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7回「未来を変えろ」

第37回「未来を変えろ」

2022.11.08

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text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)
 

絵画の破壊と地球環境の破壊、どちらがひどい行為なのだろうか?

 2022年10月14日に、ロンドンの美術館ナショナル・ギャラリーで、展示中のファン・ゴッホの名画「ひまわり」に、環境活動家がトマトスープをぶちまけるという事件が起きた。
 
 イギリスの環境活動団体である「JUST STOP OIL」のメンバーが行なったもので、他にも10月23日にはドイツ東部ポツダムのバルベリーニ美術館に展示されているクロード・モネの名画「積みわら」にマッシュポテトを投げつけ、27日にはオランダ・ハーグのマウリッツハイス美術館に展示中のフェルメールの名画「真珠の耳飾りの少女」に男性が頭部を糊付けし、一緒にいた別の活動家は作品近くの壁に手を固定し、液体を投げつけたという。
 ファン・ゴッホの「ひまわり」にトマトスープを投げつけたときには、一人が「絵画と、地球と人々の命を守ること、どちらが大切なのか」などと叫んでいたようだ。
 他にも「JUST STOP OIL」のメンバーかどうかはわからないが、5月にはパリのルーブル美術館で、レオナルド・ダ・ヴィンチ作の超有名絵画「モナ・リザ」にケーキを塗りつけたり、7月にはイタリア・フィレンツェのウフィツィ美術館でサンドロ・ボッティチェッリの名画「春(プリマヴェーラ)」に手を接着するなど、今年になってからヨーロッパで絵画を標的にした環境活動家の抗議活動が盛んに行なわれている。
 ファン・ゴッホの「ひまわり」に投げつけるものとして、トマトスープを選んだ理由は「イギリスのガス価格高騰により、トマトスープ缶を温めることすらできない人間がいる」という主張であり、英国政府に化石燃料に関するすべての新規プロジェクトの停止を訴えるためであるという。
 実際、美術館の絵画を高額で取引をするような人間たちは、ガスの価格が高騰してもトマトスープ缶が温められなくなることはないだろう。世界的名画と言われる高額な有名絵画であれば、作者が存命のものなどないために、絵画の取引によって作者が金銭的にも生活的にも潤うことはない。
 トマトスープを投げられた絵画「ひまわり」の作者であるファン・ゴッホは、存命中に自分が描いた絵が売れることはなく貧困生活を送っていたため、現代であれば恐らくトマトスープ缶を温められない側の人間であっただろう。そんなアーティストたちは、世界中に無数に存在する。
 しかしこの環境活動家たちや団体は、誰もが憤りを覚え、怒り、ひどいと思う行為を、なぜわざとおかすのだろうか。ネット上でよく起きる、批判で溢れかえり反対に注目を集める結果となる、炎上商法と同じ感覚なのだろうか? それとも、世界的有名絵画を汚すという手法で訴えるアートなのだろうか?
 フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」に、頭部を糊付けした男性たちの一人が言っていた言葉がある。そこには単なる目立ちたがりで、金儲けや売名行為のためだけの炎上とは違う、自分以外の存在に対しての心があるように感じられる。
 
 「美しく希少価値のあるものが目の前で破壊されるのを見る気持ちは、地球が破壊されるのを見る気持ちと同じだ」
 
 この活動家たちが見るに耐えない、許し難い行為をしていると感じるならば、あなたは地球環境に対して同じことをしていないだろうか? この環境活動家たちと私たちの地球環境破壊行為を比較してみると、私たちのほうがよりひどい破壊行為を行なってはいないのか?
 この活動家たちの行為に憤る人間たちは多い。しかしその中に、日々の日常を、いつものように何気なく暮らしている中で「自分がどれだけ地球環境を破壊する行為をしているのか?」と、考える人はいるのだろうか?
 地球環境の破壊行為に気づいた上でも、何もせず「仕方ない」と言ってあきらめる。もしくは自らの欲望を優先させて、またいつものような日常に戻り、地球環境を破壊する行為を繰り返すのだろうか?
 
