちなかった。しかしヴィーガンの食事になると、ほとんどがお湯だけで洗い流せる。それだけしつこくこびりつく動物性の脂を食べているということは、体の中も同じだろうなと想像はつく。個人的にはヴィーガンになってから、花粉症が出なくなった。
しかしヨーロッパのヴィーガン事情は、食事だけをとってみても非常に素晴らしかった。
飛行機の機内食はもちろん、空港の売店でも普通にヴィーガン食は手に入る。街を歩いていても、その辺にあるサンドウィッチやポテトを販売するようなファストフード店や、高速道路のパーキングエリアのショップでも、普通にヴィーガン食の選択肢がある。
街中のレストランでは当たり前で、ウィーンのレストランで出されたサラダのチーズなど、本物のチーズかと思い、店員に確認すると「これはアーモンドミルクで作ったものだから大丈夫よ」と、ニコッとしながら言ってくれた。
パンも基本的に、日本のようにミルクなどの余計なものが入らない小麦と水で作られていて、重量感もあって腹に溜まる上に美味しい。
このときは、ヨーロッパ中から集まった人間でごった返したパーティーのような食事会だったのだが、大勢の人間がいても、注文を取るときは当たり前に「ヴィーガンの人は誰? ベジタリアンの人は誰?」というように、最初から理解された上で話が始まる。そこに否定や非難、攻撃や不満などひとかけらも存在しない。
セルビアで入ったレストランでも「ヴィーガンの料理は何ですか?」と聞くと、メニューを指差し「これとこれがヴィーガンです。このマークのものがヴィーガンになります」というようなことを言ってくれるなど、日本との大きな違いには非常に助かった。
日本の選択肢の少なさは、やはり少し異常と言っても過言ではないレベルだと感じられる。
日本では「代替え品である大豆ミートなどを食べているのだから、肉への欲望があって我慢している」という話もよく聞く。
しかしヴィーガン生活を続けていると、肉や魚、乳製品を全く欲しない。逆に動物性のものが入っていると、匂いや味でわかるようになる。
中には本当にわからない場合もあるが、そういうときには体調に変化が起きる場合もある。わざわざ味がわからないようにして出されない限り、ヴィーガンの人はだいたいわかるようにはなっていると思う。
ヴィーガンの人たちのほとんどは、元肉食者だろう。肉食の経験を経てヴィーガンになっている。中には体が受け付けなかった人もいるだろうが、基本的に肉がどういうものか知っている。当然、現在ヴィーガンやベジタリアンではない人と同じように、肉を「美味しい」と思って食べていた。でも変わったんだ。自分のためではなく動物のために。自分の健康のためだって全然構わない。そこには生命の搾取が極力抑えられた現実がある。
見た目の違いや言語の違い、論理的思考能力の違いや身体能力の違い、障がいの有無や出自の違い、性別の違いなどで分け隔てたり、危害を加えることを「差別」だと思っているのだが、それは間違いなのだろうか。
誰もが殺されたくはないだろうし、個々の差はあっても、雪が降るような日は寒いし、カンカン照りの真夏は暑い。殴られれば痛いし、刃物で切られれば痛い。
身動きの取れない場所に一生閉じ込められるのは嫌だし、生まれてすぐ親子が引き離され、我が子が殺されるなんて嫌だ。
多少の違いはあっても、人間も人間以外の動物も、同じような思いであることは確実だ。猫や犬などのペットを飼っている人ならわかるだろう。
前回のマスクやワクチンの話でも書いたが、他者へのほんの少しの思いやりがこの国にはないのか?
「育てた責任を持って」「感謝の気持ちで」「文化として」そんな理由で殺されてたまるか。お前はそんな理由で殺されて納得いくのか?
強者の欲望のために、権力や暴力を振りかざし、弱者から搾取して奪い、命を蔑ろにする行為は戦争と全く同じではないか。そんなことを続ける限り、戦争も差別もなくならない。
あなたにできることがあるんだよ。あなたが救える生命があるんだよ。それを受け入れることが、そんなに難しいことなのだろうか。
EXTREME NOISE TERROR『MURDER!!!』
英国で毎年4億5千万もの動物たちが殺戮されている
貴様の喉から押し込まれ、尻からひり出される
MURDER!!!(殺人)
楽しみのために殺される動物たち
消費者の娯楽のために虐殺される
楽しみのために殺される動物たち
貴様のクソっ垂れた屠畜場で殺戮される
MURDER!!!
圧搾空気で頭の奥深くにボルトが撃ち込まれ
骨は砕け血が噴き出る
それでも貴様はこの狂気を支持する
テレビの洗脳広告はこの現実を隠蔽する
痛みと拷問は決して晒されない
MURDER!!!
もはや数百万の罪無き動物たちへの無意味な虐殺は正当化できない
残酷で冷淡な“動物愛護の国”
英国で毎年4億5千万もの動物たちが殺戮されている
貴様の喉から押し込まれ、尻からひり出される
楽しみのために殺される動物たち
消費者の娯楽のために虐殺される
MURDER!!!
MURDER!!!
今すぐ止めろ これは無意味な殺戮だ!!
▼YouTube / VEGAN usuba.K47 チャンネルより
◉Extreme Noise Terror(エクストリーム・ノイズ・テラー)は、1985年にイングランドのイプスウィッチで結成されたハードコアパンクバンド。当初からツイン・ボーカルの5人編成で、2人が交互に濁声ボーカルをとっていくスタイルが特徴の一つ。「MURDER」は、1986年に発表されたCHAOS U.K.との名盤スプリット『Radioactive Earslaughter』に収録されている。
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。