 この活動家たちは、事前に調べて絵画作品がコーティングされていたり、ガラスで覆われていることを知った上で犯行に及んでいる。
 環境破壊に反対する活動家であるため、本当に破壊してしまうのは良くないことであると、重々承知の上での行為ではないかと感じられる。
 この活動家たちのやり方はひどいと思うし、やり方として良いとは思わない。他の方法もあるだろうが、この行為が注目を集めたのも事実である。これほど注目を集めるひどい行為でなければ、ひっ迫している危機的状況の地球環境に、誰も見向きをしないからとも感じてしまう。
 この行為に許せない怒りやショックを受けたならば、あなたは地球環境の破壊に対して、同じかそれ以上の怒りを感じ、ショックを受けたことがあるのだろうか?
 絵画と地球環境の破壊では、いったいどちらがひどい行為なのだろうか?
 この活動家たちの行為は許せずに、怒りや憤りを覚えショックを受けるが、あなた自身が地球に対して行なっている行為に対しては、怒りや憤り、ショックは感じずに許される行為だと思うのだろうか?
 この活動家たちが行なった行為は、あなたが地球環境に対して行なっている行為とどこが違うのだろうか?
 
 そんな疑問を感じる心を持つ人間が多ければ、絵画破壊のような行為もなくなり、地球環境の破壊も今より少しは緩やかになっていくのではないか? と感じるのは、俺の頭がおかしいからなのだろうか……。
 
 こうした行為により「環境活動家は過激だ」と、思ってしまう人間がいるだろう。ただし、あなたも同じかそれ以上に過激な破壊行動を、日常的に行なっていると気づかせてくれる行為であるのかもしれない。
 決してこの活動家達の行為を認めろと言っているわけではないし、この行為が正しいと主張しているわけでもない。この事件によって提起された問題を考えるだけでも、今より少しは良くなると思えるだけだ。
 この活動家たちのやり方が嫌いで、怒りが沸いても憤ってもいいし、理解できる部分があってもいい。
 大切なのは、危機的状況に陥っている地球環境の破壊に対して「あなたが何をするか?」である。
 
 最近の気候はおかしいと思わないか? 四季の温度や移り変わりの雰囲気、季節感などが、自分が子どもの頃に感じていたものと同じだと思えるか? その感覚は、ただ単に大人になったからという理由だけで済まされない、明らかな「異常」だと感じている人も多いはずだ。何かがおかしいと感じている人は多いはずだ。
 私たちが破壊してしまったものを、子どもたちの未来やこれから生まれてくる生命に押し付けるなんて、恥ずかしくて顔向けできないではないか。あらゆる生命を育む地球に申し訳ないではないか。
 私たちがやるべきことは、私たちが破壊してしまったものを、極力今より良いものにして、未来に繋げていくことだと思う。
 見るに耐えない、憤りを覚えるショッキングなひどい行為をなくすために、あなたにできることが必ずある。
 未来を変えろ。
 
 
鉄アレイ『FORCE』
 
未来を変えろ まだ見ぬ子供達へ
 
おごれる鎖の国 コケが生えて行き
おぼれる鎖の国 ワラをつかむ力もなく
おごれる鎖の国 巧みにワナを張り
意志も意識も泣き声さえも奪っていく
 
揺れる言葉は真実じゃねぇんだ
奴らは本音を言いやしないぜ
騙し擦り込み 何だってするのさ
今すぐ闘っていけ
 
未来を変えろ まだ見ぬ子供達へ
 
気が付きゃこの手は 鎖につながれ
身動き一つできやしねぇ
弱者がつねに弱者を狙う
鎖のシステムが
 
揺れる鎖は永遠じゃねぇんだ
自分の意志を奪いかえし
鎖引きちぎり 泣き声をあげろ
今こそ闘っていけ
 
未来を変えろ まだ見ぬ子供達へ
未来を変えろ
未来を変えろ
未来を変えろ
未来を変えろ
未来を変えろ
未来を変えろ
未来を変えろ
未来を変えろ
未来を変えろ
 
 
◉鉄アレイは1983年に結成された日本のハードコアパンクバンド。『FORCE』は1996年にHG Factより発表された7インチシングルで、ギタリストが丈太郎にチェンジしての初の音源。R&R、ハードロックの要素を交えた鉄アレイ流のハードコア・サウンドは唯一無比のテンションとエナジー。1997年発売のEPは長らくプレス切れとなっていたが、2010年に再発された。
 
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。
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著者:ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)
ISBN:C0073 978-4909852-27-4
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